約束の島で
青い空と果てしない海に囲まれたラパ・ヌイ。
『イースター島』といったほうが、なじみ深いかな。
俺たちが乗った飛行機は激しい衝撃を伴って着陸した。
荷物を背負ってタラップを降りる。
島の大地に足を付けた俺は、両手を大きく広げて、深く深呼吸をした。
一月のイースター島は夏、真っ盛り。
潮風を含んだ亜熱帯性の独特の空気が心地よくもあり、悪くもある。
島の静けさと壮大な風景に圧倒されながら、しばしその場に立ち尽くした。
(椿ちゃんも、来てみたかっただろうなぁ)
周りを見渡すと低い丘陵が連なった先に少し突き出た山が見える。
あれが”ラノ・カウ山”かな。
『シロくーん、こっちよー』
空港の建物付近で、峰岸さんが手を振っている。
「昇くん、はやくはやく♡ モアイがあたしたちを待ってるよ?」
真鍋に急かされて、空港の建物に入る。
そこで俺たちは、思いがけない人物と再会した──
「ぇ? え? 椿ちゃん? 椿ちゃんだよね? ぇえ!?」
そう、そこには、一ノ瀬椿の姿があった。
「椿ちゃん……え? そっくりさん? だれ?」
「どうもぉ~『牧瀬 つばめ』ですっ!」
「まきせ、つばめ……さん?」
「ぇえ~! うそだぁ~! 椿ちゃんだよぉ~! 絶対! 絶っ対、椿ちゃんだよぉ~(うぇ~ん)」
真鍋は泣き出してしまった。
「あらら、ごめん、ごめんって、凛~、泣かないで? ね?」
「ぼらぁ~、やっばり、椿ぢゃんだぁぁぁああああー……わぁぁぁあああん」
「え、どうして? どうなってんの?」
しばらく様子を見ていた峰岸さんだったが、思いがけず大騒ぎになりつつあったので、真鍋をなだめながら、ひとまず空港を出た。
◇ ◇ ◇
空港を出てから2ブロックほど移動して、観光客向けのレストランに入った。
真鍋も少し落ち着いたようなので、じっくりと話を聞かせてもらうことにする。
雰囲気を察するに、峰岸さんはある程度の事情は知っていたようだ。
「《《あたし》》が事故で死んだ、あの夜……芹沢に呼び出されてたの。”他人に聞かれたくない重要な話があるから”って。『Diffusix』の話だってことはピンときたんだけど、あいつ、絵を売ったのは昇だって言い出して……アッタマきてスグ帰ったのよ」
(芹沢さん、もう居ない人に言うのもアレだけど、アンタ最低だよ……)
「でね、道歩いてたら、全身あたしとウリふたつな《《美少女》》とすれ違ったのよ」
(ん?)
「体形も服装も、髪形も一緒でね、お互い上から下まで見つめ合って、あははって笑って別れたんだけど……すこし歩いたら、後ろから急ブレーキの音が聞こえてきて、あとなんか嫌な音も……。で胸騒ぎがして戻ってみたら、軽トラックが爆走してって、あたしと同じ服装の《《美少女》》が血まみれになってて……芹沢が逃げていくのが見えた」
(ちょいちょい語弊がありそうだが、今は黙っておこう)
「そこからは、ちょっと記憶が曖昧なんだけど、その美少女が持ってたバッグと、あたしのバッグを取り換えて、その場から立ち去ったんだと思う……。気が付いたら、知らない家のベッドで寝かされてて……知らないおじさんが居て。あ、変なことされたわけじゃないよ? なんか、ふらふら歩いてたあたしを、助けてくれたみたいで」
「つまり……その時の事故で亡くなったのは、”牧瀬つばさ”っていう《《美少女》》で──今、目の前にいるお前は、タダの一ノ瀬椿……と」
「ま、まあ、そうね。何か言い方にトゲみたいなの感じるけど、そういうことよ」
「椿ちゃんが生きててくれて良かったよぉ~(うっうっ)」
(確かに、椿ちゃんが生きていたことは嬉しいが、身代わりとなって死んでしまった人がいる……)
「その、”牧瀬つばさ”って子の……家族とか、は?」
椿ちゃんは、”牧瀬つばさ”の運転免許証を見せてくれた。
驚いたことに、顔もよく似ている。美少女かどうかは、置いておこう。
「あたしを助けてくれたおじさんがね、探偵みたいな人だったのかな? 色々調べてくれて……つばささんは天涯孤独だったみたい。養護施設で育って、自立したあとも人付き合いはほとんど無かったみたいだって」
「奇跡みたいな話だな……」
「ねー。びっくりだよ。で、そのおじさんに色々と経緯を話したら、名乗り出るのは危険だから、お前は”牧瀬つばさ”として生きる覚悟をしとけって言われて……」
「名乗り出ると危険?」
「うん。『Diffusix』関連で世界中が狙ってるからって。状況が落ち着くまでで良いから、とにかく今はじっとしてろって言って、セーフハウス? なんか、そこに住んでていいから~って」
峰岸さんの様子を窺ってみると、また目が泳いでいる。
どこまで知ってたんだろうか?
「もう~シロくんってば、そんなに睨まないでよ。あたしだって最近知ったんだからぁ」
そういうことにしておこう。
「でねでね! つい先日、久しぶりにそのおじさんが現れて、全て終わったって。もう自由にして良いけど、一ノ瀬椿は死んだことになってて葬儀も終わってるから、やっぱ”牧瀬つばさ”として生きてくしかねぇな~なんて軽く言ってくれちゃってさぁ……でも、当面の生活費だーって、とんでもない額が入った通帳を寄こしたの。見る? 見る?」
そう言って、通帳の残高を見せて寄こした。
「椿ちゃん、ぁ、ちがう、今は”つばめちゃん”なのかぁ。すっごいねぇ~。こんなに数字が並んだ通帳、見たことないよぉ?」
「でっしょ~? 使い方だって、わっかんないよね。そんでね、どっか行きたいとこないか?っておじさんが言うから、もちろん本物のモアイに会いに行くに決まってんじゃん!って、連れてきてもらったってワケなのよ~」
きっと、その”おじさん”って、池上さんだ。
連れてきてもらったってことは、今、池上さんもこの島にいるんだ!
「つば……めちゃん、そのおじさんは、今どこに?」
「ん? 『感動の再会は若いのだけでやってろー』とか言って、どっか行っちゃった。ひとりでモアイ像でも見に行ったんじゃないかな?」
「ちなみに、そのおじさんの名前は──」
「名前? あー……そういえば、名前、聞いてなかったかも(あせあせ)」
「はぁ~? 散々世話になってたのにか? お前、そういうとこあるよなぁー……」
「あはは♡ 椿ちゃんらし、ちがっ、つばめちゃんらしいよ」
「あははっ、もう”おじさん”でいいよ。だって、おじさんなんだもん(あはは)」
もう会えないと思っていた笑顔に再会できて──
止まっていた時間が動き出した。
そんな、気がした。
「さあさあ! もういいでしょ? 早く島めぐり行こうよ! 本物のモアイ像!!」
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ピロン☆
メッセージの受信を知らせる音が鳴り、俺のスマホが震えた。
『不明:Diffusix-0 を描く気はないか』
「誰からぁ?」
真鍋が覗き込んでくる。
「誰か知らないけど、『Diffusix-0』を描かないか? だってさ」
「ゼロ?」
「もうこりごりだよぉー」
「だよなぁ~……でも、『Diffusix-0』か。そんなの、白いキャンバスを、あえて真っ白に塗りたくって、完成! だな」
「それ、何億円で売れるかなぁ?(あははっ)」
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~~~ 俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!? 完 ~~~
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