2-10.静寂の丘に響く銃声
「イケガミー、もっと嬉しそうに!……ほら、こっち見て? 撮るわよー♡」
峰岸さんの陽気な声が、ベラト旧市街の石畳に響く。
池上さんは、真鍋に腕をホールドされて引きつった笑みを浮かべている。
背後には、斜面に折り重なるように並ぶ白壁の家々、『千の窓』と呼ばれる風景が広がっている。
「はい、今度はシロくんとあたしね♡ 凛ちゃん撮ってー♪」
「(あの、峰岸さん、俺ら、浮いてないっすか?)」
「このぐらいのテンションが普通よぉー。見て、この絶景! アガるわよねぇ!?」
『昇くーん、撮るわよー、はぁい♡…………次! 次はあたしと!』
「諦めろ、シロー。アイツらぁ、俺にも止められねぇ」
「ほら、昇くん、ハート作って、ハート♡」
池上さんはサングラスを指で持ち上げ、遠くの坂道をチラっと一瞥した。
浮かれた観光客を装っている峰岸さんも、きっと全て計算された行動なのだろう。
「今夜は、この辺りで宿を探しましょうか。夜景もすっごく綺麗なのよ?」
「賛成ですぅ~♡」
「え、凛ちゃん?……荒木さんとこ、戻らなくて平気なの?」
「いいの! だって、蒼司くんって観光には興味ないって言うし、昇くんたちと一緒の方がぁ、冒険旅行って感じで、すっごく楽しいんだもん♡」
真鍋の行動は、つくづく理解に苦しむ。
「……この際、ハッキリ聞くけど……俺たちのこと”監視”してるよね?」
「でも、”信じて”くれるでしょ? あたしのこと」
でた。
何人もの男子たちを虜にしてきた(かもしれない)必殺の”上目遣い”──。
「ま、いんじゃねぇのか? どうせ見張られてるんなら、どこに居ようと構やしねぇよ。もし害になるようなら、ヤルまでだ」
「もう~イケちゃん、コワいよぉ~。あたしは、みぃ~んなで楽しくしてたいだけなんだってばぁ~」
(今回も、このパターンか。でも、アイスランドでは結果的に助けられたみたいだし……う~ん……いいのかなぁ……)
「あ! この宿、おススメな感じよ? 連絡してみるわね~」
(……峰岸さんはマイペースだなぁ~)
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でも、ベラトの夜景は、聞いていた以上に最高だった。
俺たちは、普通の観光客として、飲んで食べ歩いて、ベラトの夜を満喫した。
◇ ◇ ◇
翌日──
「高橋くんから連絡があったわ。残念ながら、今回も行き違いね……。寺島くん、三日前の便で、この国を出ていたみたい」
「ああー……まぁ、想定はしてましたからね。仕方ありません。次の行先までは?」
「日本に帰ったみたいよ。空港の映像もあるので確定情報ね。どうする? あたしたちもすぐ帰国する?」
寺島さんの『Diffusix 5』を狙う輩がいる以上、一日でも早く寺島さんに接触したいところではある。
あるのだが──
目をうるうるさせながら、俺の顔を覗き込む小悪魔たち。
(真鍋はともかく、峰岸さんまで……完全に感化されちゃってるだろ)
「えーっと、寺島さんが滞在していた場所の目星はついているので、そこ行ってみてから帰りましょう。何か残していってるかもしれないし、何もないかもしれないけど……彼がどんな景色を見ながら『Diffusix 5』と向き合っていたのか、感じ取っておきたいかなって思っ…………な、なんすかっ!?」
峰岸さんが顔を近づけてくる──ち、近いっすよ!
「シロくん、”言うこと”が寺島くんっぽくなってきてなぁい? 狂気の動画にアテられて感化されちゃっのかなぁ?」
(………………)
「寺島くんのことなら大丈夫よ。高橋くんに探してもらってるし、いざとなったら警護も頼んであるから心配しないで」
「え? タッカーさんて、”そっち”もイケる人なんですか?」
「ううん? 餅は餅屋。荒事は専門業者に、よ。さ、それじゃ、さっそく出かけましょう♪ ベラト観光~♡」
「わぁ~い♪ 行きましょう~♡」
やれやれ──
「凛ちゃん、荒木さんに連絡は?」
言ってて妙な感覚。
俺たちを武力行使で捕縛することも出来る連中に、こちらの動向を連絡する?
真鍋の雰囲気に飲まれて、完全に危機感を無くしている。
(気を引き締めてかなきゃ……)
「蒼司くんたち、先に日本に帰るって。蒼司くんの仲間にも、”何でも”わかっちゃう人がいるんだよぉ」
「え……」
(そうだった。奴らの目的は、俺じゃなくて寺島さん。『Diffusix 5』だ。イミルナータの男も、寺島さんの足取りが掴めずに俺をマークしていたはず。俺が動いたことで、寺島さんへの足掛かりになって……もしかしたら、イミルナータも日本へ……)
「シロくん、大丈夫よ。タッカーを、信じて」
「……はい。信じないわけじゃないけど、明日には日本へ帰りますよ。まずは、寺島さんが滞在してたと思しき、丘の上の古い寺院へ向かいましょう!」
◇ ◇ ◇
観光エリアからは外れて、舗装も不完全な坂道を登っていく。
道の両脇には風にそよぐオリーブの木々。
その間を縫うように、俺たちは丘の上の寺院を目指す。
「ふふん♡ 街の中と違って、これはこれで……あれぇ? 木の陰に人がいるよぉ~?」
「(ああ、ちと分が悪いかもしんねぇなぁ)」
池上さんが呟く。
目的の寺院が見えてきた。
すると、寺院の入口から、黒いジャケットの男が現れた。
ティラナの街で俺たちを尾行てきた男だ。
『Bolje ti je da pođeš s nama, bez otpora.』
何語かはわからないけど、穏やかじゃないことだけはわかる。
手には銃を持っているのだから──
「(チッ)E kupton shqipen? Nuk do të bëj rezistencë. Të lutem, ul armën.」
舌打ちして、何語かを喋りながら前に出る池上さん。
黒いジャケットの男が頷いて、ピュイ♪ と口笛を鳴らす。
すると、周辺の木の陰から黒い布を纏った男たちがぞろぞろと──全部で四人。
全員マシンガンぽいのを持っている!
これはマズい状況だよな!? マジで!
平和ボケ、緊張感の欠如、思考が追いつかない。
プランだ。プランを────いや、無理だよっ!
「(昇くん……)」
真鍋が腕にしがみついてくる。震えているのは真鍋? それとも俺?
このまま拉致られて、拷問された挙句に殺されてしまうのだろうか──
思考が停止しかけた時、
1発の銃声が響き渡った。
【タァ──ンッ】
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