表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第2部 結城編④

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/36

2-8.狂気の呼び声

「それじゃ、再生するわね」


 寺島さんが残していったUSBメモリーには、動画ファイルが1つだけ保存されていた。


──────────

(コンテナハウスの室内……キャンバスの裏面越しに、人影が映る)


『……んん。あー、今、この動画を観ているキミは、”キミ”かな?

 そうであって欲しいと願っている。もし、”キミ”じゃないのなら、

 この先の話は意味をなさないので、止めてくれていい』


(人影は、天を仰ぐような動きを見せる)


『”キミ”だ、ということで話をさせてもらうよ。

 まずは、この場所を見つけ出せたことを称賛させてくれ。

 ボクからのメッセージと、アトリエに残してきた絵が……

 キミを導いたと信じている。


 ボクは『Diffusix 5』を完成させるために旅をしている。


 結論から言うと、『Diffusix 5』はまだ完成の域には到達していない』


(突然、人影の雰囲気が豹変する)


『ああ、ああ! もう少し。あと少しなんだよ!


 ああー、ぁぁぁああああー! 聞こえるんだぁ!


 声が! 「まだだ」 「もっとだ」と言っているんだ!!


 ”キミ”が聞いたのはコレなのか!? なぁ、そうなんだろお?


 何が足りない?……あとは……(ボソボソ、ボソボソ)……』


(頭を抱えてもがくように震える人影)


『Duhet të shkoj. Dëgjoj një zë që më thërret. Atje.』


(人影はキャンバスの横を回り込んでカメラに近づき、レンズを覗き込む)

──────────


 ・

 ・

 ・


 狂気すら感じる動画に、俺たちは言葉を失った。


「えーっと……、この動画に映ってた人影が、寺島くん、かしら?」


「そう……だと思います。だいぶ雰囲気がアレですけど……多分、本人です」


「なんつーか……相当キテるヤツだなぁ」


 どうして、そこまで『Diffusix 5』にこだわるのか、正直理解できない。


「”アトリエに残してきた絵が導いた”って言ってたけどー、何のことかわかる?」


「いえ、アトリエにあった絵は全部、あの柳田って人たちが持ち去ったみたいですから……そっか、その中にヒントがあったんだ」


「高橋くんが居なかったら、ここへは到達できないとこだったわね」


「次の行先も、タッカーさんなら調べられますか?」


「そうねぇ……出入国くらいはわかるだろうけど、今回この場所を見つけられたのは、運みたいなものだから……」


「寺島さん、最後にまた外国の言葉を喋ってましたよね? 何て言ってたんだろ?」


「ちょっと待ってねー」


 動画の最後の部分だけ、何度か再生してみる。


「うーん……イタリア語に聞こえないこともないけど……」

「日本人特有の発音もあるからなぁ。トルコ語ぽくもあり、セルビア……いや、マケドニアっぽくもある」


「アトリエに残ってた絵があれば、わかりそうですよね?」


『柳田か』


 峰岸さんと池上さんは、顔を見合わせて、ため息を漏らした。


「とりあえず、日本に帰りましょう」

「今戻ると、荒木たちと鉢合わすかもしんねぇぜ?」

「う……じゃ、じゃあ、ちょっと時間潰してからですね」

「あ、それなら、今日はこの村で一泊して、明日、北回りで帰りましょう♡」


 峰岸さん、やっぱり観光が主目的だ──




◇ ◇ ◇




 帰国──

 十月の東京は、秋の気配はまだ遠く、とても暑い。


 柳田たちに部屋を荒らされて、池上さんたちが脅しをかけてくれて──

 『俺が責任持って綺麗にさせてもらうぜ』と言われたあと、初めての帰宅となる。


 郵便受けに溜まったチラシを除けると、部屋の《《新しいカギ》》が置かれていた。

 簡単に解錠されない”いい鍵”に付け替えてくれたそうだ。


 部屋に入ると、若干の違和感はあるものの、思ってた以上に綺麗に整っていた。


「へぇー、柳田って人、やることはちゃんとやる人なんだね。さすが、そっち系の人、やると言ったらやれる人……」


 台所の箸立てに目が留まった。


「いや、コレは無いわぁー」


 折られた箸が、テーピングで繋がれていた。

 ゴミ箱行きである。


 まさかと思い、戸棚を開けてみると──


「ぁぁ……」


 割られていた皿は、ボンドで張り合わされていた。

 ゴミ箱行きである。


 どれもこれも百均で買い揃えた品なので、特段思い入れがあるわけじゃないが。


「さーてと、ヤツから連絡があるまでは、することがねぇな」


 池上さんは、柳田に連絡して、アトリエから持ち去った物も全部、元の場所に戻せと指示を出してくれていた。


「そうですねぇ。しばらくは”大学生”やらなきゃかな」


 ほんの一ヵ月ほど前は、お金に困っていたのに、今は使っても使っても減る気がしない。


 それでも、庶民の暮らしというのは、沁みついているらしく、新しい食器と箸は百均で買い揃えた。

 ちょっと高めの箱ティッシュで悦に浸れる。


 今のこの気持ちを、忘れずにいたいと思った。




◇ ◇ ◇




 久しぶりの大学──


 いくら大金を手に入れたからといっても、やはり大学はちゃんと出ておきたい。

 まだだ。まだ、ギリ、単位は足りているはずだ。


 講義の内容は、まるで頭に入ってこなかった。

 なんだか、違う世界のスローライフ系ドラマでも見せられているような、おかしな感覚。”心ここに在らず”とは、このことだ。


 昼の食堂では『特盛カツカレー』を注文した。

 以前は、お財布に余裕のあるときにだけ注文していたメニューだ。

 食堂のおばちゃんに『バイト代でも入ったのかい?』と声をかけられた。

 普段、誰が何食べてるのか、どこまで把握してるのだろうかと疑問に思う。


 テキトーな席について、ふと、一ノ瀬母の言葉を思い出した。


『三日連続で学食のカレー食べてたーとか、クリーニングのタグ付けたままコート着てきてたとか。そんなことを毎日のように聞かされるものだから……』


 椿ちゃんが母親に報告していた日常の一コマだ。


(今日は、カレーはカレーだけど『特盛カツカレー』なんだぜ?)


 心の中で、そう呟きながらスプーンを入れた。


 そこへ、生姜焼き定食を持った池上さんが現れた。

 この一ヵ月ちょっとの間、基本的にどこへ行くのも一緒だ。


 たまに、ふらっと姿が見えなくなるけど、気付いたら近くにいてくれる。

 

『三か月キッチリ、俺が警護してやるぜ』と言ってくれていた通り、ずっと護ってくれている──ようだ。


「池上さん、どっか行きたいとことかないの?」


「ぁあ? そうだなぁー。久しぶりに”すずめの囲炉裏”とか、どうだ?」


「……いや、そういうのじゃなくって……ほら、ずっと俺に張り付いててくれるじゃない? なんか申し訳なくって……」


「なんだ、そんなこと気にしてたのか。いいか? お前にとっての日常が、俺にとっての非日常なんだ。こちとら毎日が刺激的だぜ?」


 池上さんはそう言って、美味しそうに生姜焼きを頬張った。




◇ ◇ ◇




 数日後──

 柳田から連絡が入った。


 アトリエへ向かうと、柳田と数人の組員らしき男たちがいた。

 何て挨拶すれば良いのか戸惑いながら、愛想笑いを浮かべて会釈してみる。


 ビシッとした姿勢で頭を下げる柳田と男たち。


(ひえぇー……そこまでしてくれなくても……あ、池上さんに対して、なのかな?)


 アトリエの中に入ってみると、何枚もの絵が無造作に積まれていた。


 落書きされた石膏像も戻ってきた。

 文化祭で作ったモアイ像は破損が酷い状態だったけど、俺のイーゼルはちゃんと戻ってきた。


 しかし、ざっと見た感じ、寺島さんの作品が見当たらない。


「ウチの倉庫に残ってたのは、これで全部になりやす。絵が何枚か売れちまってて……」


「どんな絵が売れたか、写真とか残ってねぇのか?」


「あ、あります、あります。ネットオークションなんで、出品するとき撮ったヤツが……コレと、コレと──この三枚っす」


 柳田のスマホを覗き込むと、三枚とも寺島さんの絵だった。


「その画像、転送してもらえますか?」


 キャンバスに何かしらの暗号が隠されてたらアウトだけど、さすがにそこまではしてないだろう。


 送られてきた画像を改めて見てみると、つい先日訪れていた、アイスランドの景色があった。

 これがヒントになってたってことだろう。

 

 他の二枚のうち一枚は富士五湖のどこかだろう。

 もう一枚は、外国の風景だった。


(これだ、きっと、この国に居るんだ)


 俺は黙って池上さんに視線を送り、頷いて見せた。


「よし、ご苦労だったな。もういいぞー。これで何か食って帰りな」


 そう言って、池上さんは柳田に封筒を渡した。

 裏稼業なりの作法みたいなのがあるのだろうか。

 使うだけじゃなく、報酬も──


(いや、盗んでった物を返してもらっただけ、だよな……)


 封筒の中身を改める柳田。

 中身は現金じゃなくて、何かの割引クーポンだった。


 そりゃそうだ。こっちは一方的に迷惑をかけられただけなんだから。




「そんじゃ、詳しい話は探偵事務所の方でやるか?」


「ですね。近日中にお邪魔しますって伝えてあるので、行ってみましょう」


 ・

 ・

 ・


 アトリエに戻された俺たちの作品の中には、荒木さんや真鍋が描いていたもの、それに、椿ちゃんの作品もあった。


 落ち着いたら、きちんと整頓しよう。

読んで頂き、ありがとうございます!

「★★★★★」「ブックマーク」「いいね」頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ