2-7.凍てつく焦燥
真鍋との連絡が途絶えて数時間が経過している。
(何が起きている? なぜ連絡を寄こさない?)
順調だったはずだ。そうだ、すべて順調に運んでいた。
寺島の足取りは掴めなかったが、代わりに結城の不自然な動向をキャッチすることができた。
恐らく、結城は寺島と繋がっている。
そう睨んで結城を追って、アイスランドまでやってきたというのに──
(真鍋は勝手に別行動を始め、挙句、行方不明だと?)
事件か事故に巻き込まれた可能性は捨てきれないが、それなら痕跡くらいは追えているはずだ。
(まさか、裏切ったのか? この僕を?)
──いいや、それはない。ありえないな。あの真鍋に限って、僕を裏切るなんてあるはずがない。
(じゃあどうして? チャットには既読すらつかないじゃないか。何が起こっているんだ!?)
落ち着け。落ち着くんだ。冷静に考えろ。
考えられる可能性は理由はひとつだ。
結城と接触したに違いない。
真鍋にとって”これ”はゲームなんだ。
時に自分を追い込んででも、場を掻き乱し、盛り上げていく。
あいつは、そういう女だ。
「ボス? どうしやすか?」
親父が寄越した私設軍隊のリーダー、三田村。
首筋に薄気味悪いタトゥーを入れている。
自分の首を絞めようとするか細い手。
どういう趣味をしているのやら。
「凛のことは問題ない。南ルートの連中とは予定どおり明日、エイイルススタージルで落ち合おう」
◆ ◆ ◆
翌朝、まだ薄暗いうちにヴァルマヒルズを出発した。
真鍋から連絡が入るかもしれないと思い、気を張り過ぎたせいか、一睡も出来ていない。
夜中に何度もスマホを確認したが、メッセージは未読のまま、通話を送ってみても、機械音声が流れるだけだった。
エイイルススタージルという町で、南ルートの連中と合流した。
真鍋が行方を眩ませた時の様子を確認したが、特に変わった様子は無かったという。
三田村が指揮を執りボルガルフィヨルズル・エイストリへ向かうルートを確認する。
『こっから先、目的地までは一本道だ。対向車に注意しろよ』
この先に、きっと真鍋もいるはずだ。
もしいなければ──南ルートの連中には覚悟してもらおう。
「ボス? 今、カンザキから連絡が入った。嬢ちゃん、この先のボルガルフィヨルズル・エイストリにいるらしいぜ。正確には”嬢ちゃんのスマホ”がな」
(!)
「そうか。ありがとう。となると、やはり結城たちと合流していたのだろう」
「結城ってヤツは、どうしやすかい? とっ捕まえて、貰うモン貰ったあとはー……」
「そう焦るなよ。海外とは言え、日本人観光客が消えたとあっては、後々面倒だ。前もあるしな」
三田村は不服そうに、咥えていたタバコを吐き捨て、車に乗り込んだ。
そうして、ボルガルフィヨルズル・エイストリへ続く一本道へと進んだ。
◆ ◆ ◆
対向車とすれ違うこともなく、ボルガルフィヨルズル・エイストリへと到着した。
村に入ってすぐの広場にあるガソリンスタンドが目に入った。
まずは、ガソリンを補給してから、周辺の訊き込み調査を始めることにする。
村の出口は抑えてある。
ここまでくれば、焦ることもない。真鍋ともすぐに合流できるだろう。
すると──
道の向こうから、白い息を吐きながら走ってくる人影が見えた。
真鍋だ!
「凛!」
反射的に車を飛び出し、駆け寄った。
「心配してたんだぞ、凛。どうしていたんだ?」
「ごめんねぇ~心配かけちゃった? 詳しい話は、車の中で、ね? ここは寒いよぉ」
「ああ、ああ、そうだな、凛。とにかく、無事で良かった」
力いっぱい抱きしめた。
小さな肩が、かすかに震えている。
彼女の背中を摩るように、さらに力を込めた。
胸の中に渦巻いていたイライラや焦燥が、
彼女の温もりで薄れていく。
悔しいが、今の僕にはこの女が必要なようだと実感させられる。
・
・
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「なるほど……やはり、結城と一緒だったのか。それで、結城たちは?」
「昇くんたちは~、あそこの四角い家の前のクルマにいるよ? 陸くんとは会えなかったけどぉ、何かヒントになりそうなアイテムをゲットしてたから、このまま泳がせておいた方が面白いと思うんだ♡ またカンザキさんに追跡してもらってぇ、びっくりさせちゃおうよぉ」
──カンザキ。
ネット越しでしか会話したことがないが、いわゆる敏腕ハッカーってやつだ。
真鍋の居場所もいち早く察知してくれていた。
「わかったよ、凛。しかしキミは……悪い女だ」
「うふふ♡ 絶対的な勝利を確信したところからぁ~……ぐしゃ!って、一気に地の底へ叩き落す☆ その方が絶対面白いと思うんだよぉ~♡」
コロコロと笑いながら身を委ねてくる真鍋の頭を、ポンポンとあやしながら、
三田村に帰国の指示を出す。
「ぇえ!? いいんですかい? こんなとこまで来て……何もせずに帰るって……」
「いいんだ。お楽しみは、もう少し先のようだからね」
結城が居るという車に向かって、手を振った。
(向こうからは、見えてはいないだろうけど、ね。いずれまた会おう)
・
・
・
「凛、どこか観光して帰ろうか?」
「えー、この国は寒過ぎるよぉ。早く日本に帰りたくなっちゃったなぁ~」
「……そうか。寺島の足取りが掴めるかもしれないし、それも良いかもな」
ふふ、『観光』か。面倒事が全て片付けば、心置きなく好きなところへ行ける。
お楽しみは、もう少し先──か。
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