表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第2部 結城編③

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/36

2-2.異国の地にて

 ハンドルを握る手が、少しだけ汗ばんでいた。


 アイスランドの九月の空はどんよりと曇って、時おり車のフロントガラスに小さな雨粒を落としていく。


「……寒くないっすか?」


 助手席で船を漕ぎ出しそうにしている池上さんに声をかける。


「んあ? へーきへーき。俺ぁ南極でだってテントで野営したことあんだから。こんくらいどーってことねぇのよ」


 どこまで本気なのか、相変わらずわからない人だ。


「後ろも大丈夫っすか?」


 後部座席の峰岸さんにも声をかける。


「平気よー。いっぱい着込んでるから、むしろ暑いくらいよ」


 峰岸さんはそう言いながら、しきりにタブレットを操作している。


「シロくん、次の休憩ポイントは“セリャラントスフォスの滝”がオススメらしいわよ。すっごく綺麗な写真が……ほら、見て?」


 いや、自分、運転中っすけど。


 チラっと見やると、峰岸さんが得意げにタブレットの画面をこちらに差し出していた。

 そこには、見たこともないくらい大きな滝の写真。水しぶきが虹を作っている。


「すご……『それ、CGじゃね?』って言いたくなるやつっすね」


「でしょー? このルートで行くなら、外せないわよね」


「お前ら、何しにこんなとこまで来てんのか、忘れてねぇだろうな?」


 峰岸さんは肩をすくめて笑った。


「もちろんよ~。でもほら、お仕事はボルガルフィヨルズル・エイストリに到着してから、ね♡」


「そもそも、どうして寺島さんはアイスランドなんかに……」


 まあいい。それは、会って直接本人に聞こう。


 外の風景は、どんどん荒涼としていく。

 見渡す限り、草原と溶岩大地。

 時おり、羊の群れがのんびり道端を歩いている。

 

「シロくん、到着までは運転大丈夫? キツかったら、イケガミが代わるわよ?」


「なに勝手に仕切ってんだよ。俺は俺で忙しいっつーの」

「あんた、さっきっから居眠りしそうになってるじゃないの。少しは働きなさいよ」

「これはー精神を研ぎ澄ましてんだろーが」

 ──やいのやいの──


 この二人は時折、子どものように言い争いを始める。


(仲が良いんだか悪いんだか……)


 ナビの地図によれば、目的地までは800km以上のドライブになるらしい。

 普段は車の運転なんて実家でちょっとやるくらいだったのに、いきなり異国の地でロングドライブとは――


 でもなんだか、思いがけない冒険の旅が始まったみたいで、ワクワクしていた。


 俺はアクセルを少しだけ強く踏み込んだ。




◇ ◇ ◇




 半月ほど前──


 寺島さんからのメッセージを受け取り、彼を追うことに決めてから数日後。

 手掛かりは、『アイスランド語で書かれたメッセージ』だけだった。


「追ってきて欲しいって、メッセージなのかしら……」


「え……そういうのは、ちょっと苦手だなぁ……。寺島さん、男っすよ?」


「でも、唯一、芸術家としてシロくんのことを認めていた節があるわよね。一緒に何か共感したりとか、切磋琢磨的な意味で近くに来て欲しいって気持ちの表れなのかもしれないじゃない? 『Diffusix 6』の落札代金が振り込まれたのだって、そのための旅の資金ってことなのかも……」


「まぁ、何にしても見つけ出しますけどね」


 峰岸さんの探偵事務所では、いつも締め切ったままの扉がひとつある。

 物音が聞こえることがあるから、アシスタントさんとかかもと思っていたけど、特に確かめることもなかった。


 その”開かずの扉”が、突然開け放たれた。


 そこから現れたのは、どこか見覚えのある男性だった。


 身長は170cmほど。整った顔立ちで、スーツを軽く着崩した姿は“ちょい悪”なホストを思わせる。


「紹介するわ。彼は高橋くん。ウチの情報収集担当よ。暇なときは駅前でティッシュ配りもしてるけど」


 あー、最初にティッシュをもらったときの、お兄さんだ。


「お世話になってます、結城です」


「うん、知ってる。ボクのことは、タッカーって呼んでくれて良いよ」


「た、たっかーさん、ですか」


「高橋のタカと、ハッカーを掛け合わせたとかなんとか……嫌じゃなければ、そう呼んであげて?」


「あ、はい。情報収集って、”そっち”系の」


 タッカーさんは、不敵な笑みを浮かべながら、人差し指をそっと口元に添えた。


「高橋くん、まとめてくれた資料を……」


 あからさまに”聞こえていない振り”をするタッカーさん。


 峰岸さんは『やれやれ』といった表情のあと、指をパチン☆と鳴らす。

 そして、声のトーンを下げて言い直した。


「タッカー、例の資料を」


 タッカーさんは、ニヤリと悪そうな笑みを見せてタブレットを手渡した。


(……タッカーさんは、雰囲気作りを重視するタイプなんだ……)


「えーっと……彼が得た情報では、アイスランドのボルガルフィヨルズル・エイストリという村に、芸術家を名乗る日本人が長期滞在しているらしいわ」


 そう言って、タブレットをこちらに向ける。

 そこには、外国のストアーぽい場所の防犯カメラ映像が映し出された。


「ボルガル……え? なんだって、そんなとこに……あ、この映像、多分間違いないっすね。寺島さんだ」


「ボルガルフィヨルズル・エイストリ。アイスランドの東部にある村で、人口は100人いるかどうかっていう超小規模な集落ね。アーティストが住み着くには絶好な場所として密かに知られてるんだとか。あと、エルフの伝承が伝わってたりもして神秘的な雰囲気で人気があるそうよ」


「……よし。すぐ行きましょう」


「お! シロー、即決か。いいね」


「一緒に行ってくれますよね……?」


「地の果てまでだってお供するぜ」

 池上さんは『ようやく俺の出番だな』と言わんばかりに指をペキポキ鳴らして不敵に笑う。


「もちろん、わたしも同行するわよ?」

 峰岸さんは『アイスランド旅行ガイド』を手に、ニッコリとほほ笑む。


 二人とも頼もしいんだけど、どことなく目的がズレてる気がしてならない。


 ・

 ・

 ・


 数日後、慌ただしく準備を整えて、成田空港を飛び立った。


 世界がこんなにも身近に思える日がくるなんて──


 デンマークのコペンハーゲン空港で乗り継ぎ、アイスランドのケプラヴィーク空港まで、12時間ほどの旅だった。


 空港近くでレンタカーを手配して、スーパーマーケットで食料と水を買い込み、アイスランドの旅を始めた。


 ケプラヴィークは、アイスランドの西端の海沿いに位置している街だ。

 目指すは東端。ボルガルフィヨルズル・エイストリという村。


 アイスランドは、北海道よりひとまわり大きいくらいの広さで、島をぐるりと一周する国道ルート1がある。


 通称リングロード。


 西から東へ車で移動するには、リングロードを通って、北回りか南回りか、どちらかのルートを選択することになる。


 カーナビの情報によると、最短距離は北回りの方だったけど、峰岸さんの強い要望により、南回りのルートを選択した。


「南側のルートの方が、観光名所が多いのよ♡」


 まぁ、せっかくの海外旅行だし、楽しみながら行くのには賛成だ。




◇ ◇ ◇




 時刻は昼を少し過ぎた頃。

 国道沿いの景色は、どこまで行っても同じような平原と、遠く霞む山脈ばかり。


 ふと、フロントガラス越しに、遠くから白っぽいワゴン車がこちらに向かってくるのが見えた。


「……久々の対向車っすねぇ……」


 ぽつりと呟くと、助手席の池上さんが警戒しているのが伝わってきた。


「シロ……速度、落とせ」


 言われるがまま、ゆっくりとブレーキを踏む。


 相手のワゴン車は蛇行を繰り返し、徐々に減速したかと思うと、道を塞ぐように停車した。

読んで頂き、ありがとうございます!

「★★★★★」「ブックマーク」「いいね」頂けると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ