2-1.トップニュース
À LA UNE
"Une œuvre d'art contemporaine anonyme vendue pour environ 36 millions d'euros !"
(匿名の現代アート作品が約3,600万ユーロで落札されました!)
──────
僕は目を疑った。
青地に赤・黄・緑の直線を引いただけのシンプルな絵が、テレビに映し出されている。
(結城の『Diffusix 6』じゃないか!)
いつのまにか、アトリエから持ち去られていた作品が、なぜ競売に──
(……寺島の仕業か……このタイミングで!?)
隣で白いシーツの山が動き、真鍋 凛がもぞもぞと身体を起こす。
「んん……? あれ? 昇くんの絵じゃない? 何て言ってるのぉ? フランス語わかんないや……」
ふわふわした声で、枕を抱えたまま画面を見つめている。
「結城の絵が、日本円にして約──60億円以上で落札された、そうだ」
くそっ! 寺島か他の誰か知らねぇが、どうなってやがる!
《《俺》》が苦労して手に入れた金を軽く上回ってるじぇねぇか!!
(許せねぇよなぁー……『Diffusix 5』と『Diffusix 6』は俺が手にいれて、俺が頂くはずだった金だ! 誰かは知らんが、許せねぇよなぁー!!)
「えー、すごーい!……あたしらの10倍以上じゃない?……んん? 蒼司くん、大丈夫? 顔、コワいよ?」
真鍋は、俺の顔を覗き込みながら、ふわっと笑う。
何も考えていないような、天使のような無防備な微笑み。
──いや、違う。こいつは全部、わかってて、俺を落ち着かせようとしてる。
俺は自分の中の焦りを、真鍋のゆるい空気で、かろうじて冷静に保っていられた。
落ち着け。落ち着くんだ。
《《僕》》は、無言のままベッドから離れて、部屋の窓辺へ歩いた。
重厚なカーテンをそっとかき分け、フレンチウィンドウの鍵をひねる。
パリの朝は、まだ冷たい。
バルコニーに出ると、ひんやりした空気が頬を撫でて、頭の奥まで冴えていく。
眼下には、薄い朝靄とオレンジ色の光に包まれたパリの街。
古い石造りの屋根、街路樹、遠くには小さくエッフェル塔が霞んでいる。
何百年も変わらずに在るはずの景色が、別世界のように思えた。
──『Diffusix 6』が、60億で売れた?
あの落書きが、60億!?
気持ちを落ち着けるために、深呼吸する。
パリの空気は、埃っぽくて甘い匂いがした。
(大丈夫だ。全部、僕がコントロールできるはずだ。まずは親父のコネでアイツ等を呼び寄せて……)
──心の中でそう呟き、拳を握りしめた。
部屋の奥では、まだ真鍋がシーツを巻きつけたまま、
僕の背中を見て微笑んでいた。
部屋に戻ると、テレビでは次のニュースが報じられていた。
Dans l’actualité suivante :
Le corps d’un homme d’origine japonaise a été découvert dans une ruelle du quartier de △△ à Paris.
Selon la police, l’homme serait âgé d’une vingtaine d’années. Une enquête est en cours pour déterminer les circonstances de sa mort.
(続いてのニュースです。
パリの△△地区の路地裏で、日本人男性の遺体が発見されました。
警察によりますと、男性は20代とみられ、死亡の経緯について捜査が進められています)
──────
テレビの画面には、昨日、芹沢と”お別れ”した現場が映し出されていた。
「あー……この場所は知ってる。これ、直人くんのことだねぇ。ナマンダーブツ、ナマンダーブツ……」
テレビでは、依然として現地レポーターが日本人男性の死亡現場から状況を伝えている。
もとはといえば、真鍋が軽はずみな行動を起こすから、面倒なことになったというのに、まったくもって能天気な女だ。
カーテン越しの朝の光が、部屋の隅に重く沈んだ影を落とす。
「なぁ、凛……結城の絵、『Diffusix 6』を競売に出したのは、誰だと思う?」
「えー……わかんないよぉ。昇くんの絵なんだから、昇くんかな?」
真鍋はナイトテーブルに置いてあったサプレッサー付きの銃を、おもちゃのように弄んでいる。
「違うな……僕は寺島の仕業だと思っている」
「んー? 寺島 陸くん? そういえば、しばらくお顔、見てないねぇ」
そう言いながら真鍋は、テレビに向かって発砲する真似をしている。
『パシュ! パシュ!』
「結城はスマホが壊れてバイトに専念してたんだ。それに海外のオークションに伝手なんかないだろう。しかし、寺島は……得体のしれないところがあったからな。もしかしたら、僕たちの動向にも気付いていたのかもしれない」
「そうなんだぁ。寺島くん、大金持ちになったんだねぇ~。羨ましいなぁ~」
真鍋は何かを期待するような顔で、僕の顔を覗き込むように見上げている。
「いずれにしても、寺島には会わなきゃいけないんだ。こうなってしまったからには──『Diffusix 5』、あれだけは世に出してはいけない。必ず僕たちで阻止しなければならない」
「そうだねぇ。”5”が出ちゃったら、都市伝説が終わっちゃうもんね(くすくすっ)」
「寺島を追うぞ、凛。『Diffusix 5』を葬り去り、ついでに寺島が持つ大金も頂いてしまおう」
「また忙しくなるね♪」
パリの街並みは朝焼けに照らされて、真っ赤に色づいていた。
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