1-17.分岐点
「寺島さんからのメッセージに、テキストファイルが添付されてるんだけど……」
開いても大丈夫だろうか。
不安に思って、峰岸さんの顔色をうかがう。
峰岸さんは少しだけ考え込むような仕草をしてから、静かに頷いた。
「じゃあ、開きますね……」
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Kæri vinur,
fyrst af öllu biðst ég afsökunar á því að hafa ekki svarað þér.
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「んな? 文字化けしてる?」
「いいえ、外国語ね……北欧のー、アイスランドかフェロー辺りかしら」
「なんだってそんなマニアックな言葉で……寺島さんて、そういうキャラだったかなぁ……」
思い返してみても、掴み処のない人だった。
陽気に振る舞っていたかと思うと、突然寡黙になって独りでフラリといなくなったり。
「AI翻訳かけてみましょう」
俺の格安型落ちスマートフォンには、そんな最先端なアプリは入っていなかったので、テキストファイルを峰岸さんに転送して、翻訳してもらった。
──────────
親愛なる友人へ
まずは連絡が遅れたことを謝らせてほしい。すまなかった。
突然、キミの口座に大金が振り込まれ、さぞや困惑したことだろう。
しかしボクは確かめずにはいられなかった。
キミの絵が、あの『Diffusix 6』が、本物であるということを。
ボクが、本物を見極められる目を持っているということを。
『Diffusix 6』を競売にかけたのはボクだ。
荒木たちが良からぬことを考えて『Diffusix』シリーズを汚しているのを知り、
ボクは『Diffusix 6』を持ち出した。
『Diffusix 6』と共に旅をするうちに、『Diffusix 1』『Diffusix 2』『Diffusix 3』『Diffusix 4』が、それぞれ高額で取引されたことを知った。
しかしそれは、邪な噂に搔き立てられた亡者たちが、虚無な目的のために争った結果にすぎない。
知っているだろうか? ネット上で囁かれている都市伝説とやらを。
『Diffusix』シリーズは汚されてしまった。
しかし、『Diffusix 6』は違う。
これだけは本物のはずだ。ボクが今まで出会った中で、最高の作品だ。
色合い、バランス、見れば見るほどに魅入られていく。
ボクの中で抑えきれなくなった衝動。
それに突き動かされ、ボクは『Diffusix 6』を競売にかけた。
そして、それは証明されたんだ!
やはり、『Diffusix 6』は本物だったのだと。
ボクの目は真の芸術を見極められるのだということが。
ボクは旅を続けなくてはならない。
キミの域に到達できるまで。
『Diffusix 6』に恥じることのない『Diffusix 5』を完成させるまで。
ボクは旅を続ける。
いつの日か、完成した『Diffusix 5』をキミに。
──────────
「以上……ね」
「なんつーか……大丈夫なのか? この寺島ってヤツぁ」
「ははっ、ちょーっと変な人ではあったかな……でも、そうかー。俺の絵が売れたのは、寺島さんの仕業だったのか……」
「ふ~ん、ってことは~? 問題はもう解決したってことで、46億円は全部シローのもんってことで、良いんだよな? な?」
「そうねぇ……そう、なるわね。間違えて振り込まれたものじゃないってことが、これでわかったわけだし、正当な対価として得たお金ってことになるわね。──唐突だけど、これで……事件、解決。私たちの”冒険”も、これで終了ってことかしら」
二人は俺に判断を委ねてきた。
0.3秒で答えは出ている。が、
プランだ。プランを、構築しよう──。
(46億円もの大金。これはもう好きに使って良いお金だ。あとはどうする? 派手なことに使わなければ、一生遊んで暮らせる金額じゃないか? たまにちょっとだけ贅沢して、行きたいところへ行って、好きなもの食って飲んで、そうだ、最新のゲーミングPCをフルスペックで買おうと思っていたじゃないか。スマホだって最新機種にして、親孝行で海外旅行?……………………違う。今の俺は、そんなことを望んでるわけじゃない)
『あたしはさぁー、生真面目とか融通がきかないとか、よく言われるけど、昇も大概だよね(ふふん♪)』
いつの、どんな会話だったかまでは思い出せないけど、椿ちゃんに言われた言葉が浮かんできた。
(そうだよ。ここで終わりにしちゃったら、椿ちゃんに合わせる顔がないじゃないか? 椿ちゃんが死んでしまったのも、芹沢さんが殺されたのも、きっと『Diffusix』シリーズが関係しているはずなんだ。だったら最後まで……。たとえ犯人を捕まえることはできなくても、せめて最後まで見届けなきゃダメだ。俺に出来ることやって、行動して! ぶっちゃけ、もう何がゴールなのかもわっかんないけど、何かしなきゃダメだって思うから──)
【 こ こ で 終 わ り に な ん か し な い !! 】
(よし)
「訊くまでもなかったようね?」
「だな。それでこそだ、シロー」
「二人には、これからも力を貸して欲しい。お願い、できるかな?」
「もちろんよ! 報酬もたんまり期待できるしね♡」
「三ヵ月はくっついてるって言っただろ?」
いつかの時と同じように、凄く頼もしくて、胸がいっぱいになる。
「ありがとう! これからも、よろしくお願いします!」
「さぁー! そうと決まれば──」
「ぁ……まさか」
「そう! 決起集会よ!!」
「”すずめ”でいいよな? あそこのメニュー、まだ全制覇できてねぇんだよ」
「わぁぁあああー」
悪夢のような夜がフラッシュバックする。
でも、もう大丈夫だ。
そうだ、お金の心配はいらない。
まだ実感は湧かないけど、今の俺は億万長者なんだ。
「わかりました! 今夜は俺が奢りますよ!!」
あれ? 前回も結局、俺が出したんだ。
ま、いっか!
~~~ 第1部 完 ~~~
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