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俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第1部 結城編②

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16/36

1-16.残された家族

 数日後──


 俺は、一ノ瀬椿の実家を訪ねることにした。


 正直まだ気持ちの整理とか、よくわからないけど、いつまでも避けているのは違うと思った。


『ちょうど一ノ瀬さんのお母さんに聞いておきたいことがあったから、一緒に行くわ』と、峰岸さんも同行することになった。


 多分、俺に気を遣ってくれてるんだとわかったから、何も言わずに一緒に行くことにした。

 すごく気持ちが楽になったのも事実だ。


 季節外れの雨上がり、都心から電車で一時間ほど。

 駅から歩いて十五分、地図アプリを頼りに、住宅街の奥まった道を進む。


「ここね」


 池上さんは『外で待ってる』と言って、電柱に寄りかかってスマホをいじり始めた。




◇ ◇ ◇




 遺影の中の椿ちゃんは、未来に夢を膨らませて微笑んでいるように見えた。


「結城、昇さんね? いつも椿から話を伺ってました」


「え? いつもって、どんな……話を?」


「あら、ごめんなさいね。ホント、他愛もない話ですよ? 三日連続で学食のカレー食べてたーとか、クリーニングのタグ付けたままコート着てきてたとか。そんなことを毎日のように聞かされるものだから、今度家に連れてきなさいって言ってたのよ。そしたら『《《まだ》》そういう仲じゃないから』って、あの子……」


 ──ハンカチ、持ってきて良がった。


「そうだ、あの子の部屋、まだ手を付けてないままだから、見て行ってあげて? ね?」


 そう言って、『椿♡』と手作りの看板が吊り下げられたドアの奥へと通された。


 そこには──


「うわぁー、モアイだらけね」


 イースター島オタクというか、モアイ像オタクというか、椿はそういうヤツだった。

 壁には手作りっぽいペナントが貼られ、棚には所狭しとモアイ像グッズが並んでいた。


 椿ちゃんに触発されて俺も、モアイ像オタクになったつもりでいたのだが、本家はここまでだったとは──。


 高校の卒業旅行だろうか。宮崎県のモアイ像で撮った写真も飾られている。

 そんな写真が貼られたコルクボードには、俺の写真も何枚か貼られていた。


「シロくん、想われていたのね」


『いつか、宝くじにでも当たったらさ、一緒に行こうよ! イースター島へ!』


 椿ちゃんが、そんなこと言ってたのを思い出す。


 ずっと、ただの友達だと思っていた。


 それ以上の関係はないなぁーと思っていた。


 けど──


 胸の奥がギューギューと痛みっぱなしです。


「結城さん、コレ、椿が使っていたスマートフォンなの。重荷を背負わせるつもりはないのよ? 何か調べものをしてるって聞いたから……良かったら、持っていってあげて……」


 お母さんは、電源の切れたスマートフォンと、パスワードが書かれたメモを寄こした。


 峰岸さんに視線を送ると、黙って頷いていた。


「はい、しばらくお預かりします」


 椿ちゃんの家は、母子家庭だったそうだ。

 父親はDVが酷かったらしく、椿ちゃんが幼い頃に両親は離婚したって聞いたことがあった。


 女手ひとつで大切に育てられてきたのだろう。

 残された母親の気持ちを想うと、胸が張り裂けそうになる。


 よせばいいのに、違う世界線で、この人を『お義母さん』と呼んでいる自分を想像したりして、さらに自分を追い込んでいく。


 最後に、椿ちゃんの遺影に向かって心の中で『さよなら』と告げた。




◇ ◇ ◇




 一ノ瀬宅をあとにして、静かな住宅街の路地。空は少しだけ晴れ間が覗いていた。


「今日は付いてきてくれて、ありがとうございました」


 結局、峰岸さんは椿ちゃんのお母さんに何を聞くでもなく、黙って俺に寄り添っていてくれた。


 峰岸さんは、少し照れくさそうに肩をすくめて笑った。


「”探偵”はお休みして、ちょっと”お姉さん”してただけよ。大切な友人とお別れするのに、一人じゃ寂しいでしょ?」


「池上さんも、いつも一緒にいてくれて感謝してます」


「んあ? よせやい。なんだよ急に改まって。俺ぁ三日三晩だってジャングルん中で身を潜めていられる男だからな。小一時間待ってるくらい、わけねぇよ」


「三日三晩は凄い! ……けど、その間、トイレはどうするの?」

「そりゃお前、アレだよ」


 峰岸さんが笑いを堪えていた。


「さて、シロくん。そろそろ”探偵”に戻らせてもらうわよ。事務所に戻ったら、椿ちゃんのスマホ、一緒に見てみましょ♡」


「あ、はい、そうですね。何か分かるかもしれない」


「きっと、シロくんの隠し撮り写真がいっぱいよ♡」

「ぇぇー……それはそれで辛い。ほんと辛いんだから、茶化さないでくださいよぉ」

「なんだ、シロー。椿って子はお前ぇに惚れてたってのか?」

 ──やいのやいの──


 逆だった。


 茶化して、笑ってくれることで、胸の奥が少し軽くなった気がする。


 こうやって前を向いて行くんだってことを、この人たちは教えてくれている。


 そんな気がした。




◇ ◇ ◇




「……やっぱり、峰岸さん、お願いします! 俺には、とても……耐えられない……」


 椿ちゃんのスマホ──


 写真アプリ内には、しっかりと『昇』フォルダが作られていて、隠し撮られたらしい写真が保存されていた。


 チャットアプリの方、真鍋凛ちゃんとの個人チャットには俺がどーしたこーしたという会話がズラズラと。


(こっぱずかしくって、これ以上は見てられない……)


「ふふ、わかったわ。それじゃ、事件に関係してそうなとこだけ、一緒に見ていきましょう♡」


 正直、少しくらいは想われているのかもなー、なんて想像したことはあった。

 でもまさか、ここまでマジだったとは。

 俺がちゃんと気付けていれば、違った未来があったのかもしれない。


「これね。一ヵ月ほど前の、真鍋さんとの会話」


──────────

真鍋:

 聞いて!

 あたしの絵が60万ドルで売れたんだって!

 (既読:1)


一ノ瀬:

 ええー!?

 何それ! 凄いじゃーん!!

 60万ドルって、おいくら?

 (既読:1)


・・音声通話・・

──────────


「『Diffusix』シリーズが出品されていることに、最初に気付いたのは真鍋だったのか……」


「この翌日、みんなのチャットのほうで発言してるわね」


──────────

一ノ瀬:

 ちょっと!

 去年あたしらが描いた絵、オークションに出てんだけど!?

 誰か知ってる?

 (既読:4)


荒木:

 俺もネット見て気づいた。

 とりあえずアトリエ集合。

 (既読 4)

──────────


「ここから先は、何度か真鍋さんとの通話履歴があるだけね」


「真鍋って、ネット上の話題とか疎いイメージだったけど、よく見つけたよなぁ……。普通に検索したってヒットしなかったのに……」


「実は、荒木くんと真鍋さんについて、わかったことがあるの」


 峰岸さんはそう言って、奥の部屋から書類を持ってきた。


「この二人、荒木くんと真鍋さんだけど──芹沢くんが日本を発った二日後に、別のツアーでパリに向かってたのよ」


「え? 二人も一緒に……パリに?」


「そう。しかも、出国記録はあるけど、帰国したって形跡は今のところ掴めていないの」


「……今もパリとか海外にいて、帰ってきてない、ってことですか?」


「今のところ、ね。出国後の足取りまではわからないので、海外でバカンス決め込んでいるのか、それとも……」


「バカンス……二人で……てか、あの二人、付き合ってたのかな? いや、『それとも』……って?」


「芹沢くんは、パリで何者かに射殺された。犯人は、まだ捕まってないわ」


「まさか……荒木さんと真鍋も、どこかで殺され……」


「あくまでも可能性のひとつとして、ね。その逆もあり得る。芹沢くんを殺したのが荒木くんたちって線もあるわ」


 また危険な歯車が、カチャリと音を立てて動いた気がした。


 何の気なしに、ここ数日確認してなかったグループチャットを開いてみた。


──────────

結城:

 スマホ買った。みんな、連絡してくれ!

 (既読:2)

──────────


「えっ!?」


「どうしたの?」


「サークルのグループチャット……ずっと未読のままだったのに、既読が2になってる」


「1つはコレ、椿ちゃんのスマホね。今さっき開いたから」


「じゃあ、もう1つは……荒木さんか、真鍋か、それとも寺島さんか!」


 また歯車が、カチャリと音を立てて動いた気がした。



 ピロン☆



 メッセージの受信を知らせる音が鳴り、俺のスマホが震えた。


『寺島:話しておきたいことがある』


「……ぇ!? 寺島さんからメッセージだ!!」


 ”話しておきたいこと”?


 メッセージには、テキストファイルが添付されていた──

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