1-15.状況をまとめてみよう
「それじゃ……現状を一度、整理してみましょうか♡」
峰岸さんはスマートフォンを操作しながら、今の状況を説明してくれた。
「分かっていることを時系列に並べると──」
・最初に世に出たのは『Diffusix 2』。同時に、ある都市伝説がバラまかれた。
・その都市伝説というのは、”6枚ある『Diffusix』シリーズを全て揃えると、世界を裏から支配している秘密結社の重要な情報にアクセスできる──”というもの。
・都市伝説の効果なのか、『Diffusix 2』は思いもしなかった金額で落札された。
・数日後、『Diffusix 1』『Diffusix 3』『Diffusix 4』が別のオークションに出品され、いずれも異例とも言える金額で落札されている。
・ちょうどその頃、一ノ瀬椿が《《事故により》》死亡。
・一ノ瀬椿の葬儀から二日後、芹沢は単身、ツアーに参加してパリへ旅立った。
・アトリエの荷物が持ち出されたのはこの頃。
・芹沢はパリで二日ほど観光したあと、射殺された。
・翌日『Diffusix 6』が62億円で落札されたと、TVのニュースで報じられた。
「ここまでが、今までの調査と、さっきの柳田の証言から得られた事柄ね」
池上さんは相変わらず興味無さそうだ。くるくる回しながら、コーヒーカップを見つめている。
「次にー」
・『Diffusix 1』『Diffusix 3』『Diffusix 4』の出品者は全て芹沢。
・落札代金は海外の口座を転々として全額引き出されていた。
・『Diffusix 6』の出品者は不明だが、落札代金は結城の口座へ直接振り込まれた。総額で、日本円にして2億円弱。
・結城を襲ったのは、芹沢と繋がりのあった暴力団だった。
・荒木、真鍋、寺島、三人の行方がわかっていない。
「こんなとこかしらね。一応確認するけどー、この『Diffusix』シリーズっていうのは、本当にただの”落書き”ってことで、いいのよね?」
「え、ええ。すくなくとも、今まで世に出た『Diffusix 1』~『Diffusix 4』と『Diffusix 6』は落書きです。ただ──」
「”5”は違う?」
「えっと、寺島さんっていって、サークルの中では唯一真剣に取り組んでいたっていうか、真の芸術家って、ああいう人のことなのかもって思うくらい真剣で……『Diffusix 5』を描いていたときも、目がマジで……ちょっとコワいくらいでした。俺も含めて、みんなは数十分で描き上げたんだけど、寺島さんだけは何日も絵に向き合ってた──。単色の背景に直線を何本か引くだけの絵に、ですよ?」
「その、寺島って人と『Diffusix 5』について、少し聞かせてくれるかしら」
「あ、はい」
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あの時──
アトリエに独り残って『Diffusix 5』に向き合う寺島さんがいた。
『寺島さん、まだ帰らないんですか?』
『結城、お前は……何を思って……何を考えて、あの作品を描き上げた?』
『あの作品って……”Diffusix 6”ですか? 別に何も……』
『わからないんだ……。どうすればお前のように描けるのか……。あの線を描けるのか……。どうすれば……』
あの時、正直『この人やっぱ変』って思って、軽くからかうように言ったんだ。
『んー、まぁー、強いて言うなら、”キャンバスが、そうしろって言ってきた気がした”んですよねぇ』
そうしたら、寺島さん、お笑い芸人みたいなリアクションで──
『キャンバスが……語りかけてきた……だって!?』
って、雷に打たれたみたいな顔してた。
『そ、そんな大袈裟なもんじゃないっすよ。テキトーですよ、テキトー……』
『お前っ! お前は自分が描いた絵の価値を、意味を理解してないというのか!?』
『んー……よくわからないけど、芸術の価値なんてのは、あとからついてくるもんじゃないんすか?』
なんて偉そうに言ってみたら、寺島さんは突然、力が抜けたようにへたり込んでいた。
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「それから数日後、『Diffusix』シリーズを並べてSNSにアップしよーぜって、確か芹沢さんが言い出して、『Diffusix 5』も、ひとまず完成ってことにさせて、みんなで写真を撮ったんです──これ、その時の写真」
クラウドに上がっていた写真を、峰岸さんに見せた。池上さんは──やっぱり興味なし、だね。
「ふーん……確かに『Diffusix 5』だけ、随分と色が盛られてる感じねー」
写真画像をフリップすると、絵画サークル6人の集合写真が表示された。
「この、独りだけ真顔なのが寺島くん、かしら?」
「あ~、そうですね。こっちが芹沢さんで、こっちが荒木さん。こっちの子が真鍋さんって言って…………。一番、笑ってるのが一ノ瀬、椿ちゃんです」
胸の奥がギュっと苦しくなった。
峰岸さんが優しく肩を摩ってくれる。
「三人の行方も気になるところだけど、さっきも言ったように”コワい人たち”が動いているのよねぇ」
”コワい人たち”に反応したのか、池上さんはコーヒーカップをお盆に戻して、身を乗り出してきた。
「まず『イミルナータ』ってご存じかしら? 一応”秘密結社”らしいんだけど……」
「秘密結社……『イルミナティ』じゃなくって、ですか?」
「ええ、『イミルナータ』よ。まぁ、本家『イルミナティ』をパロってるんでしょうけど、カルト的なちょっとイっちゃってる連中なのよ。あまり知られてないのは、彼らの思想によるものね。秘密結社としてーってヤツ」
「……”コワい人たち”って、そういう?」
「そういう意味で、ちょっとコワい連中ってとこね。でも侮れないわよ? 常識じゃ考えられないような行動を起こすのよ。そういう連中って」
池上さんが『うんうん』と頷いている。心当たりがある?
「だよなぁー。ああいう連中は、笑顔で爆弾抱えて特攻自爆とかし兼ねねぇ」
(そ、そういうのに出会ったことがありそうで、コワい……)
「まぁ、そういう人たちだってわかってれば、対処のしようはあるわ。問題はもう一つのほう──」
そう言って、テーブルの上に一枚の写真を滑らせた。
そこには50代くらいの男性が写っていた。白髪混じりのオールバック。碧い瞳と濃い眉、鷲鼻で精悍な顔立ち。
「この人物は『バルタザール・クインシー』。ヨーロッパのアート業界じゃ“狂気のコレクター”なんて呼ばれてるわ。彼が保有する財団のひとつに『|Veritas Animae』というのがあって──直訳すると”魂の真実”っていうらしんだけど、その組織ってのが、裏の界隈では”手段を選ばない”ことで有名らしいのよ」
「えっと……そんな財団? 組織が、俺たちの落書きを?」
「今わかっているのは『Diffusix 6』を4千万ドル以上で落札したのが、その『ウェリタス・アニマエ』だってこなのよ」
「ぇぇー……ホントにただの落書きなのに……」
「都市伝説の効果が重なったかどうかは定かではないけど、どちらの組織も『Diffusix 5』を血眼になって探してるって噂よ」
ふと、入金時に添えられていたメッセージを思い出した。
「峰岸さん、実は入金の摘要にこんなメッセージがあったんです」
”ARTLUXE Payout / REF#AX983211 / Witness recorded. One key remains.Deposit Code: 5/6”
「……………………5枚目の存在を知っている?……5枚目を要求するメッセージかもしれないわ」
それまで大人しかった池上さんが、突然元気になった。
「ってことはよ、寺島ってやつを見つけ出して『Diffusix 5』を俺たちが手に入れれば、60億円以上で取引できるかもしれないってことなんじゃねぇのか!?」
この人、やっぱり金でしか動かない人なんだ。
「そ、そうかもしれないわね。とにかく、私は引き続き、三人の行方を追ってみるわ」
俺は、スマホに表示したままになっていたサークルメンバーの写真に目を落とした。
「そういえば、シロくん──。行ってみたの? 彼女のご実家へは」
黙って首を振った。
「そう……。辛いわよね。気持ちの整理がついてからで大丈夫だから、ね?」
今そんな優しい言葉をかけられたら、泣いちゃいそうですよ──
スマホをポケットに入れて、冷めきったコーヒーを飲みほした。
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