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俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第1部 結城編②

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13/36

1-13.警察のお仕事

 時間は深夜0時を回っていたが、このまま放っておくわけにはいかない。


 峰岸さんは酔いつぶれた状態で辛うじてタクシーに乗っていたので、今頃は爆睡しているに違いない。

 池上さんは廊下に座って眠り込んでいる。


(──110番、だよな)


 スマホを手に、少しだけ迷った。


(これ、緊急でいいのかな……? こんな時間だけど……近所迷惑とか……)


「……ええい、ままよ」


 意を決して110番に発信する。


 ワンコールでオペレーターの声が聞こえた。


『はい、110番、事件ですか? 事故ですか?』


「あ、あの……自分の部屋が荒らされてまして……はい、今帰宅したら……はい……え? あ、今は誰もいません。危険は……たぶん……」


 要領を得ない受け答えに、オペレーターは淡々と続ける。


『住所とお名前、連絡先をお願いします』

『何か盗まれた物や、怪しい人物を見ましたか?』


 たどたどしく状況を説明し、名前や住所を告げる。

 その間に、池上さんが目を覚ましたようで、部屋の状況を見て頭を掻いている。


「……あ、今から、警察来るって」


「そうか。見た感じ、こりゃ”脅し”だな。一応、無くなった物がないかチェックしときな。……必要になったら起こしてくれや~」


 池上さんはそう言って、ベッドの上に散乱していた引き出しや衣類を床に下ろすと、横になって眠ってしまった。

 こういう荒事も慣れてるのだろうか。動じない精神力、羨ましく思う。


 ・

 ・

 ・


 やがて、赤色灯を回転させたパトカーが静かにやってきた。


 靴を揃えて二人の警官が部屋に入り、散乱した室内を見回す。

 一人はすぐに手帳を取り出し、もう一人は壁際や窓辺を注意深く見て歩いた。


「こちら、窓の鍵は閉まったままでしたか? 侵入経路は玄関側……かな? ドアの鍵はどうされてましたか?」


「ドアも窓も施錠はしていたはずなんですが……」


「あー、このタイプかー。ちょっと心得があれば数秒で開けられちゃうんだよねぇ」


(マジか……鍵の意味よ)


「他に家族の方とかは?」


「いません。一人暮らしなんで……。あのベッドで寝てるのは友人です。四日ほど前から泊まり込んでて」


「何か盗まれた物とか、壊されたものは?」


「……えっと、特に……。盗られて困るような物はなかったはず……壊されたものは……」


 台所の方を指差す。

 皿やカップ類が割られていた。

 永年愛用していた箸まで折られている。そこまでしなくたっていんじゃない?

 ちょっと腹立たしくなってきた。


 警官が部屋の中をざっと見渡し、もう一人と目配せする。


「ここまで荒らされてて、何も盗られてないってことは……。現金とか、通帳や印鑑、貴重品とかは、どうされてますか?」


「大丈夫です。貴重品は持ち歩くようにしてたんで」


 そう言って、リュックをパンパンと叩いて見せた。


「そうですか。周辺で空き巣の被害報告は今のところ出されてないようだし……”物盗り”っていうよりも、”嫌がらせ”か”探し物”が目的だった可能性がありますねー」


 池上さんが言ってた、”脅し”って可能性が濃厚ってワケか。


「ちなみに最近、人から恨みをかうようなこととかー」


「いえ、ちょ……っと思い当たらないですね」


「ですよねぇー。あなた、なんだか人柄も良さそうだし、恨まれるタイプじゃなさそうですよねぇ。はっはっはっ」


「あはは……」


「それじゃね、これは形式的なものなんですけどね……」


 そう言って、氏名、実家の連絡先、今日一日の行動についてと順番に質問してきた。

 池上さんも起こされて、同じように質問されていたが、住所は不定と答えていた。


「じゃあ、ひとまずこれで。夜が明けたら、鑑識の者が来ますから、その時にもう一度立ち会ってもらいますね」


「は、はい……」


「部屋の中、あんまり触らないように、お願いしますね。この状況じゃ、とっても休まらないと思いますが……。あと、何か気になることや、思い出したことがあったら、すぐにまた110番してください」


 若い警官が、申し訳なさそうに、形式ばったことを言って頭を下げた。


「それじゃ、ひとまず、これで失礼します。明日……というか、数時間後に、また来ますから。お休みなさい」


 静かにドアが閉まる。


 二人が去ったあと、改めて荒らされた部屋を見渡す。

 休めるスペースなんかない。


「ふぅー……池上さんの言った通りでしたね」


「ん? 貴重品はちゃんと持ち歩いてたか」


「はい、全部、この()()()()()()()()()()持ち歩いてますよ」


「そうかー。大事に持っとけよー」


 俺と池上さんは、鑑識が来るまで休むことにして、部屋の中に休めるスペースを確保した。


 散乱する荷物の中に、数年前に椿ちゃんからプレゼントされたモアイ像のティッシュBOXがあった。

 ちょっとした想い出の品ってやつなので、リュックに入れて持ち歩くことにした。




◇ ◇ ◇




 夜が明けると、言っていた通り鑑識の人たちがやってきた。


 手袋をはめたスーツ姿の男性と、無口な女性。

 二人とも淡々と手際よく、部屋のあちこちを写真に収め、指紋採取のキットを取り出す。


「こちら、お住まいの方の指紋だけ、念のためお願いできますか」


 インキレス・パッドに指を押し当てる。池上さんも、淡々と応じていた。


 昨夜駆け付けてくれた二人の警察官も立ち合い、小一時間ほどで鑑識作業は終わった。


「ご協力、ありがとうございました。何か分かったら、警察からご連絡しますので」


 そう言い残して、警察の方々は静かに部屋を後にした。


「何か分かるもんですかねぇ」


「さあな。詳しいわけじゃねぇが、どうしたって”優先順位”ってもんがあんだろうから」


「優先順位……」


「『事件に大きいも小さいもない!』なんてな、ドラマなんかじゃ恰好良く言ったりすっけど、現実は──人が死んだり傷つけられたりした事件が優先されるだろう。ただ荒らされただけってんなら、被害届を受け付けたましたってとこで警察のお仕事としては、ほぼ終わったみたいなもんよ」


「はぁー、分かるような、納得できないような……」


「ま、いつまでこうしてても始まらねぇ。飯でも食いにいこうや。俺はちょっと寄るところがあるから、シローは()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()……だね」


 ・

 ・

 ・


 そうして、俺は一人で駅に向かって歩いていた。


 アパートを出てから、ずっと尾行(つけ)られているのは分かっていた。


 あえて、人気のない通りを選んで入ると、後ろの足音は歩幅を速めて近付いてきた。


『大人しくそのリュックを渡してもらおうか』


 背中越しにドスの効いた声を掛けられる。


 振り向くと、薄めのサングラスにオールバックの、()()()が立っていた。

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