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俺が描いた絵が62億円で落札された‥だと!?  作者: 角山亜衣
第1部 結城編②

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1-11.素敵な笑顔

 超美人のセクシー探偵、峰岸さんに仕事を依頼してから四日後。


 俺は調査報告を聞くために、”ミネギシ探偵事務所”に来ている。

 隣にはいかつい男が腕を組んで座っている。


「ごめんなさい♡ お待たせしちゃって」


 奥の扉を開けて、書類を手にした峰岸さんが現れた。やはり美しい……。


 隣の男が即座に反応を示す。


『ほぉおお~~♡』


「あら、今日はお連れ様がいらっしゃるのね?」


 隣の男はすっくと立ちあがり、堂々とした態度で自己紹介を始めた。


「はじめまして。シローの身辺警護を仰せつかっている池上 健太(いけがみ けんた)という者です」


 ──な、なんなんだ、唐突の紳士キャラは!?


「シロー? あ、ああー『結城(ゆう())くんの……」


 峰岸さんは、真意を確かめるように、俺に視線を送ってくる。


「は、はぁ……。ちょっと、色々ありまして……ははは」


 ・

 ・

 ・


 そう。

 あれは四日前、この事務所を出たあとのことだ──


 街中で不審な連中に追いかけられていた俺を助けてくれたのが、この池上さんだ。


『飯、奢ってくれんだろ?』


 そう言って向かった先は、なんと俺のバイト先──『すずめの囲炉裏』


 驚いたことに、店長と池上さんは知り合いだったらしい。


『おや~? こんな時間に珍しい客が来たもんだ。って、結城くんも一緒? キミら知り合いだったの?』


 俺は適当に誤魔化して、一緒に晩飯を食べにきただけだと告げた。

 すると、店長は俺を厨房に呼んで心配そうに言った。


『一緒にって……大丈夫なのかい? まさか、キミの奢りじゃないよね?』


『……ぇ、それって、どういう……』


『やっぱり知らないんだな。あの人、池上さん、そうとう食うよ? 物凄く飲むよ? キミ、いくつもバイト掛け持ちしてるって言ってたじゃない。お金、大丈夫なの?』


(ええー!? そんなん言われたって、一応、命の恩人かもしれないしなぁ)

『あ、あの……今日のお勘定は、次の給料から天引きとかって、できますか?』


『それは構わないけど……足りるかなぁ』


 席へ戻ると、池上さんが注文を入れているところだった。


『生ね。大ジョッキを三つ。あと、こっから~ここまで、二皿ずつヨロシク♪』


(ちょっ!?)


 金持ちになったら言ってみたかったセリフのひとつ。

 飲食店のメニュー開いて『こっから~ここまで』ってやつ!


 しかも、お高い焼き鳥のページ!


(開幕早々、次のバイト代が飛んでる件……)


 最終ラウンドまで数時間──


 池上さんは『こっから~ここまで』を繰り返し、計り知れないほどのお酒をあおった。


 あんなに長く打ち出されたレシートは見たことがない。


 店長には、『後日キッチリお支払いします』と言って頭をさげた。


 店を出てから、酔っぱらった池上さんを放置するのもアレなんで、俺の部屋に連れ帰った。


(千鳥足のおっさんを”お持ち帰り”とか……ありえねぇー)


 そして翌朝──


『少年、ヤバい事件に巻き込まれてんなら、俺を雇わなねぇか? 安くしとくぜ?』


『安くって……昨日の飯代、いくらになったと思ってんすか!? 向こう三ヵ月はバイト代飛んじゃってますよ……』


『三ヵ月だな。よし! そんじゃ、三ヵ月キッチリ、俺が警護してやるぜ』


 こうして、襲われていた理由も聞かず、『いつ、どこで、だれが、どうやって襲ってきても、俺はお前を護る。それだけだ』などと言って同居が始まった。


 ・

 ・

 ・


 そして今に至る。


 あの悪夢のような夜以降は、普通の食事量だったのがせめてもの救いだ。


「まぁいいわ。それじゃ、このまま調査報告をさせて頂いても構わないわね?」


 そうだ。

 峰岸さんへの依頼内容は三つ。


 椿ちゃん──

 一ノ瀬の実家の住所を調べてもらって、彼女の死因についてと、その死に不審な点が無いか。


 俺は黙って頷いた。


 峰岸さんは、対面のソファーに腰を下ろすと、封筒をひとつ差し出してきた。


「まずは、一ノ瀬さんのご実家の住所ね。ここに記載してあるわ」


「ありがとうございます」


 そう言って、封筒を受け取る。中身の確認はあとでいい。


「次に、彼女の死因についてなんだけど………………『オブラート』は必要?」


『オブラート』の意味を、直感的に理解した俺は、黙って首を振った。


 峰岸さんは優しく微笑むと、手にしていた大き目の茶封筒のひとつを下げた。

 もうひとつの茶封筒は、クチのところに赤いラインが引いてある。

 その封筒を開いて、中から数枚の写真と書類を取り出した。


「死因は事故死よ。〇月〇日の21時頃、△町の横断歩道で、走ってきたトラックにはねられ、頭を《《強く打った》》ことにより死亡。損傷の状況から、その場で即死と判断されたわ。胸から上の損傷が酷く、ご遺族でも本人の特定が難しいほどだったけど、遺留品などから一ノ瀬椿本人であると断定されました」


 さりげなく置かれた写真は、司法解剖時のものだろうか。

 首から上が、原型を留めないほどに潰れた女性が写っていた。

 他の写真は乾いた血がこびりついた免許証やスマートフォンだった。

 見覚えのある、モアイのストラップも血まみれだった。


「…………」


「苦しみはしなかった、はずよ……」


「ありがとう、ございます」


「お仕事だからね、このくらい調べるなんて、ワケないわよ」


 峰岸さんの気遣いに対しての『ありがとう』だったのだが。


「そして──、多分だけど、キミが一番知りたかったこと。彼女の死が、事故なのか、事件なのか」


 峰岸さんは、不敵で美しい笑みを浮かべて、俺をじっと見つめる。

 俺は黙って頷いて、次の言葉を待った。


「三日間では、裏取りまでは難しかったけど、あたしは事件だと睨んでいるわ。容疑者も絞り込めたんだけどー、ちょっと遅かったみたい」


「え? 『遅かった』っていうのは……」


「先日、亡くなったわ。パリで」


「パリって、まさか! 芹沢……さん?」


「キミが所属している絵画サークルのメンバーよね。サークル内で、キミの知らない何かしらの問題が起きていたみたいなの。本来であれば、キッチリ裏が取れた事実のみ伝えるものなんだけど、キミ自身にも危険が及ぶ可能性があると判断したので、憶測として報告させて頂くわ」


 芹沢さんが、椿を死なせて、海外逃亡? パリ?

 え? でも芹沢さんも、そのパリで──


「結城くん、あなた、厄介な事件に巻き込まれているんじゃなくて? 探偵としてはこういうのは失格なんだけど……良かったら、力になるわよ♡」


 黙って隣に座っていた池上さんが、ピクっと反応したように思えた。


 状況に飲まれるな。

 プランだ。プランを構築するんだ。


(椿ちゃんの死……芹沢さんの死……サークル内でのトラブル……俺の口座に振り込まれた大金……先日、俺を追ってきた男たち……『Diffusix』シリーズで繋がっているとしか思えない。得体は知れないけれど、悪い人には見えない池上さん。この人がそばに居るからなのか、あのあと追われることはない。峰岸さんの探偵としての腕も確かなようだ。なんて上から目線で判断できるほど知ってる世界じゃないけど、きっと凄い人なんだと思う。何より美人さんだ。この二人が仲間になってくれるなら、そんなに心強いことはない。よし)


 体感3秒で、俺は心を決めた。


「二人に知ってもらいたいことがあります。俺が今置かれている状況について。そして、これから俺がどうすれば良いのか、力を貸して欲しいんです」


 池上さんは黙って天井を見上げていた。


 峰岸さんは初めて、営業のじゃない、素敵な笑顔を見せてくれた。

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