表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/107

第九十五話 モブ兵士、合流する

 ついに〝月光領域(グラビティフィールド)〟から逃れた俺は、それからずっと全力で走り続けていた。

 ここがどこの山かも分からない。ただ、一直線に飛ばされたおかげで、王都への道は分かっている。とはいえ、飛んでいた時間を考えると、相当距離が空いてしまったはず。

 休まず走り続けたとしても、数時間はかかる。

 今のカグヤの手にかかれば、それだけの時間で、王都を壊滅させることができるだろう。 


「間に合ってくれよ……」


 そう祈りながら、ひたすら走る。

 すると、ようやく王都が見えてきた。

 一見、無事に見える王都だが、そこにはあるはずのもの(・・・・・・・)がなかった(・・・・・)


「なんだ、これ」


〝月の塔〟があったはずの場所が、更地になっている。

 騎士団の簡易キャンプが設営されていることから、すでにここで戦闘が起きたらしい。


「ううっ……」


「いてぇ……いてぇよ……」


 キャンプを覗き込むと、そこには治療を受ける勇者たちの姿があった。

 有名な顔もあるし、ここに集まった勇者が、実力者ばかりだと分かる。

 だが、全員もれなく重傷を負っており、当分は立ち上がることすらできないだろう。


「シルヴァ……?」


 名前を呼ばれたほうを見ると、そこにはエルダさんが立っていた。

 疲弊しきっているようだが、大きな怪我はしていないようだ。まずはそのことに安堵した。


「エルダさん、その――――」


 カグヤが魔族になったのは、俺の責任だ。

 謝罪しようとした瞬間、俺はエルダさんに抱きしめられていた。


「よかった……貴様が無事で……」


 エルダさんの抱きしめる力が、一層強くなる。


「……すみません、心配をかけて」


「っ、まったくだ! まあ、貴様ほどの男が、簡単にやられるとは思っていなかったがな」


 自分が何をしているのか気づいたようで、エルダさんは俺から離れ、頬を赤くしながら、パタパタと手足を動かした。

 俺は、〝月の塔〟で起きたことを、手短に伝えた。


「そうか。やはり、あれはカグヤなんだな。何かの間違いであってほしかったが……」


 エルダさんは、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「元に戻す方法は、まだ分かりません。ひとまずは、俺の〝魔力領域〟に閉じ込めようかと思っています」


「分かった。カグヤは王都を越えて、さらに北上を試みているようだ。今は、第二陣の勇者たちが足止めに向かっている」


「北上……」


 その方角には、月の研究所の跡地があったはずだ。


「分からないことだらけだが、これだけの規模の戦いがあって、死傷者が出ていない。希望的観測に過ぎないが、カグヤはまだ、かろうじて理性を保っている可能性がある」


「っ!」


「なんとか正気に戻してやりたい。そのためには、貴様の力が必要だ」


「……はい」


「頼んだぞ、シルヴァ」


 エルダさんの言葉に、俺は深く頷いて見せた。



 王都を横断するように駆け抜ける。

 エルダさんは、カグヤとの戦闘で魔力をすべて消費してしまい、しばらくは戦えない。後方支援として参加しながら、魔力が回復次第、第二陣と合流すると言っていた。

 それから、情報を拡散するあたり、魔族の正体がカグヤであることは、伏せてもらうことにした。カグヤのことは、何がなんでも元に戻す。日常に戻ったあと、彼女に居場所がないというのは、あんまりだ。


「……なんだ?」


 王都を飛び出し、なおも走り続けていると、規則的な大地の揺れを感じた。

 研究所跡地が近づくに連れ、その揺れは激しくなっていく。やはり、カグヤが目指したのは、自身の古巣だったようだ。

 東の空が明るくなり始める。もうじき夜が明けるということは、月が沈み、カグヤの力も少しは落ちるかもしれない。

 わずかな希望を抱きながら、茂みを飛び出すと、研究所の跡地は目と鼻の先だった。


「――――え?」


 そこに広がる光景を見て、俺は首を傾げる。


「アハァッ!」


 楽しげな笑みを浮かべながら、カグヤは瓦礫を魔術で浮かせる。

 それを他の瓦礫の上に積み上げ、今度はまた、別の瓦礫をその上に積み上げる。

 規則的な揺れは、カグヤが瓦礫を積み上げる際に生まれたものだったらしい。

 そして、この光景を、茫然とした様子で勇者と騎士たちが眺めていた。


「シルヴァ」


「っ! シャルたそ! 無事でよかった」


 声をかけてきたのは、困惑した様子のシャルたそだった。


「シルヴァも、無事でよかった。ねえ、あれ……カグヤだよね?」


「……ああ」


 二人で、いまだ瓦礫遊びに夢中になっているカグヤを見上げる。


「ツギハギを倒したあと、桁違いに強い魔族が暴れているって聞いて、他の人たちと追いかけてきたんだけど……。カグヤに何があったの?」


「あとで詳しく話すよ。その前に、シャルたその他に、正体に気づいてる人はいた?」


「ううん、多分いない。私もまだ、あれがカグヤだってことは誰にも伝えてない」


「ああ、そのままで頼むよ」


 そう言った直後、ひと際大きな揺れが起きた。

 カグヤはすべての瓦礫を積み上げると、満足そうに手を叩く。

 出来上がったそれは、巨大な塔だった。彼女が住処にしている〝月の塔〟と、ほぼ同じ高さに見える。


「どうしてこんなものを……」


 俺がそう呟いた途端、いよいよ顔を出した太陽が、カグヤの顔を照らす。

 すると、カグヤは苦しげな呻き声を漏らした。


「ウウウゥゥゥ……」


 そして、自分で積み上げた塔の頂上まで飛んでいき、姿を消してしまう。

 状況がまったく吞み込めずにいる俺たちは、ただ茫然と立ち尽くすことしかできなかった。



――――騎士団全隊に通達。


 女型の魔族、一時沈黙。

 これより女型の魔族を、未発見である〝レベル5〟と仮定し、討伐隊を編成する。

 なお、これより当の魔族を、〝月に吼えるもの(ムーンビースト)〟と呼称する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ