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第二十話 モブ兵士、ブチ切れる

「奇遇だね! こんなところで会うなんて!」


「うん……」

 

 アレンは、まるで俺のことが見えていないかのような態度で、シャルたそに話しかける。対するシャルたその表情は、ずいぶんと引きつっているように見えた。


「あら、シャルルではありませんか」


「わっ、マジで奇遇じゃん!」


 アレンは、二人の少女を引き連れていた。

 ひとりは、金髪ロールのお嬢様、マルガレータ=ナルフィス。

 そしてもうひとりは、赤髪ショートヘアのレナ=カシウス。

 どちらも勇者学園内で会える攻略キャラである。


 ――――なるほど、アレンが付き合ってるのはこの二人か。


 ブレアスのヒロインの中では、比較的攻略難易度が低く、順当に進めていけばまず恋人になれる二人だ。

 ……これでは言い方が悪く聞こえるかもしれないが、実際ヒロインによって公式から攻略難易度が定められている。性能的に彼女たちが劣っているというわけではないし、決して冷遇されているわけではないことを、しっかり明記しておく。


「マルガレータも、レナも……どうしてここに?」


「あたしらデートしてんの! てか、ちょっと前にシャルルのことも誘ったじゃん?」


「……これのことだったんだ」


 今のやり取りを聞いて、俺は「なるほど」と思った。

 レナとマルガレータは、すっかりアレンにべったりになっているらしい。彼女たちは別のヒロインが増えることをなんとも思ってないようで、むしろシャルたそをハーレムに加えることに協力する姿勢のようだ。

 これは確かに、居心地が悪い。

 しかもこの様子では、きっとパーティを抜けるのも至難の業だ。

 蚊帳の外にいる俺だから言えることだが、シャルたそが気の毒で仕方ない。


「……シャルル、そちらの殿方は?」


 俺に訝しげな視線を向けながら、マルガレータが問いかけてくる。


「……こっちもデート中」


 何かしら誤魔化す必要があると思っていた俺は、シャルたその言葉でドキッとした。


「――――どういうことかな」


 その瞬間、アレンが物凄い形相で俺を睨みつけてきた。

 よく見れば、彼の体からは魔力が滲み出すように漏れている。

 どうやら怒らせてしまったようだ。


「どうもこうも、シャルたその言葉のままだよ。今日は一緒に過ごす約束をしてたんだ」


「……あんた、確か東門にいた門兵だろ。こんなところでサボってていいのか? 不真面目なんだな、意外と」


「門兵にも休みくらいあるわ……」


 とんでもない指摘を食らってしまった俺は、思わずそうツッコんだ。

 無休なわけねぇだろ、この野郎。


「オレの誘いを断って、こんな冴えないやつと……」


 音が聞こえてくるほど、アレンは拳を握りしめる。

 怒りに打ち震えているようだが、こっちもさっきから失礼な態度を取られてイライラしてるところだ。

 ヒロインたちに同じことを言われたところでなんとも思わないが、自分(プレイヤー)の分身であるアレンに言われると、何故か無性に腹が立つ。


「……アレン、シルヴァにちょっかいかけないで」


「なっ……どうしたんだよ、シャルル。そんな言い方しなくてもいいだろ?」


「今のはシルヴァに失礼。勇者を目指す者として、恥ずかしい発言」


「……っ」


 珍しく怒っている様子のシャルたそが、アレンを睨む。

 一触即発の雰囲気な流れ出したとき、何かに気づいた様子のレナが、あっと声を出した。


「この男……魔族かもよ」


 ――――はい?


「レナ、それはどういうことかな」


「だって、アレンの誘いを断ってまで、こんなやつと一緒にいるなんておかしいじゃん! こっちはパーティとして……男と女として、強い絆で結ばれてんだよ⁉ こんなの……! シャルルが洗脳されてるとしか思えない!」


「洗脳だって……⁉」


 話が飛躍し過ぎて、俺もシャルたそもぽかんとしてしまった。

 しかし、彼らの中ではすでにこの仮説が通ってしまっているようで……。


「……この男が魔族なら、色々と辻褄が合いますわ。最近シャルルが私たちの誘いをよく断るようになったのも、きっと魔族に洗脳されていたからよ」


「別に……それは三人の邪魔をしたくなかったからだし、学園ではちゃんと一緒に過ごしてた」


「っ! ……そのセリフも、きっと言わされているのね」


「……話を聞いて」


 シャルたそを見るアレンたちの目に、いつの間にか憐れみの色が浮かんでいた。

 それを見て、シャルたそは愕然とする。


「どうして……分からないの?」


「少し待っててくれ、シャルル……絶対に、君をオレのもとに連れ戻す」


「っ……」


 ――――さっきから、好き放題言いやがって。


「門兵、お前が魔族かどうかはどうでもいい。でも、オレの大事な人(・・・・)を弄ぶような真似は、絶対に許さない」


「……」


「今すぐシャルルを解放するなら、穏便に済ましてもいい。それとも……場所を変えるか?」


 頷かなければ、力ずくでも――――アレンの言葉は、そういう意味だった。


 どうしてこいつは、シャルたその目が潤んでいることに気づけないんだ。

 シャルたそは……普段の態度はどうあれ、仲間としてアレンたちを信頼していた。それなのに、彼らはどう見てもシャルたそを信頼しているようには見えない。

 強くなるために、絆は不可欠。それはブレアスというゲームのシステム上はっきりしていることだ。アレンには、いずれ世界を救ってもらわなければならない。そのためなら、恋人でもなんでも、仲間と親しくなろうとするのは大いに結構。

 今ここにいるアレンのプレイスタイル(・・・・・・・)を否定するつもりは、さらさらない。

 ただ――――それでも、どうしても許せないことがある。


「……こっちもこっちで、わざわざお前に許してもらおうなんて思ってないよ」


「シルヴァ……?」


「悪い、シャルたそ。これで大人しくしてろってのは、さすがに無理だ」


 俺にとっての究極の地雷。

 それは、シャルたそを蔑ろにされること。

 何があろうと、どんな理由があろうと、絶対に許せない。


「こっちはなぁ、前世から〝厄介オタク〟やってんだよ……」


「厄介おたく……?」


「場所を変える? ああ、上等だ。その腐った性根……俺が叩き直してやる」

 

 血走った眼で睨みつけると、アレンは一瞬たじろいだ。

 しかし彼女たちの手前、すぐに表情を取り繕う。


「こ、交渉は決裂か……いいだろう! お前を剣の錆にしてやる!」


 アレンは、俺に向かってそう叫んだ。

 これでシナリオがどうなってしまおうが、もはや知ったことではない。

 シャルたそが笑顔になれないシナリオなんて、ぶっ壊れてしまったほうがマシだ。


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