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第百七話 シルヴァ、邂逅する

「一級勇者⁉」


「うん。推薦してもらった」


 久しぶりに東門を訪ねてきたシャルたそが、ドヤ顔でピースを決めた。

 新人勇者が一級までたどり着くには、年単位の時間が必要だ。

 一級に昇格するためには、今までのような試験ではなく、レベル3以上の討伐経験や、一級以上の勇者からの推薦などが必要だ。

 すなわち、一級勇者とは、いくつもの条件をクリアして、ようやく手に入る称号なのだ。


「シャルたそって、まだ勇者になってから半年も経ってないよね……?」


「騎士団長も驚いていた。こんなことは異例だって」


 この調子で成長していけば、本当に特級勇者になってしまうかもしれない。

 なにはともあれ、この昇級はとてもめでたいことだ。めでたいことなのだが。


「……シルヴァ、あんまり嬉しくない?」


「え⁉」


 シャルたそは、不安そうに俺の顔を覗き込んできた。

 俺のしたことが、顔に出てしまっていたらしい。


「嬉しくないわけじゃないんだけど……ちょっと、心配でさ」


「もしかして、危険な任務が増えるから?」


「気を悪くしたならごめん。でも、シャルたそが頼りないって言いたいわけじゃないんだ」


 あのカグヤですら、ネフレンの事件では危険に晒された。

 実力だけではどうにもならないことが、この世界にはある。もちろん、それは俺にも言えることだ。


「……私も、浮かれすぎていたかもしれない。むしろ、心配させてごめん」


 そう言って、シャルたそは目を伏せた。


「い、いや、シャルたそが謝る必要なんて――――」


「でも……私は戦う」


 芯のある声が、俺を貫いた。


「まだまだ未熟かもしれないけど、シルヴァやカグヤのおかげで、今の私には人を守る力がある。この力を、正しく使い続けたい。この先も、ずっと」


「シャルたそ……」


「それに……困ったときは、シルヴァが助けてくれるでしょ?」


 俺は、首が取れそうになるくらい頷いた。

 推しをこの手で守れるという特権は、誰にも譲るつもりはない。


「ふふっ、頷きすぎ」


「まだまだ頷き足りないよ。シャルたそのことは、俺がずっとそばで守るから」


「――――ずっと?」


「ああ! ずっと!」


 俺が笑いかけると、シャルたその動きがピタリと止まった。

 やがて、ぎこちなく動き始めたかと思えば、俺の顔をズイッと覗き込んできた。


「ずっとって、一生ってこと?」


「え? まあ、そういうことになるのかな」


 前世から〝生涯シャルたそ最推し宣言〟をしている。

 ここまで来て、それが揺らぐことは決してない。


「……言質取った」


 シャルたそは、したり顔でそう言った。

 意味はよく分からないが、少なくとも、取り返しがつかないことを言ってしまったことは分かった。


「しゃ、シャルたそ? 言質って一体……」


「――――――――」


「……シャルたそ?」


 何かを言おうとしたシャルたそが、再び静止した。また何か、余計なことを言ってしまったのかと思った瞬間、俺は周囲の異変に気づいた。

 シャルたそだけではない。空を流れる雲が、優雅に飛び回る鳥が、大地に生い茂る草木が、花の蜜を吸いにきた蝶が、すべてその場で静止している。

 時が止まったかのような光景に、本能的な恐怖を覚えた。


「――――ようやく見つけたぞ」


 止まってしまった世界の中を、ローブのフードを被った少女が歩いてくるのが見えた。

月に吼えるもの(ムーンビースト)〟に匹敵、いや、下手をすればそれ以上の魔力。止まった世界を生み出したのが彼女であることを、俺はすぐに理解した。


「何者だ、あんた」


 俺は剣に手をかけ、少女を睨みつける。

 すると少女は、心底愉快そうに笑い、フードを外した。

 血液のように赤黒い髪。病的なまでに白い肌。頭から生えた、歪な角。

 美しくも、ひどく恐ろしい。カグヤで学んだこの感覚は、高次元存在が放つ特有のものだ。


「お初にお目にかかる。我の名はティアマト」


 その名を聞いて、俺は息を呑む。前に、ヘンゼルとグレーテルの口から、その名を聞いたことがあった。

 二人には、〝パンデモニウム〟の幹部と名乗ったそうだが、はっきり言って、そんな枠に収まるような存在には見えない。  

 ティアマトは、ゆっくり俺に歩み寄り、その手を差し出してきた。


「この世界に降り立った、唯一無二の特異点よ……我は、ずっとお前を探していた」


 そう告げたティアマトの目には、強い渇望が宿っていた。


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