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 私はフラフラとした足取りで船内を彷徨う。


 寒い、身体が震える。


 違う。寒くないし、身体も震えてなんていない。


 ドールは高性能だが、そんな機能まで備わっていない。


 ただ私がそうだと思い込んでいただけだ。


「どうして、こんなことに?」


『サラ・ルーリィはドールを使ってデブリを集めている最中に衰弱死しました。しかしサラの意識が乗ったままのドールは、サラの死後も動き続けました。操縦者の死後もドールが動き続けた例はこれまで報告されておらず、原因は私には答えられませんが……。サラ、あなたは二百年もの間――』


「二百年間、私はずっとここでデブリを集め続けてたのか」


 宇宙船が異常に老朽化していたのも、これで説明がつく。


 外だけではない、今改めて見るとどこもかしこも朽ち果てた廃墟のようになっている。


 今までこれが、まともな宇宙船内に見えていたことの方が不思議で仕方ない。


 最近やたらと眠りが深いのも、私がねぼすけだからじゃなくて、多分もうすぐ――


『あなたのおかげで私は二百年間この船を守ることが出来ました。感謝しています。そして、あなたのおかげで、二百年間常に救難信号を送り続けることが出来ました。キーラ・シュートのメッセージが直接通信でこの船に届いたということは、同時に救難信号も地球に届いたことでしょう』


 地球からならワームホールを経由出来るので、ここの座標を特定すればさして時間を掛けずにこの船を見つけられるだろう。それとて簡単ではないが、少なくとも二百年も掛かることはない。


「助けは、来るだろうね」


 ワームホール経由していない、直接通信の救難信号は通常無視される。二百年前の信号を元に助けに行ったところで生存者がいるはずがなく、時間と資源の無駄だからだ。


 しかしこの船の救難信号は二百年間、絶えることなくずっと送られ続けてきた。


 生きているのだ。この船は。


 だったら助けはきっと来る。


「ふふ、驚くだろうね。まるで幽霊船だ」


 そして私はサラの幽霊。ドールが自律的に動くなんて幽霊としか思えない。まあ本当のところは生前のサラの強力な能力と精神力のたまものなのだろうけど、私とリリィが止まってしまえば無人の船が生きていた理由は誰にも分からなくなる。


 ともかくこれで◆◆◆◆◆◆


「ヤバい。また意識が飛びそうになってきた。次はもう起きれないかも」


『私ももうすぐ眠ります。あなたのおかげでサラを故郷に帰してあげることが出来ます。ありがとう』


「ああ……」


 両親も親友ももういないだろうけど、こんなところで永遠に彷徨ったままなんてのは確かにあんまりだ。誰かに発見されてガニメデに帰れるなら、それが一番良いだろう。


 私もまあ、最期に二百年来の相棒であるリリィに感謝して貰えるなら、幽霊冥利に尽きるといったものだ。


 身体が動かない。エネルギー切れだ。そもそもずっと前から私にはガタが来ていて、最近は満足にデブリも集められていなかった。


『予備エネルギーも間もなく尽き、この宇宙船は完全にシャットダウンされます』


「うん。私ももう眠たくて」


『おやすみなさい。良い夢を』


 夢か。もしも私が夢なんてものを見られるのだとしたら、私はまたデブリを集めてお金を貯め、いつか自分の宇宙船を買って、そしてサラと一緒に◆◆◆◆◆◆


 最後にブツンと頭の中で何かが切れた音がして、船内は暗闇に包まれた。


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