お金持ち姫の憂鬱
ー叶璃sideー
『キャー!手帳が無い!!!』
それは私が学校に行くときの事・・・
ふと、ポケットに手を入れて気付く・・・いつもあるはずの手帳が今日は無い!
『あぁ・・・あの真っ白の手帳??叶璃がいつも大事そうに持ってる』
細くて長い指を顎に添え、親友の相田奈歩[あいだ なほ]が言う
そう!それそれ!
真っ白で少し分厚い手帳!
私は凄い勢いで首を縦に振った
何か知ってるの!?
私の心の中でそんな希望が沸々と浮かぶ・・・・・・が、
『叶璃さ〜、いっその、事新しいの買ったら?もっとカラフルで可愛い奴!』
奈歩・・・ほっといてよ・・・
好きであんな手帳持ってる訳じゃないし・・・
出来ればあんな手帳持ちたくないよ・・・
だってあれは・・・普通の手帳と違うもん・・・
人に拾われたら・・・・・・
『奈歩!先行ってて!きっとポケットからハンカチ出すとき落ちたんだと思うの!探してから学校行くから!!』
『しょうがないな・・・遅刻しちゃダメだよ?』
『うん!じゃあ、後で!』
私は奈歩と別れて元来た道を戻った
『ここら辺だと思うんだけど・・・・・・無い・・・』
ここで汗、拭くためにポケットからハンカチ出した・・・よね?
・・・もっと向こうだったかな・・・?
『何か落としたのか?』
『え・・・?』
急に頭上から聞こえた声・・・聞き覚えのない声にビックリして顔を上げた
あ・・・かっこいい・・・
そこらの芸能人も目じゃないくらい・・・
身長180cm位の黒髪の男・・・瞳は吸い込まれる位の漆黒・・・そして、脚線美・・・
パーフェクトだよ・・・
でも・・・誰?
『あの・・・どなたでしょうか・・・?』
『あ、俺?俺は南高1年、城山疾風[しろやま はやて]』
南高!?
・・・私も南高なんですけど・・・
しかも私も1年で、城山疾風なんて・・・見たことも聞いたこともありませんけど・・・
嘘ついてません??
『あの・・・・・・』
『お前は?』
は?何が??
“お前は?”って・・・何の事??
『・・・・・・?』
『思いっきり頭に「?」が浮かんでるけど・・・?』
そりゃ浮かぶわ・・・
『“お前は?”の意味が分からないんですよ・・・』
『・・・は?お前、分かんねぇの!?俺は名前を聞いてるんだけど・・・』
あ・・・あぁ・・・なるほど・・・名前ね
『本田叶璃[ほんだ かなり]。』
『ふ〜ん・・・叶璃か・・・で?何探してんの?』
いきなり下の名前ですか・・・まぁもう会う事はないだろうから今だけならいいか・・・
『手帳・・・真っ白な手帳・・・探してんの・・・』
『手帳??そうか・・・ここら辺には無いんじゃないの?見たところ・・・』
『そうか・・・向こう探そうかな』
『探せば?じゃあ俺は・・・・・・』
え?もしかして一緒に探してくれたりする??
だったら凄い助かるんだけど・・・
『俺は・・・学校行く』
・・・ぇえぇぇ!!?
普通一緒に探してくれるでしょ
こんな困った人間をほったらかし!?
有り得ない・・・こいつ・・・人を思いやる心が無い・・・腐ってる!
『一緒に探してくれないの!?』
『嫌だね。俺は忙しいんだ。一人で探せば?じゃあな!頑張れよ』
そう言ってあいつは私に背を向けて歩きだした・・・
ったく・・・何が“忙しい”よ・・・
全くそういう風には見えないんですけど・・・!
何なのよあいつ・・・!
ムカつく・・・!!
もう!早く探そ!
私はいらつく心を抑え、もう一度手帳を探し始めた
キーンコーンカーンコーン・・・
嘘!!?
ヤバい!!遅刻だぁ!
もう・・・手帳は諦めよう・・・
悪い人に拾われてない事を願って・・・
そして橘[たちばな]に後で手帳を再発行してもらおう・・・
怒られるな・・・怒ったら橘、怖いんだよなぁ〜・・・
あぁ・・・朝から気分、ブルーだよ・・・
『あ!それより学校!!』
私は大急ぎで学校に向かった
『ハァ・・・ハァ・・・着いた・・・』
ガラッ・・・
『先生!遅れました!!』『本田が遅刻か・・・珍しいな・・・まぁいい。席に着け・・・今から転校生を紹介するから』
ん?転校生!?
あ・・・かっこいい人・・・
・・・って、ん?さっきもこんな事・・・
『ああー!!人を思いやる心が無い奴!!』
『叶璃・・・うっせぇ・・・それに俺、名前教えただろ・・・』
何で?何でぇ〜!!?
・・・ー南高、1年ー
ふと、あいつが言った言葉が頭を過ぎる・・・
そういうことか・・・転校生だから私・・・知らなかったのか・・・
私は軽くため息を着いた
『叶璃・・・手帳は見つかったのか?』
馬鹿にしたような笑い・・・
こいつ・・・・・・!
・・・私を放置して自分はのこのこ学校に行ったくせに・・・!
『見つかってない!もう諦めた!!』
私は少し怒りぎみに言った
すると突然目の前に何かが・・・・・・
っ何??
私は少し遠ざかって視点をあわせる
『っ・・・!!?』
手帳!私の真っ白な手帳!!!
何でこいつが・・・!?
『どうして・・・』
『お前とわかれてから学校行く途中にあったんだよ』
・・・まてよ・・・私とわかれて、あいつは学校に行った・・・その後、私の手帳を拾ったんだよね?
・・・って事は・・・・・・
『何で届けてくれなかったの!?私がそれをどれだけ探したと・・・』
『見つけた時にはお前から100mくらい離れてたし・・・どうせ学校で会うだろうってさ・・・』
だからってね・・・100mくらい走ってきなさいよ!!走って!
・・・っ!!!?
学校で会う事分かってた?もしかして・・・・・・
『中身・・・見た??』
私の言葉に城山は口の口角を上げた
笑顔が黒い・・・・・・まさか・・・
『お前がAランク?』
やっぱり・・・見られた・・・
人を思いやる心を持ってない奴に見られた・・・
腐った人間に見られた・・・
もう・・・終わりだ・・・
『何しょぼくれてるんだよ!別にばらさないし、手帳も返してやるよ!』
え!?
こいつにもあったんだ〜
人を思いやる心!
『やったぁ!ありがとー!』
私は城山が持ってる手帳を取ろうと手を伸ばした
そして・・・受け取ろうとしたとき・・・
城山がいきなり私の届かないところに手帳を上げた
『ちょっと!それじゃ届かない!!』
『誰がタダで返すって言った?』
えっ・・・・・・なんか・・・嫌な予感・・・
『そうだな〜?俺の言う事、1つ聞いてくれたらいいよ』
は??
『何でも?』
『うん。何でも』
『もちろん拒否権はあるよね?』
『はぁ?んなもんねぇよ!』
・・・い・・・嫌だー!!!
だってよ?何でも言う事聞く&拒否権無しだよ!?
それって・・・何言われるか凄く怖いんですけど!!
もしこいつの欲求不満に付き合わされる事にでもなったら・・・・・・
『無理!』
『無理じゃねぇって・・・』
『嫌!!』
『嫌じゃねぇ・・・・・・言ったろ?拒否権は無いんだって』
だからって・・・
『うぅ・・・・・・』
『じゃあばらしていいんだ?』
・・・ダメ!それはダメ!!
でも・・・・・・言う事聞くのも・・・
『どっちか・・・だぜ?』
こうなったら・・・しょうがない・・・
『私は・・・何すれば・・・いいの?』
城山の黒い笑顔がもっと黒くなる・・・
この顔は悪魔にしか見えないよ・・・
こうなったら・・・覚悟を決めろ!叶璃!!
私はギュッと固く目を閉じた
『じゃあ・・・お前には・・・・・・』
何言われるのかな・・・?
凄く・・・怖い・・・
城山の顔が近付いてくる・・・そして私の耳元で止まった
ち・・・近いよ・・・!
静まれ心臓・・・静まれ心臓・・・・・・
『フッ・・・今度のパーティーに連れていけよ。この俺を!』
ボソッと甘く呟いた
みんなに聞こえないようにしてくれてるんだ・・・
でもパーティーにつれてけなんて・・・
そ・・・そんなこと?
私はてっきりもっとひどい事かと・・・
もしかして・・・私が怖がってるのに気付いて優しくしてくれた?
いや・・・まさか・・・ね?
『何だよ・・・別にいいだろ?Aランクの金持ちさん☆』
あーぁ・・・それにしても嫌な奴に正体がばれちゃったなぁ・・・
私がAランクのお金持ちだって事は誰にも言いたくなかったのに・・・
私は昔から自分のお金持ちと言う部分にコンプレックスを抱いていた
貧乏人からすればただの金持ちの自慢としか取られないかもしれないけど・・・私にはこれほどの悩みはない
お金持ちってだけで態度を変える友達
お金持ちってだけで親しくしようとする周りの人々
私はそういう愛想付き合いをしたくない・・・
だから庶民の学校に行って普通の友達を作って平和に過ごそうと思ってたのに・・・
手帳を無くしたあげく、手帳の中身を見られて弱みを握られるなんて・・・
私は少し欲張り過ぎたのかな?
お金持ちって事を隠したいって思うのはいけないこと??
神様の意地悪・・・・・・
『ってお前・・・聞いてんのかよ!?』
『ん?あぁ・・・いいよ』
『そうか・・・楽しみにしとくよ☆それにしても・・・お前がAランクか・・・』
そういえば・・・城山・・・Aランクって普通に言ってるけど分かるのかな?
普通は・・・・・・
“A?なんだそれ?”
この反応が普通なはず・・・・・・
『城山・・・Aランクがどれくらいか分かるの?』
『あぁ・・・大体・・・』
わ・・・分かるんだ・・・
普通は分からないでしょ・・・・・・
いや・・・普通に分かるものなのか??
う〜ん・・・どうなんだろ?
お金持ちは総資産でランク分けされていて・・・
上から・・・S、A、B、C、D、E、F
そして私はAランク・・・
まぁ・・・かなりのお金持ちって事になる・・・
Sランク位になると世界的大企業が多い・・・
だからSランクの人数は極力少ない・・・
Aランクも少ないけどね・・・
大体・・・世界で20人程度・・・?
・・・多く、少なくってとこかな?
キーンコーンカーンコーン・・・・・・
え!?朝のHR終わり!?
早くないっすか!?
『おい!ボーッとしてないで席つけよ・・・』
『あんたに言われなくても分かってるわよ!』
『あんたじゃない城山疾風だ』
・・・この減らず口が・・・!
『はいはい!城山くん!あなたの席はあっちです!こっちは私の席!!』
私は怒りながら自分の席に座った
私の席は廊下側の一番後ろ
そして私の横の席は少し内気で勉強熱心な柊亮[ひいらぎ りょう]くん
無口だから喋り辛いけど勉強を教えてくれたりする優しい男の子かな
『お前・・・柊って言うの?』
『・・・そうだけど・・・・・・』
いきなり柊くんに喋り掛けた城山・・・
友達にでもなる気??
私は普通にそんな事を思っていた・・・・・・が、少し違った・・・いや・・・むしろ真逆!?
『先生ー!柊と俺の席変えていいっすかー!?』
『・・・は?』
何言ってんのこいつ・・・
柊くんも何が起きたのか分からず、口を開けたままポカーン・・・
『何言ってんのよ!あんたの席は向こうだって・・・』
『知り合いが近くの方が何かと便利だし・・・な?いいだろ先生!?』
便利ってなによ!!
私は物じゃありませんが?
それに知り合いと言っても今日の朝に会ったばっかで・・・
これは知り合いとは言わないんじゃ・・・?
『あぁ確かに便利ではあるな・・・・・・』
えぇ!?
って先生も納得しちゃだめだって!!
こいつと隣になるならまだ優しい柊くんの方が・・・
『先生!!ちょっと待ってくださ・・・!』
『でも城山、柊の許可無しには席は移動出来ないぞ?』
もう!先生・・・!
私の話を聞いてよ・・・・・・
『そうだよな〜・・・柊・・・俺と席、変わってくれね?』
『あぁ〜・・・・・・』
ん??何で今、柊くん・・・私の方をチラッと見たの?
『・・・本田さんはそれでいいの??』
え!?
・・・私・・・?
何でそこで私にふるの!?
しかも何か柊くんモジモジしちゃって・・・どうしたの?
『私・・・は・・・』
『叶璃もその方がいいよな!?』
はぁ??
いやいや・・・私がいいって言うわけ・・・
・・・・・・っ!!?
こいつ・・・今、しれっと私の手帳触りやがった・・・!
なるほど・・・脅しですか・・・
いいって言えと・・・
そういう訳ですね?
私がそんな脅しに素直に分かりましたって言うわけ・・・・・・あるんだなぁ・・・それが・・・
今はこいつに逆らえないし・・・
しょうがない・・・
『私はどっちでもいいけど城山くんも教科書とか無くて困るだろうから・・・』
『そうか・・・本田さんがそういうなら・・・・・・』
そう言って柊くんは机をずらし始めた
その間も悲しそうに私をチラッと見てはため息をついていた
・・・?どう言うこと??
そして無事に席を移動し終わり
私の横には城山・・・
それにしても・・・・・・
『柊くんどうしたんだろ・・・?何か様子変だったよなぁ?』
私は独り言のようにボソッと呟いた
『叶璃・・・お前・・・鈍感・・・』
『へ??』
『別に』
何よ鈍感って・・・
私は鋭い方だよ!?
友達の変化も大体気付くし・・・
・・・気付いてるよね・・・?
『・・・にしても・・・今HRが終わって休み時間だよな?何でみんな席ついてんの?』
城山が不思議そうに首を傾げる
た・・・確かに・・・
先生を始め、みんな、休み時間って言うのに席について動こうとしない・・・
何で・・・?
『先生・・・休み時間じゃないんですか・・・?』
『・・・ん?あ・・・あぁ・・・そうだったな』
そうだったな??
もしかして忘れてたんですか・・・?
先生が動かないからみんなも動き辛かったのか・・・
なるほど・・・
『おい、みんな!休み時間に入っていいぞ』
そう言って先生は教室を出ていった
その瞬間・・・教室の空気が穏やかになった
やっぱりね・・・
そしてこれもお決まり・・・
転校生は休み時間、人に囲まれる・・・
その言葉の通り次の瞬間には城山の周りには人だかりが出来た
しかもほとんど・・・いや・・・全て女子・・・
『城山くんって〜これまで何回告白された事ある?』
だとか・・・
『好きなタイプはどんなタイプ?』
って・・・城山はまるで合コンに来ているみたいな質問攻め
私はいつもより声のトーンが高い女子の声にうんざりして机にふせたまま廊下を向いた
・・・その行動が間違いだった事に気付く・・・
廊下にも城山の評判を聞き付けた女子の群れ
・・・あぁ・・・城山は一日にしてこの学校の人気者か・・・
私は邪魔かぁ〜・・・
私は席を立って奈歩の席に向かった
『奈歩〜・・・あの席うるさい・・・』
『しょうがないよ・・・この学校であんな美形はめったに居ないからね』
まぁ・・・性格を抜けば私も惚れてたかもしれない・・・
でも私はやっぱりかっこいいとかより性格が大事だと思うから好きにならなかったんだな・・・・・・多分・・・
『本田さん・・・城山くんとどう言う関係?』
え・・・?
この声は・・・・・・?
『柊くん!?』
奈歩の隣の席に座っている柊くん・・・
あ!そうか・・・本来は窓際の一番後ろのここに城山が座るはずだったんだ・・・
そして席を変わったからここに柊くんが・・・
忘れてた・・・
『そうよ!叶璃!あんなイケメンとどう言う関係!?』
『どう言う関係って・・・・・・』