逃亡
「なんだか、最近は国が全体的に騒がしいな」
「もうすぐ国王の誕生日なんだ、この国では毎年の国のトップの誕生日に盛大にお祭りをやるんだ」
「へぇ、慕われている証拠だな」
「あぁ、ここはいい国だ。そうだ、花火もやるみたいだぞ」
「花火か!そうか、この世界にもあるのか」
「ずいぶんと上機嫌になったな。そうだな、この国の花火は派手で他国からも人が集まる。一応、正門以外の門は閉めて、人の出入りを押さえるつもりらしいが、ここの辺りは人でいっぱいになるだろうな」
「…気をつけろよ。人が多いってことは、比例して危ない人も増える。気をつけろ、特にあの灰色の布つけてる連中とか」
「ふっ、馬鹿にするな。私はいつでも一番人通りが多い時間に大通りを通って帰っている。それにあの[モンスターズ]だったか?あの連中はもっと金持ちの人間を狙うから」
「万が一っていうこともあるだろ」
「心配性だな、大丈夫さ」
「…」
「どうした?」
「祭りが終わったら、俺はこの国を出るよ、これ以上探し方も見つかってない仲間探し続ける訳にもいかないし」
「…そうか、寂しくなる」
「俺がいなくて泣くんじゃねぇぞ?」
「そんなものもう乾いたよ」
「…急に重い話をするな」
「ははは、ごめん」
「…」
「なぁ」
「ん?」
「どうせ最期だ。一緒に回らないか?お祭り」
服装はいつも通りでいいだろうか。一丁前にそんなことを考えたが、そういえば俺は金がなくてろくな服を持っていなかった。よって必然的にいつも通りである。
「よう」
「やぁ」
「お互いいつも通りか」
「はは、君も私もまともな服もってないからな」
「言えてるな」
「じゃあ、いこうか?」
可愛い。
祭りの日といっても、まだ花火の時間じゃないからか人は想像より少ない。ただ。
今日は灰色をよく見る。ルナから離れないようにしよう。
「ヒロキ」
「どうした」
「あれを見てくれ」
彼女が指を指す先には見慣れた屋台があった。
「ああ、あれは輪投げだな」
「知っているのか?」
「あぁ、俺のいた世界にあった、輪っかを投げてそこに景品を入れられれば。それがもらえるっていう遊びだよ」
「ふむ」
彼女の目が魔道具の解説をしてるときくらい輝いている。
「やるか?」
「あぁ、やる」
「いらっしゃい、お二人さん」
「いくらですかね」
「銅貨一枚で五回だ、どうだい。やってくかい?」
意外と足下見るな、まぁいいか
「お願いします」
「まいどあり」
「ほら、ルナ」
「…自分の分くらい自分で払える」
「払わしてくれ、いままで俺とつるんでくれた礼だ。今日は全部払う」
「私だって礼はあるが…まぁそういうことなら」
三時間後
「それにしてもお前、取ったなぁ!」
「楽しくて、つい」
俺の両手にはいっぱいの景品が握られている。ルナの景品が。
「私の景品なんだから、私が持つよ」
「ん?そうか。じゃあ、半分」
「あぁ、もらおう」
「それにしても、増えてきたな。人」
「そうだね、もうあと一時間後で花火が上がり始めるからな」
「そろそろ座れるところを探そうか」
「そうだな」
歩きながらなんとなしに聞いてみる
「祭りの日の割にはあまり問題は起きてないな」
この国はあまり治安が良くない、それで人が増えるからより悪化すると思ったんだが。
「なんせ国王の生誕祭なんだ、トラブルが起きたら国王があまりいい顔しないだろう?だから、見ろ。あれは国の直属の兵士だ」
「今こっちに回してくれる兵力があるなら、普段から警備して欲しいもんだ」
「無茶言うな、今は魔王軍に対する警戒でただでさえ人手不足だ、今祭りをできるのはこの国が魔王城から一番遠い国だからだよ」
「なるほどね。…………ん?」
「どうした、ヒロキ」
「いや…」
気のせいか?いや、間違いない。灰色の布をつけた連中が、一斉に王城の方に向かっている。何をするつもりだ?まぁいいか、何か起きても、国の兵士がなんとかするだろう。
散々歩き回った結果、結局一周して普段ルナが店を建てているところに腰を落ち着けた。
「あー、疲れた」
「歩き回る必要なかったな」
「いやほんとに」
「そろそろ始めるな」
「あぁ。楽しみd____」
爆発音がした。
花火か。少し早いな…いや、違う。兵士が焦った様子で王城に走っていく。何かあったみたいだ。
「ルナ!」
「[モンスターズ]だ。さっき城に向かっていくのが見えた」
ルナもみていたらしい。
「どうする?」
「何もしなくていい、行っても邪魔になるだけだ」
…確かにここは城から近い、それでさっきの爆発音は小さかった。そこまで大きな爆発じゃないはずだ。問題ないだろう。
そして花火は打ち上がる。
一番最初の花火は一番最後に上がるような派手な花火で、思わず目を奪われた。音も非常に大きく花火の音以外何も聞こえなくなった様な気がした。
「すごいな、ルナ」
横を見る。
ルナはいなかった。
何で?なにか用があるとしても俺に一言くらい言うはずだ。誘拐?なわけない、国の兵士が見張っているはず____[モンスターズ]、人攫い、小さい爆発、最初に上げるには大きすぎる花火。
周りを見ると俺と同じように人を探しているらしき大勢の人がいた。さらにその奥。この場所に残った一人の兵士に捕まった灰色の布を頭に巻いた少年がいた。少年の側には少年が縄で捕まって転んでいる。
やられた!爆発は兵士の数を少なくさせる陽動、馬鹿でかい花火に気を取られている間に一気に人を誘拐したってことか!
落ち着け、あいつはどこに行った?この誘拐には見境が無い。目的は人身売買の可能性が高い、この国に奴隷制はない。だから売るとするならば他国に運んでいくだろう。そして今日国の入り口は正門しか開いていない。だが、悪党がまともに正門を通るとは思えない、それに国が所持品チェックを入れるだろう。だったらどうする?この国は壁に囲まれている。見つからずに登るのは至難の業だ。
下を見て気づいた、景品と魔道具を入れた袋が落ちて中身がぶちまけられていた。
見覚えのあるものがあった。
いつかルナが言っていた。[捜し物を探す棒]
俺は迷わずボタンを押した。
その直後、壁にぶち当たった。
彼は私が攫われた事に気付いただろうか。…まぁ流石に気付くか。だが、気づいたところで彼は来てくれないかも知れない。もう彼はもう国を出ると聞いた。私なんかほっといて、ぱっぱと親友を追いかけに行くかもしれない。それにしても、攫われるのは二回目だ。妙に落ち着けている気がする。思えば、あの日、家族に売られた日。それからずっとこんな気持ちだった気がする。救われたいと、そうとも思えずに。
「………?」
だったら何で私は彼のことを気にしているのだろう。彼に期待してるのか?
…ここは、どこだろうか。窓はなく、光は蝋燭一本分しかない。
辺りを見回すと、様々な人が私と同じように口と手足に縄を結ばれて、うずくまっている、抵抗しようとした人はいたが、剣を向けられてすぐおとなしくなった。
「いいか、てめぇらは今から奴隷として扱う。おとなしくしてれば命の保証はしてやるよ。」
私の知る限り、[モンスターズ]はただのチンピラ集団だったはずだ。しかし今彼らがやってるのはチンピラがやるには規模が大きすぎる。何があったのだろうか。優秀な頭でもできたか?
「それにしてもボス、女ばかりですね」
「そりゃ女の方が高く売れる、見た目が良いとなおさらだな」
ボスと言われた男はそう言いながら私の顎を掴む。自分の容姿が良い方だと自覚したのは、オークションに出された時、司会者が可憐といっていたのが始まりだった。この見た目でよかったと思った事など一度もない。
「なぁ女、お前やけに落ち着いてるな、なんでだよ」
質問されているが、口に縄を結ばれているので何も言えない。
「あぁ、喋れないのか。ほら外してやるよ、騒ぐなよ」
「なんでしょう、慣れたんです。こういうの」
「この状況を慣れただと?そりゃお辛い人生だったなぁ。でも、今日からまたもっとお辛い人生だ。頑張れよ」
…思えば私の人生、酷い物だった。ようやく逃れたと思ったが、もう逃げられないのだろう。
今まで生きててもいいことなんて無かった。だったら、これからも同じなんじゃないか?
口は空いてるが、逆らう気はない。そんな気も失せた。もういいか。
花火の音が聞こえた。
あぁでも、彼と花火は見たかったかもしれない。
この棒は、持ち主に向かって一直線に向かうものらしい、たとえそこに障害物があっても。
よって、その棒を握っている人間はその障害物に激突しまくる羽目になる。
必死に壁を避けながら、時々激突しながら。途中見かけた国の兵士に事情を説明して。必死に進むと。
「あ?」
地面に埋まった。
しばらく土を食った後、抜けた。棒は地面に刺さったかと思えば。カン。音を立てた。
土をどかすと、鉄の扉が出てきた。
「地下かよ…」
そこには迷路があった。道を知らなければ迷うだけだろう。
「っふ。だが俺にはルナの棒がっ!!!」
壁を突き抜けまくった。
うん、そうだよな。直線に行くもんな。
しばらくして、抜けた。
周りを囲んでいた、壁の一面が吹き飛んだ。
そうして聞きなじみのある声が響いた
「あぁ…クッソ痛ぇ」
「ヒロキ!」
「あぁ、よう。助けに来たぜ」
「おい」
「はい?」
「お前なんでここが分かった」
ボスと呼ばれた男がヒロキに聞いた。
だがその質問に答えはなかった。
「答えるわけねぇだろ」
そういいながら彼は剣を伸ばして刃じゃないところでぶん殴った。
「ただのクソチンピラ集団が、俺の友人に手出すなよ」
大見得張って啖呵切ったはいいものの正直、勝てる気がしない。ボスを初見殺しで気絶させたのはよかったが、多分ここにいる奴は全員俺より強い。それが10人ほどいる。しかも、援軍が来るだろう。通報はしている。その内兵士がきて取り締まってくれるはずだ。
つまり
「かかってこいやぁ!」
と、言いながら。俺はルナを抱えて逃げた。
「「「「「待てやぁゴラァ!」」」」」
「ちょっっっっと、待って待って待って!ヒロキ!まだ他に人が!」
「もう通報してある!とにかく縄解くぞ!走れるか?」
「…うん!」
「良い返事だ!」
「!、ヒロキ!危ない!」
思わず前転する。
矢が飛んできた。完全に殺す気だ。
「やばい、俺死ぬかも」
「無策とか君は馬鹿か!?」
「うるせぇ必死だったんだよ!」
「とにかく!追いつかれるぞ!」
「どうしよう!」
「なぁ、私の杖持ってるか!?」
「あぁ、あるぞ」
「頂戴!」
袋を漁る。杖を取り出して、渡す。
「ナイス!」
彼女は振り返って、唱える。
「[寒冷、氷雪、極寒の刑。打ち出すべきは死の礫]フロストストーン!」
「魔法だ!お前ら避けろ!」
「[爆ぜろ]」
瞬間、打ち出された礫は破片を持ってはじけ飛んだ。チンピラの足とかを貫く。四榴弾みたいな感じだ。
「…本当は、市街地で魔法使っちゃいけないんだけどね」
「お前、魔法使えたのかよ、知らなかった」
「言わなかったから」
「おい!いたぞ!潰せ!」
「っと、ほら行こう!」
「あぁ!」
「お前ら!顔覚えたからな!二度とこの国を歩けなくしてやる!」
しばらくして、兵士が追いついて、[モンスターズ]は捕まった。
「ヒロキ、本当にありがとう。助かった」
「…あぁ」
「どうした?何か言いたげじゃないか」
「いや、終わっちまったな。花火」
「…あぁそうだな」
無言だ。でも彼女はどこかこの状況を楽しんでいる気がする。
「…なぁ」
「なんだ?」
言って良いだろうか、言ったらどう思われるだろう。ルナは辛い目に遭ってきた。もう平和に、誰にも狙われない暮らしをして良いはずだ。
「…そういえば、[モンスターズ]の残党はまだ残っている。しばらくこの国は大手を振って歩けないだろう。どこかの国に行くとするよ。しかし、行く当てもない。どこかに、この国から出ようと考えている信頼できる人はいないか」
「…!」
「どうした?何か言いたげじゃないか」
言わせてしまった申し訳なさを感じつつ、俺は笑って言った
「ルナ、俺と一緒に来てくれないか」
「もちろんだよ、ヒロキ」