転移
プロローグ
親友が死んだ、自殺して。
あいつは前からストーカー被害を受けていた。尾行されたり、電話がきたり、実害はなかった。あいつは気にしていないと言っていた、大丈夫だと思っていた。何度も自分を責めた何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
死のうともした、そうしたら遺書が届いた。わざわざポストに入れたらしい、律儀な奴だ。
一言だけ
俺の分まで生きろ!!!
「ずるいやつ」
俺はお前以外に信頼できるやつなんていないんだぜ?
生きようとした。雨の日だ。信号が青に変わった信号機を見て渡ろうとした瞬間
俺は死んだ。
最期に視界に移ったのは車がスピードも緩めずに走り去っていくところだった。
1,転移
目の前が真っ白だった
どこからか声が聞こえる
「貴様に機会を与えよう。選ぶがいい。ここで消滅し、次の人生を歩むか、別の世界線でそのまま記憶を保持したまま生き延びるか。質問は受け付けない。」
ちょっと待ってくれ、ここは何だ、この脳内に直接響いてくるやたらな上から声は?そしてなぜ喋れない?
「貴様の考えていることはすべてこちらに伝わっている、答える義務はない。早く決めろ」
……………早く決めないとやばそうだ、さっきから圧がすごい。つぶれちまいそうだ。
ここで消えるか、別の世界線でまた生きてくか。
俺の分まで生きろ!!!
そんなもの最初から決まっている
「わかった、ならばせいぜいもがき苦しみながら、我らを楽しませろ。」
俺の意識はもう一度切れた。
目が覚めると、そこはまさに、剣と魔法の世界だった。
鎧を全身に纏い、剣を携えた男。ローブを羽織り、杖を持った女。とんでもない格好をした女。
何故か言葉は読めるし、道行く人々のしゃべる言葉もわかる。それだけだ。
え?それだけ?嘘だろ?この右も左もわからない異世界で?言語がわかるだけ?お金もなし?詰んでない?
「なあ」
だいたいこれなんなの?何の説明も受けてないんだけど、無責任すぎない?
「なあおいって」
「はっはい!?」
「あんた、異世界から来たものだろう?」
「え、あ、はい!そうです!」
「敬語じゃなくていいぞ、俺はユグレイ。異世界から来た人間を案内する職業をしている。怪しい男と思うだろうが、行く当てもないだろう?取りあえずついてきてくれ」
「あっと…よろしくお願いします…ユグレイさん」
「敬語…まぁいいか。よし少し歩くぞ。ん…なんて呼べばいい?」
「わかりました、鈴村弘樹、ヒロキでいいです。」
「了解した、それでどうだった。神ってのは」
「神?」
「こことは違うドコカからきたんだろ?そんときに会うもんじゃないのか?」
「なぜだかわからないですが、白いもやがかかってて。やたら高圧的な態度でした」
「やっぱそうなのか、神ってやつは」
「やっぱなんですか?」
「今までの転生者全員がみんな言うんだよ、やたら高圧的だったらしい。俺は神ってやつを信じていたんだが。揺らぎ始めてしまった」
「そりゃ、きついっすね」
「ただ、神と会った人間はもれなく運気が上がるらしいぞ」
「運気?」
「ああそうか、この世界の人間はそいつの能力がはっきり分かるようになっててな。攻撃力、速さ、魔法技量、知力、運気の欄にそれぞれ最低Eランク、最高は現存する値でSS++までの間で振り分けられる。あともう一つこの世界の生物は全員スキル。まぁ特殊能力ってやつだな。それがもらえるんだが。そのスキルの数や強さ加減は個人の運気によって異なる」
「なるほど、それはどこでわかるんですか?」
「それがわかるのが、ここだ、ついたぞ、ギルドだ」
「ギルド…」
「さて悪いが俺はここまでだ、これ以降困ったことがあればここを訪ねろ、そしてもっと詳しいことはここのギルドの職員が教えてくれるさ」
「わかり…ました」
「おう、じゃあな!頑張れよ!」
「ありがとうございました」
「あ、やっぱ待て」
「はい?」
「灰色の布を身につけた奴らには逆らうな、[モンスターズ]といって。何をしでかすか分からない連中だからな」
「分かりました、いろいろありがとうございます」
「気にすんな、んじゃ頑張れよ」
そうして俺はギルドの中に入った
「こんにちは!ギルド登録ですか?職業の変更または登録ですか?」
「あ、えっと」
「異世界から初めて来た方ならギルド登録ですね!」
「わかりましたじゃあそれで!」
「ではこちらにお越しください!」
「はい…」
「では、ギルドカード登録から始めますね。こちらの水晶に手を当ててください。」
「あっと、わかりました」
ほんとに異世界なんだな、水晶だなんて。
「あなた、転生者ですよね?転生者の方は皆さんステータス高いんですよ」
「そうなんですか」
待て、つまり俺も生前読んでいたラノベで出てきたチート能力をもらうことができるのか。んで、身体を洗ったら実は美少女だった奴隷とか、肉をあげたら懐くケモミミとか、簡単に惚れるお姫様とかを囲ってハーレムができるのかよ。
「あっ結果が出ましたよ!」
「はい!」
「結果はこのカードに映し出されま…」
「どうしました?」
「あー、いえ。はいまぁご確認ください」
「わかりまし…え?」
ステータス欄
攻撃力 E
早さ E
魔法技量 E
知力 B
運気 C
技術[スキル]
努力家[オーバーテイカー] レベルC
成長しやすい
「これは…」
「あー、気を落とさないでください、なにも体を張る仕事しかない訳でもないですし」
「えぇ、そう…ですね、はい」
いや、でもね、うんやっぱ俺としてはやっぱとんでもない力とかゲットしてケモミミの女の子とか囲みたかった…
「では、登録はすみましたがどうします?このまま職業相談に行きます?」
「あ、じゃあよろしくお願いします」
「わかりました、じゃあこちらに」
「はい」
市役所とハロワが合体したような感じなのだろうか
「ではあなたに向いている職業を割り出すので、こちらの水晶に触ってください」
「わかりました」
どれも水晶でやるみたいだ。
「あなたの適正職業は、商売人。が向いています」
「…あ、だけ?」
「はい、あなたは商売人だけにしか向いていないですね」
「だけですか」
「ただ適正はAランクですよ」
「ありがとうございます」
「ではこれで職業決定でよろしいですか?」
「あー、いやすぐ決めるのはちょっと、考えます。適正がない職業もやることはできますよね?」
「まぁそうですが、あまりおすすめはできません」
「わかりました、決まったらここに来ればいいんですよね?」
「はい、こちらに来ていただければ許可証を出せますのでくれぐれも勝手に起業はしないでくださいね」
「わかりました、じゃあありがとうございました」
「はい、ではまたお越し下さい」
商売人ってなんだ?物売る仕事だよな、うん。
見てみたいな。どこかで見られるのかな。
俺はギルドからもらってきた地図を見る、マーケットと書かれたところに検討をつけて、歩きだした。意外と近いようだ。
少し歩くと、喧噪が近づいてくる。喧噪といっても耳障りな物ではなく、もっと心地よい、どこかなつかしさを感じる騒がしさだ。
喧噪の中に身を委ねると、道行く雑踏の足音、会話。商売人の大声、一面に広がる商品、白色から黒色まで網羅し、肉を焼いている火や人々の体温によって熱された空気、その全てが俺の感覚を刺激する。そうだ、前の世界の縁日がこんな感じだった。
思わずふらっとどこかの店に寄っていきたくなるが、今俺は金がない。
ひやかしの趣味はないのでただ歩くだけだ。それでも、楽しい。
でも、よく観察すると、見えてくる物がある、人の波があるのだ。人がずっといる店、まちまちな店、誰もいない店。
商売人が向いてるとは言われたが…この中だったら俺は間違いなく誰もいない店になるだろう。
そんな中、俺の目は一つの店に異様に吸い込まれた。
その店は、さっきの分類で分けるのならば、誰もいない店だろう。
怪しげな道具がびっしりと置いてあり、他の店のように客を呼び込む訳でもない、ただそこにいるだけ、異様に静かだった。何を売っているかも分からない。そこに座っているのは、女..?だろうか?白い布で全身を覆った赤毛の女がいた。その女は俺が見ていることに気づくと、赤い目を怪訝そうに見つめ返し、首を傾け、俺に話しかけた。
「何?」
「あ、いやすみません。何を売っているのか気になって」
「あぁ、魔道具[マジックアイテム]を売っているんだよ。自作の」
「自作の?作れる物なんですか」
「…君転生者だろう、魔道具は基本作れる物ではないさ。ダンジョンなどでドロップするんだ」
「じゃあ、どうやって」
「秘密、といっておくよ。ところで、お金はあるのかい?」
「…すみません、冷やかしに来たつもりはなくて、なんとなく吸い込まれたというか」
「ふふ、なんだそれは。
…ふむ、だったら実験に付き合ってくれ」
「はい?」
「これを持っておいて」
なにやら様々な模様が刻まれた棒を渡された、怪しい
「なにか時間があるときのとかいつでも良い、ここのボタンを押してくれ。それでいかなる結果になろうと私に報告してくれれば、少しではあるが報酬を出す」
「ボタンを押したら何が?」
「結構な勢いで伸びるか、…」
「か?」
「爆発する」
「おい!?」
「それ含めての実験なんだ、別に、押さなくても良い、ただ押したのならば結果を教えてくれ」
気がついたらギルドにいた、
「一週したのか」
それにしても、俺はどうするべきなのだろうか、商売人になったとしても、成功する気が起きない、それ以外は適正がないらしい。
急がないと、なんせ俺は今日の宿すらないのだ。
「号外!号外!」
ふとそんな声が聞こえる
この世界にも号外はあるのだな、とそんなことを考えながら地面に落ちた紙を拾う
「っ……!」
知ってる顔だった、いや知らないはずない。前世で誰よりも見た顔だ
[冒険者 ムライ 魔王軍幹部を一撃]
俺の親友は、この世界に来ていたのだ