第五話 対決
二人は決断してから早かった。持ち時間は一人三十分で、その時間内ならいくらでも着替えていいというルールだそうだ。
初めは二人とも店探しをするようで、僕はモール内のベンチに腰掛けて二人を待つ事になった。
「二人とも張り切ってるなぁ」
服屋が多いフロアを右往左往する二人を見て、ふとつぶやいていた。
僕もすごい立場になったもんだ。昨日までは女友達なんてハルくらいしかいなかったのに、いきなり後輩ができて遊びに来てるんだもんなぁ。
そんなことを考えていると、白鳥さんが目を輝かせながら僕が座っているベンチまで走ってきた。
「せんぱいっ! こんなところ始めて来ましたよ!」
「楽しそうでなによりだよ。それで、いいと思った服屋さんは決まったの?」
「はいっ! ハルせんぱいには負けませんよー!」
ハルに負けないと豪語する白鳥さん。だが甘いな、僕にはどっちが勝つか分かっているのだ。
まぁ、ハルにせいぜい頑張ってとでも言っておくか。
「なンか失礼なこと考えたろ」
座っている僕の後ろにハルが立っていた。あまりにも気配がないためビクッと体が震える。
「ななな、何のことかな?」
「やっぱり思ってンじゃねえか」
僕は嘘をつくのが下手らしい。それか幼馴染のハルだから見抜けたのかな。どちらにせよ口に出した瞬間ボコボコにされることは目に見えている。
二人が揃ったことで、ようやくファッション対決が始まるみたいだ。僕は後についていくだけだが、二人とも気合が入っているようだし、少しばかり楽しみに思っている自分がいる。
「最初は私からでいいですか?」
僕には決められないし、ハルに視線を向ける。
「おう、いいぞ」
ハルは自信満々のようで即答だった。
多分ハルは対決よりも、可愛い格好をしている白鳥さんを見たいだけなのかもしれない。
正直言うと僕もそうなのだが、顔には出さないでおく。あくまで審査員として振る舞わなくては。
「じゃあカモせんぱい、少し待ってて下さいね」
そう言って白鳥さんは服屋に向かってトコトコと走っていった。
「「か、かわいい!」」
白鳥さんが試着室に入って数分が経ち、レースのカーテンが開いた。中には白いワンピースを着た可愛らしい格好の白鳥さんがいる。
彼女は「ふんす」とでも言うように両腕を腰に当てて僕とハルの感想を待っているようだ。
ワンピースだからこそ強調される白いうなじ、キメの細かい肌を存分に見せつけるように伸びている腕も相まってモデルのように見えてしまう。
「かわいいじゃねーか」
「本当に似合ってるね」
僕は内心ドキドキしながらも平静を装って感想を言った。おそらくハルにはバレているだろうが、似合っていると言ったし見逃してくれるだろう。
しかし本当に可愛いな。
「せんぱいが褒めてくれたのでこのワンピース買います!」
「え!? 買うの!?」
「だってせんぱいが褒めてくれたんですよ? それに、服を買うために来たんですから当然です」
そういえばそうだったな……いや、それでも僕ごときがいいと言った服でいいのか……?
「じゃあ買ってきます!」
そう言って試着室に戻ると、すぐに着替えて白のワンピースをレジに持って行ってしまった。
「なンか、司にゾッコンって感じだな」
「昨日会ったばかりのはずなのにね。なんか距離感近いんだよなぁ」
少なくとも僕と白鳥さんの距離感は会って一日のものではないだろう。ひとつ屋根の下ではあるけれど……あまりにも近すぎる。
「とりあえず大事にしろよ」
「おう」
「ンじゃ、アタシも服を探しに行こうかな」
そう言って、ハルも店の中を物色しに行った。
暇なのでボーッと距離感について考えていると、
「せんぱーい! 買ってきましたー!」
と、白鳥さんは少し大きめな紙袋を持って帰ってきた。
「意外と安くて助かりましたよー」
「普段はそういう服は買わないの?」
「せんぱい、田舎を舐めないほうがいいですよ」
それだけ田舎から東京に来たのか……? それなら納得なんだけど……
「ウーバーは対応してませんし、服屋どころか遊べる場所なんてないですから」
「なるほど」
だから昨日、スーパーに行っただけであんなにはしゃいでいたのか。そして田舎事情は深刻みたいだな。
「ところでハルせんぱいはどこです?」
「ああ、ハルなら服を探しに行ったよ」
「ハルせんぱいなら何着ても似合いそうなんですけどね」
それに関しては僕も同感だ。ハルは口調以外完璧美人なんだけどな。どうしても口調のせいで人から避けられるから友達がそこまで多くはない。
なので道を歩けばナンパされることはしばしばあるそうだ。本人曰く、全員蹴り飛ばしているそうだが。
「白鳥さん、覚悟したほうがいいよ」
「……というと?」
これは先に伝えておいた方がいいだろう。
実はハルはーー
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ついに二人がぶつかります!
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それでは次回また会いましょう!