第十九話 知らない姿
「ハル!?」
「な、何名様ですか?」
偶然の遭遇に驚きながらもハルは直ぐに営業スマイルに戻り、マニュアル通りの接客をし始めた。
目を見る限り聞くな、ということらしい。
「えっと、二人です……」
「では、こちらのお席へどうぞー」
顔は笑顔でも声が笑っていない。どう聞いても脅すような声色なんだが。
席に座ったのはいいが、白鳥さんも居心地が悪そうでソワソワしている。
「せ、せんぱい。これは見てはいけないやつでは……」
「うーん、ハルの事だしいじらないであげようか」
殴られそうだし。
「でも、ハルがバイトしてるなんて初めて知った」
今までの高校生活中にも聞いたことがないし、本人もやる気はないと言っていたのに。
社会体験は悪くないし、何か買いたいものでもあるんだろう。触らぬハルに祟りなし、だな。
「ハルも居ずらそうだし早く決めて食べちゃおっか」
「そうですね」
そう言って白鳥さんはメニューを渡してきた。もう頼むものは決まっているようだ。
僕もさっさと決めてしまおう。
「ご、ご注文はお決まりですか?」
メニューを眺めて決めあぐねていると、ハルが注文を取りに来た。ハルに似合わぬ明るい笑顔で。
寒気を感じながらも注文を済ませて、ドリンクバーを取りに行く。僕が席を立つと白鳥さんも後から着いてきた。
「せんぱいは何を飲むんですか?」
「僕はいつもアイスコーヒーだよ」
「カフェイン大丈夫なんですか?」
痛いところを突かれたな。僕は栄養ドリンク的なものは飲まないが、コーヒーだけはがぶ飲みしてしまうんだよな。
そのうち尿路結石になるよ、と大家さんから忠告を受けているんだった。
「確かにやばいかも……白鳥さんは何飲むの?」
「私は言わずもがなメロンソーダですとも!」
「じゃあ僕もそれにしようかな」
お互いに飲み物を注ぎ、ハルを探しながら席に戻った。
ハルはホールを担当しているようで、こちらを気にも留めず接客に専念している。
あんな喋り方をしているが元は明るい性格だからか、普通に接客できている。
「気になります?」
「うん、ハルがバイトなんて意外でさ」
「私もバイト始めようかな……」
一人で引っ越してきた挙句にバイトまでしてお金を稼ごうだなんて……なんていい子なんだろう。
「せんぱいはバイトしてるんですか?」
「バイトって言えるほどでもないけど、親戚の蕎麦屋に手伝いに行くことはあるね」
「蕎麦屋っ!? 今度連れていってください!」
「い、いいけど」
よほど蕎麦が好きなんだろうか。それなら教えない選択肢はないな。
「お、お待たせしました」
そんなことを考えていると、ハルが料理を運んできた。
次来たらぶっ飛ばすと言わんばかりの剣幕だったので、僕と白鳥さんは縮こまりながら料理を食べることになった。




