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第十六話 寝ぼけ後輩

「しぇんぱい? わらひ、寝ちゃってまひた?」


 大家さんと入れ違うように、白鳥さんが階段を降りてきた。寝ぼけているようで呂律もまわっておらず、フラフラとした足取りだ。


 それもそうだろう。僕が大家さんと話していた数十分しか寝ていないのだから。


「うん、それはもうぐっすりとね。僕の部屋に寝かせるわけにいかないから、白鳥さんの部屋まで運んじゃったけど良かった?」


 年頃の女子の部屋に勝手に入ってしまったことは謝っておこう。


「大丈夫れふー」


 まだ起きているとは思えない彼女はソファに座り、ぼーっとテレビを眺めはじめた。


 この間に朝ごはんを作ってしまおう。時間もないし、トーストとスクランブルエッグでいいだろう。


「あ、卵がない」


 確か今週の初めに買ってあったはずなんだが。しょうがない、スクランブルエッグの代わりにハムを焼けばいいか。


 最近冷蔵庫から食材がちょこちょこ消えている気がする。おそらく大家さんが夜食やおつまみとして食べているのだろう。別に良いのだが、献立が狂うので事前に行って欲しいものだ。


 卵の代わりに、ウインナーとハムをフライパンで焼くことにした。ここ二年ほどご飯を作り続けたせいか、急な献立変更にも対応できるようになり、レパートリーが多くなったな。


 ついでに、ベビーリーフで簡単なサラダも作っておこう。そうして着々と朝食の準備が進み、いい匂いが立ち込めてきた。


「せんぱい、何か手伝うことはありますか?」


 白鳥さんは目が覚めてきたのか、ちょこんと顔を出してそう聞いてくる。


「じゃあコーヒーを作って欲しいかな。お湯は沸いてるからマグカップに注ぐだけでいいよ」


「はーい、せんぱいはお砂糖いります?」


「ううん、僕は大丈夫」


 朝のコーヒーは絶対にブラックが一番だろう。異論は認めるが、朝から甘いコーヒーは僕としてはキツイものがある。


「大人ですねー、私なんてミルクなしすら飲めませんから」


「そんなことで大人って言えるなら白鳥さんの方が大人だよ」


 間違ってはいないだろう。誰にでも優しく接することができて、こんな僕にだって愛想良くしてくれているんだ。


 それに比べて僕は……何ができるのだろうか。


「そんなことないですよ。はい、コーヒーですっ!」


 俯いた僕を慰めるようにコーヒーを出してくれた。しかし僕の前に出されたのはミルクの入った甘い匂いがするコーヒーだった。


 そして白鳥さんが手元に置いたコップにはブラックのコーヒーが入っている。


「えっと、逆じゃない?」


「いいんです、これで。せんぱいもたまには甘いコーヒーを飲みましょ? 私もブラックに挑戦するのでっ!」


 そう言うとブラックのコーヒーをちびちびと飲み始めた。にがーと声を漏らしながらも本当に嫌ではないようだ。


 僕は前に置かれたマグカップを見つめる。


 きっと白鳥さんのことだから、ものすごく甘いんだろうなぁ。そう思ったがせっかく彼女が僕に作ってくれたんだから、飲まなきゃ失礼だろう。


「いただきます」


 そう言い、あったかいコーヒーを啜る。


「どうですかせんぱい? 美味しいでしょう!」


 女子高生が作るコーヒーなんて甘々すぎて飲めないと思っていたが、白鳥さんのは一味違う。


 ミルクも砂糖もちょうどよく、甘すぎず苦すぎない美味しいの一言に尽きる出来だ。これを飲んでしまうとブラックが良いなんて言えないくらいに美味しかった。


 少なくとも勢いで失言をしてしまうほどには。


「白鳥さん、毎日コーヒーを作ってくれませんか」


「えっ!? それって……プロポーズですか……?」



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