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第十一話 後輩の手料理

 雰囲気のいいまま帰ってきた僕達は、そのまま同じ部屋に……なんてことはなく、各々の部屋に入った。


 僕は夕飯を作るべく一階に下りてキッチンに向かう。


「あ、せんぱい!」


 キッチンに行くと、冷蔵庫を開けて腕を組んでいる白鳥さんがいた。


「今日は私が作りますよっ!」


 今までの二年間、毎日毎食ご飯を作り続けていた僕。そして当番制でありながら一度もご飯を作らない大家さん。


 そんな毎日だったのに、今日はご飯を作らなくていいだと!?


「本当にいいの?」


「もちろんです! 私もここに住む以上、ご飯くらい作らないといけないですから」


「うう、今までの二年間が報われるようだよ」


 ご飯は白鳥さんに任せて、僕は撮り溜めていたドラマでも見よう。家事ばかりしていて、しばらくテレビなんて見れていなかったからな。


 それに後輩女子の手作りご飯なんてご褒美以外の何物でもないじゃないか。


 こうして僕は軽い足取りでリビングに行き、テレビをつけてソファに腰掛けた。






 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢






「せんぱーい、大家さーん。ご飯が出来ましたよー」


 白鳥さんの声がみどり荘に響いた。


 僕はテレビの電源を切り、夕飯が並べられたテーブルに向かう。リビングからでも分かるほどいい匂いが漂ってくる。


 大家さんも自分の部屋から出てきて、自分の席に座った。


「あれ? 今日は司くんのご飯じゃないの?」


「はい! 私が作りましたっ!」


 なんで一目見て僕が作ってないって分かるんだよ……


 気になる今日のメニューは、いい色に焼けた鮭とご飯に味噌汁だ。おかずにはツナマヨサラダとほうれん草のおひたしがある。


 ザ和風というご飯だが僕は嫌いじゃない。それに、どの料理も美味しそうでよだれが垂れてくる。


「あんまり時間がなかったので簡単になっちゃいましたけど、どうぞ食べてください」


「うん、思っていた数倍美味しそうなご飯で驚いたよ」


「えへへ、これでも田舎育ちですからね」


 田舎と料理が上手い関係性が分からないが、とにかく早く食べたいと思った。


「「「いただきます」」」


 まず、味噌汁を一口すする。すると、口の中に味噌の香りが広がる。


 うん、美味しい。少なくとも僕より全然料理は上手だ。


「どう、ですか?」


「美味しすぎて手が止まらないのだけれど」


 次に鮭を一切れ口に入れる。シンプルな塩焼きだが、塩加減も丁度よく、少しレモンの風味もしてとても美味しい。


「このレモンの味って、何か入れたの?」


「塩を揉み込むタイミングで少しレモンの汁を垂らしておくんです。そうすると臭みが抜けてレモンの風味だけが残るんですよ」


「なるほど」


 今度、白鳥さんに料理を教えてもらおう。僕はそう決心し、美味しいご飯を食べ続けた。


 二十分ほどで最高の夕飯を食べ終わり、僕は満腹感から椅子でボーッとしていた。


「せんぱい、お粗末さまです」


「こちらこそご馳走様でした。白鳥さんはいいお嫁さんになるね」


「……ぱいがもらってくださいよ」


 白鳥さんは赤くなり小声で何かを言ったようだった。僕は聞き返そうかと思ったが、白鳥さんが立ち上がったため片付けを手伝うことにした。


「皿洗いは僕がやるよ」


「いえ、作ったんですから私がやります」


「ここまで美味しいご飯を作ってもらったんだ。せめてお礼として、これくらいはさせて」


「そこまで言うなら……お願いします」


 そう言って、白鳥さんは部屋に戻っていった。


 僕は見逃さなかった。皿洗いを渋々譲ってくれたようだが、彼女の顔はとても嬉しそうだったことを。

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