〈第16話〉人間が……憎い……
前日の名誉挽回のため小次郎は自らの包丁さばきを披露し、箸巻を作る準備ができたところでトップバッタを買って出て、一番手で箸巻を作っていくが……。
9月28日白崎高校・家庭科室────HR
今日も今日とて、出し物の開発に割り振られた俺と白愛、早苗とその他昨日集まった女生徒達が家庭科室に集まる。
今日は昨日の俺の提案を試してみるため、昨日の具材に加えキャベツと小葱が並んでいる。
俺は昨日の名誉を挽回するため、今日は生地作りからやらせてもらった。
まずはキャベツを千切りにして小葱を小口切りにする。
一般男子の包丁捌きより手際がいいと早苗と女生徒達に褒められる。
「キャベツと小葱って生地を最初に焼いて乗せた方が良いかな?」
俺は昨日の失敗からMouTubeで箸巻の動画を色々視聴して勉強していた。
MouTubeで箸巻の動画を視聴していたら、お勧めで広島のお好み焼きがTopに表示されたので、それを視聴してみたところ、広島のお好み焼きは先に魚粉を混ぜた生地を先に焼き、その上に千切りキャベツを乗せていた。
箸巻がお好み焼きのバリエーション的な食べ物なら同じ焼き方がいいのかと早苗と女生徒達に意見を聞いてみる。
今日の趣旨は色々試してみてみる、だ。
「ん~どうかな?屋台とかで売ってる箸巻には具材があまり入ってない気がするから……」
「生地に混ぜ込んじゃうと厚くなって箸が巻きにくくならないかな?」
「それだったら先に生地を焼いてその上にキャベツを薄く広げて乗せるとか」
俺が話しを振ると早苗と女生徒達から色々と意見が出てきた。
俺は生地を先に焼いてその上にキャベツを薄く広げる意見を採用することにした。
「よし、やってみるか!」
俺は気合いを入れ一番手を買って出て箸巻に挑む。
まずは生地をフライパンに流し入れ薄くなるように広げ、その上に千切りキャベツも薄く広げる。
ある程度生地が焼けてきたタイミングで、生地の端に割り箸を噛ませる。
噛ませた端から割り箸を生地を巻き取るようにくるくると手元を回す。
「できた!」
昨日の夕飯時、箸の噛ませ方を散々練習した甲斐があり、今日の出来は100店と言って良いだろう。
「今日は一発成功ね。でも……」
傍で静観していた白愛がそう呟く。
「昨日の箸巻よりなんかこう……、デブね」
出来は完ぺきなのだが、白愛の言う通りキャベツが間に入っているせいで昨日の箸巻より若干ボリュームがある。
「デ……あの……、言い方を少し考えてはもらえないでしょうか」
俺と白愛の会話のやり取りを見ていた早苗と女生徒達が、出来た箸巻を”デブ”と形容したことに笑いが起こる。
「でも、キャベツの量かな?昨日よりボリュームは出たけど……ちょっと女子からすると重そうかも」
先程まで笑っていた早苗が、俺の作った箸巻の問題点を考え女性が食べるにはちょっと重そうと意見を言ってくれる。
「それじゃ次私が作るね。えっと、佐々木君がキャベツで作ったから私は小葱にしてみようかな」
俺に続いて次は早苗が箸巻を作る様だ。
早苗はもう手慣れたように箸巻を作る。
「……小太郎のと比べてスマートね。早苗、あなた料理の才能があるわ」
俺が作った物より早苗が作った物の方が食べ易そうな出来になっていて、白愛が早苗の作った箸巻を褒める。
「あ、ありがとう。それじゃあ次の人」
普段白愛と会話をしない早苗が、白愛から褒められ照れた表情を浮かべ次の女生徒へ代わる。
その後もキャベツと小葱を混ぜたもの、昨日同様何もないものなど、それぞれが色々なパターンで作ってみた。
「調子はどう?」
家庭科室に様子を見に来た美沙が俺達に近寄ってくる。
「あら?今日は目玉焼き無し?」
今並んでいる箸巻に目玉焼きが乗ってないことに美沙が質問してくる。
「……乗せるなら焼くけど?」
すっかり忘れていたが、今日作った箸巻はボリュームがあるため、乗せるか乗せないかは各々の判断に任せることになった。
「先生、今日はどう作ります?」
早苗が美沙に今日の趣旨を説明し、具材を入れるか入れないか希望を聞いていく。
それを俺も横から聞き、美沙の希望通りの焼き方の準備をする。
「え、佐々木君が焼くの?」
昨日の出来を見ていた美沙の表情が一瞬引き攣った様に見えた。
「大丈夫よ。昨日より大分上達してるわ。昨日より太ったけど」
と、白愛が美沙にフォローを入れてくれるが、一言多かった。
美沙は白愛の”太った”という意味が分からずに首を傾げる。
「それじゃ、キャベツ入れてもらおうかしら」
俺はそれを聞き自分が焼いたやり方と同じ手順で再度箸巻を作る。
「あぁ……。うん、昨日より手際が良くなって、焼き方は美味くなってるわね。でも、そうね敢えて言うならこう……、おデブね」
さすが姉妹というべきか、先程の俺と白愛の聞いていたように出来上がった箸巻のフォルムを白愛と同じように形容する。
デブの頭に”お”を付けた辺り若干気を使ったようだが言っていることは同じで、なんにでも”お”を付ければ丁寧な言葉になるわけではない。
何だろう、自分では上手くできたと思うのに2人から同じ感想が返ってきて落ち込んでしまう。
「小太郎、私の分は目玉焼きを乗せるから具材無しでいいわ」
白愛の分は昨日早苗が作っていたたが、今日は落ち込んでいる俺を励ますつもりもあるのか俺に自分の分を焼いてくれと頼んでくる。
家庭科室のテーブルコンロは2つ口あるタイプになっているため、隣の口に白愛がフライパンをもう1つ置き目玉焼きを作り始める。
「篠原さん、私の分も焼いてくれる?」
早苗と具材無しで作った女生徒達が白愛に目玉焼きをお願いする。
白愛はそのお願いに「分かったわ」と返し、もう慣れた手際で目玉焼きを作る。
「美沙はどうするの?」
傍らで見ている美沙に白愛が声をかける。
「あんた、これ見て目玉焼き乗せると思う?あ、佐々木君ごめんなさい。せっかく作ってもらったのに……」
美沙は失言に気付き俺に申し訳なさそうに謝ってくる。
「いえ、先生が来る前も女性には重たそうな量だと話していたので……」
俺の実際の心境は落ち込んでしまったが平静を装う。
「……あんた目玉焼き”だけ”は上手に焼くわね」
美沙が今日も白愛の目玉焼きの出来を褒めるが、”だけ”を誇張しているところが気になりはしたが、白愛は気にせずフフンと胸を張る。
各々箸巻を作り終え、自分で作った物を実食をする。
「ん~、キャベツは食べ応えがあるから男子には受けるかも。でも、女子にはきついかもしれないね……」
「そうねぇ……。でも、当日お弁当を持って来ない子もいるかも知れないから、必ずしも無しとは言い切れないわ」
俺と同じ具材の美沙と、小葱とキャベツを入れた女生徒が食レポをする。
「あ、小葱いいかもしれないですね。食感もシャキシャキしてるし。でも、葱が嫌いな人には厳しいかなぁ」
小葱のだけの早苗が自身の作った箸巻の感想を伝える。
「ん~……」
「佐々木君どうしたの?」
腕を組んで考え始めた俺を見て、美沙が質問してくる。
「あ~。いえ、ちょっと自分には”焼く”方はセンスがないみたいなので、他の人に任せた方が良いのかなって」
それを聞いた白愛、早苗、美沙とその場に居た女生徒達から「えっ!?」という驚きの反応が返ってくる。
「あ、すいません。抜けるとかそう言うのじゃなくて、”焼き”に関しては他の人に任せて、俺はソースとかそっちを考えてみたいなと」
俺がそう言うと、落ち込みのあまり抜けると言い出したと思った白愛他女性陣はそれを聞いて一安心する。
「そう言う事ならこっちは私達に任せてもらって、佐々木君には箸巻に合うソースを作ってもらう事にしましょうか」
早苗がそう言ってこの日の試食兼開発会を締め括り、この日のHRを終了する。
~>゜~~
9月28日白崎高校────昼休み
「う~ん……」
昼食の弁当をそこそこに食べ、腕を組んでいる俺を見た白愛が「どうしたの?」と小首を傾げる。
「いや、焼き方はマスターしたけど、ソースを担当したいって言った手前、どんなものがあの料理に合うのか考えてて……」
小首を傾げる白愛に俺はそう答える。
「……確かに難しいわね。屋台で売っている箸巻だって基本市販のお好みソースとマヨネーズでしょうし」
俺の悩みに答えながら、すでに日常になった俺の弁当箱から白愛が卵焼きを一切れ摘まむ。
「そうなんだろうけど、出来ればどちらかにオリジナリティというか特徴を持たせたいなぁ」
前の学校ではここまで文化祭に熱を入れることはなかったが、ここでは期待されている分頑張ってみたいと思っている。
だから、せっかくなのでお好みソースかマヨネーズのどちらかの味を追求したい。
「またMouTyube見て勉強するか」
そう俺は独り言を呟く。
「MouTubeって何?」
白愛はMouTubeを知らないらしく、俺は今時の子で珍しいなと思いつつどんなものかスマホを使って説明した。
「へぇ~、そんなものまで見ることができるのね。これスマホって言うんだっけ?」
デートの時もスマホの話しはしたが、その時も白愛は興味津々だった。
「あ、そう言えばこれ」
俺はポケットに手を入れ1枚の写真を取り出し白愛に渡す。
その写真はデートの時錦帯橋の上で撮ってもらった俺と白愛のツーショット写真だ。
先日コンビニでプリントしたのだが、教室で渡すとまた勘九郎達に茶化されそうだったので、渡すタイミングは昼休みか下校時で渡そうと思い、忘れない様にポケットに入れていた。
「ありがとう。大切にするわ」
白愛は写真を見つめ、嬉しそうな表情を浮かべる。
「白愛がスマホ持ってればデータ送って待ち受けとかにもできるよ」
俺はそう言って白愛に画面を見せながら、試しにスマホの待ち受け画面をその写真に変えてみた。
「これを見るとますますスマホが欲しくなるわね……」
「篠原先生には相談してみた?」
俺が質問すると、白愛は首を横に振って「まだ話してない」と答える。
「そっか、言いにくいとかスマホは高校卒業してからじゃないと持たせないとかじゃないよね?」
正直な所白愛がスマホを持っていてくれると、連絡を取りやすくなるので俺は白愛にスマホを所持してほしい。
だが、スマホに関してはそれぞれの家庭の事情や方針によるものがあるので、あまり踏み入ったことを聞くつもりはないが、俺がそう聞くと再び白愛は首を横に振る。
「持たせてくれないとかじゃなくて、美沙も私が言い出さないから何も言ってこないんだと思うわ」
それを聞いて俺は「なるほど」と納得をした。
「スマホは電話もできるのよね?だったら近いうちに美沙に相談してみるわ」
白愛はスマホに関して前向きに検討しているようだった。
「またスマホ買ったら電話番号教えてよ」
俺がそう言うと白愛がコクコクと頷く。
~>゜~~~
9月28日白天比女神社────母屋
今日も小太郎の自宅前まで一緒に帰り、私は小太郎からもらったツーショットの写真を眺め、ニヤニヤしながら美沙の帰宅を自室で待っていた。
『ただいま~』
時計の針が夕方の7時を回るか回らないかのタイミングで、美沙の帰宅した声が玄関から聞こえてくる。
私は自室を出て玄関まで降りていき、美沙を出迎える。
「おかえり」
「あら、お出迎えなんて珍しいわね」
靴を脱ぎながら私の顔を見て美沙がそう言う。
美沙は買い物袋と自分の鞄を持ちリビングへと向かおうとする
「ん」
「ん?」
私は美沙の方に手を差し出すが、美沙は差し出された手の意味が分からず首を傾げる。
「買い物袋、台所に持って行っておくから先に着替えて来れば」
普段からこんな気遣いをしない私を見て、美沙が呆気にとられる。
「……あんた、何かした?」
やけに気を遣う私に怪訝そうな表情を浮かべる。
「別に何もしてないわ。早く夕飯を作って、話したい事があるから」
私の”話したい事”という言葉に美沙が少し身構える。
「ま、まぁすぐに準備するからちょっと待ってて。あ、袋はテーブルの上に置いといて」
私にそう言って小走りに自室に向かう。
私は美沙に言われた通り買い物袋をテーブルの上に置き、夕飯ができるまで自室に戻ることにした。
『白愛~、ご飯できたわよ~』
1時間程度本を読んで夕飯を待っていると、階下から美沙の呼ぶ声が聞こえてくる。
美沙に呼ばれ階下に降りてリビングに入ると、神主の仕事を終えた正臣もテーブルに座っていた。
私はいつもの定位置の席に着く。
「話しがあるって言ってたけど今がいい?それとも後で聞こうか?」
しばらく夕飯を食べ進めた辺りで、何やら緊張した面持ちで美沙が話しの内容を聞いてくる。
隣に座っている正臣は何のことかわからずに首を傾げている。
「今でいいわ。遠回しに言う事でもないから率直に言うけど、私スマホが欲しいのだけど」
「……はい?」
私が唐突にスマホが欲しいと言ったせいか、理解が追い付いていない美沙が首を傾げる。
「スマホが欲しいのだけど……ダメかしら?」
私はもう一度同じことを美沙に聞く。
「ダメ……じゃないけど、どうしたの急に」
美沙はそう言いながら隣に居る正臣と顔を見合わせる。
「いいと思うけどね。白愛もスマホを持つには遅すぎるくらいだと思っていたし。美沙ちゃんが無理そうなら私名義で契約するけど」
そう言って正臣が私がスマホを持つことに賛成してくれる。
「大丈夫ですよ。さすがに叔父さんにそこまでしてもらうのは……」
と、美沙が遠慮がちに返す。
「わかったわそれじゃあ、今度の休みにでも携帯ショップにでも行きましょうか」
正臣に続き美沙からも承諾の一言を貰う。
「まったく。話したい事があるって改まって言うから何かと思ったわよ……」
緊張が解けた美沙が溜息をつき脱力する。
「それにしても、本当にどうしたんだい?急にスマホが欲しいって言いだすなんて」
正臣がスマホを持ちたいと言い出した理由を聞いてくる。
「別に大した理由はないけど、持っていた方が何かと便利でしょう?」
私は敢えて小太郎の名前を出さずに正臣に答える。
「まぁそうだね。私達も白愛が心配だったからね、連絡手段を持ってくれることは安心できるよ」
正臣がそう言って美沙の方を見て、それを聞いた美沙は首を縦に振っていた。
「そう……。それじゃ美沙、次の休日に携帯ショップね」
私は夕飯を食べ終えそう言い残し、自室に戻る。
「……」
「……」
白愛の居なくなったダイニングで、美沙と正臣が顔を見合わせる。
「まさかあの子がスマホが欲しいって言いだすなんて思いませんでしたね……」
「これも佐々木君の影響かな……?」
食事をしながら美沙と正臣が話しを続ける。
「最近白愛の学校生活はどうなんだい?」
正臣が白愛の学校生活について聞いてくる。
「毎年この時期にはいつも居なかったですが、今は楽しそうに学校行事に積極的に参加していますよ。これも佐々木君の影響かも知れませんね」
「そうか……。それは喜ばしいことだね」
そう言って正臣が感慨深そうにする。
「今まであの子の楽しそうな顔を見ることがなかったから、姉として、教師として白愛が周りと協調して何かに取り組む姿が見れるのが嬉しいです」
小次郎が転校して来る前と後で、白愛の表情が豊かになり、周りに協力して学校行事に参加する姿を見ることがなかったため、白愛のその変化が嬉しいと美沙がほほ笑む。
隣の正臣が美沙のその思いに同感と言わんばかりに首を縦に振る。
~>゜~~~~
────???
白い靄の掛かった空間。
俺はまたしても何もない空間に意識が漂う。
いつものように身を任せていれば、小太郎と意識を共有するのだろうと思っていた俺は、身動ぎせず身を任せることにした。
そうして身を任せていると、次第に視界が開けてくる。
雪……。
雪が降っている……。
いつもの境内には雪が降り積もり、社殿の前で白髪の女性が血塗れになって1人の男を抱きしめていた。
俺はその光景を見て小太郎と白愛だと確信する。
だが、今日に限って何時までたっても小太郎と感覚を共有できない。
憎い……。
(?)
不意に頭の中に白愛の言葉が響いてくる。
憎い……。
”人間が……憎い……”
と、白愛の表情を窺うと、鬼の形相とはこういった事を言うのだろうと思うほど、背筋がゾッとする感覚を覚え辺りが白んでいく……。
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