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〈第15話〉涙の理由……

白崎高校では10月の中旬に催される文化祭に向け、準備が本格的に始まっていく。

出し物の開発の役に割り振られた小次郎は初めて作る料理に苦戦するが……。

 9月27日白崎高校・家庭科室────HR


 10月の中旬にある文化祭に向け、本格的な準備がHRと言う名目で今日から進められていく。

 文化祭の出し物は、白愛の意見が生徒会役員の会議にも通り、うちのクラスの出し物は箸巻に決まった。

 クラス委員長が仕切り出し物の開発と試食、装飾類の分担で別れ、俺は料理上手と言う噂が流れていたことから出し物の開発に割り振られ、あとは普段から料理をしているという早苗と数名の女生徒達が選抜された。

 食材は前日に担当になった生徒で話し合い持ち合うことになっていた。

 俺と出し物開発の役割に割り振られた女生徒数名が家庭科教室に集まる。

 一応試食係と言うか、恐らく俺が出し物を作る役に割り振られたためか、白愛も一緒に家庭科室に居る。

 以前勘九郎に説明してもらってどんなものかはイメージ出来ているが、実際に作ったことがないため他の生徒の様子を観察することにした。

 まずはボウルに分量通りのお好み粉を入れて加水し、ダマが残らない様に泡だて器で水と粉を混ぜ合わせる。

 十分に混ぜ合わさった生地を薄く広げフライパンで焼く。

 そこからある程度焼けたタイミングで、割り箸が割れない様に生地の端に先を嚙ませ、生地を端から巻いていく。

 綺麗に巻き上がった箸巻を皿に乗せる。

 それに市販のケチャップとお好みソース、青のり、鰹節をかけ完成の様だ。

 勘九郎の言う通り見た目はお好み焼きを箸に巻き付けたような料理だ。

 

 「こんな感じかな、どう?分かった佐々木君」

 箸巻に馴染のない俺のために、早苗が手本で一本作って見せてくれる。


 「うん。何となくわかったよ。ありがとう」

 あとは家庭科室に集まった生徒で順番に作ってみようと言う事になり、じゃんけんで順番を決める。

 じゃんけんの結果、俺は最後になった。 


 「……目玉焼きは乗せないの?」

 俺の隣で見ていた白愛がそう言って準備されている未開封の卵のパックに目を向ける。

 

 「あ、ごめんなさい。焼き忘れてた」

 白愛に指摘された早苗が条件反射で謝る。


 「……私が焼いてもいいかしら?」

 そう言いながら白愛が卵のパックの封を開ける。

 

 「え、白愛作れるの?」

 白愛の思いもよらない申し出につい問い返してしまう。

 この場に集まった同じクラスの女生徒も俺と同じことを思っていたようでその場がざわつく。


 「……小太郎、その質問はちょっと失礼じゃないかしら?昨日美沙から教えてもらったから私にだって目玉焼きは焼けるわ」

 白愛の拗ねた表情を見て俺は失言だったかと反省するが、何やら不穏な言葉が一部混ざっていた気がするのは気のせいだろうか。


 「そ、それじゃ篠原さん目玉焼き作ってくれる?」

 見兼ねた早苗が助け舟を出してくれる。

 それを聞いた白愛はコクッと一度頷き、パックから卵を一つ取り出し熱したフライパンに卵を割り入れる。

 俺達はハラハラしながら白愛の作る目玉焼きを見守る。

 だが、意外にも形も綺麗で蓋を閉めて蒸し焼きにするタイミングも良くできていた。

 

 「どうかしら」

 綺麗に焼きあがった目玉焼きを早苗が作った箸巻の上に乗せ、誇らしげに胸を張る。

 

 「篠原さん綺麗に焼くわね」

 周りの女生徒達が白愛の作った目玉焼きを褒める。

 フライパンに卵を割り入れるだけで、あまり技術のいらない料理ではあるが、白愛の様な普段から料理をしなさそうな女の子には目玉焼きもハードルが高く、黒焦げにするイメージを勝手に持っていた事に謝罪をしなければならないかもしれない。

 というより白愛は料理をしないだけで料理音痴という訳では様だ。


 「どうかしら、小太郎」

 女生徒達にも褒められ、俺にも目玉焼きの出来を褒められたいのか白愛が聞いてくる。


 「うん、うまく焼けてるよ」

 俺も女生徒達に倣い、白愛を褒める。

 俺が褒めると白愛は嬉しそうな表情を浮かべる。


 「それじゃ、篠原さん目玉焼きをここに居る人数分焼いてくれる?他の人は順番にこっちを焼きましょう」

 早苗が率先してこの場を仕切り、俺たちもそれに従って順番に箸巻に挑戦する。

 俺達が箸巻を作り始めると、家庭科教室の扉が開き担任の美沙が入ってくる。


 「どう?調子は」

 そう言いながら様子を見に来た美沙が俺達の方へ歩み寄ってくる。


 「あら、綺麗にできてるわね」

 美沙が早苗と白愛の合作箸巻を見て出来を褒める。

 それを聞いていた白愛が「その目玉焼きは私が焼いたのよ」と胸を張る。

 

 「えっ!白愛に料理させてるの!?」

 白愛の言葉を聞いて美沙が過剰と思うほど驚く。

 それを見た白愛が無表情で美沙を睨みつける。

 白愛のその視線に美沙がたじろぐ。


 「白愛は目玉焼き焼くのが得意みたいだったんで、そっちを担当してもらってるんですよ」

 俺は驚いている美沙に今の分担を説明する。


 「そ、そう言う事なら……」

 美沙は言い淀みながらも安心し、俺の説明にその分担に納得をする。

 引き続き箸巻を女生徒が作っていき、その上に白愛の焼いた目玉焼きを乗せていく。

 美沙は白愛の作る目玉焼きに「ほぉ~」と褒めているのか感心しているのかどちらとも取れるつぶやきを漏らす。

 さすが選抜で選ばれることだけあって他の女生徒達も箸巻を上手に作っている。

 そうこうしていると俺の順番が回ってくる。

 これだけのギャラリーの居るところで料理するのは初めてな俺は、若干緊張しながら早苗に教えてもらった手順で箸巻作りに挑戦する。

 

 「あっ!」

 ある程度焼けたタイミングで生地の端に箸の先を嚙まそうとしたが、開き方が悪かったのか箸が割れてしまう。

 

 「あぁ……、ま、まぁ男の子は力が強いから力加減が難しいかな」

 そう言って早苗がフォローを入れてくれる。

 俺は生地が完全に焼ききれるまでに箸を2本失敗し、3度目の正直でうまく挟むことができたが、時間を掛け過ぎてしまい他の箸巻に比べ、火が通り過ぎてしまい焦げてしまった。

 初めからうまくできるとは思っていなかったが、白愛も見ている手前これはこれで落ち込む結果になってしまった。

 

 「ん~……。まぁ、佐々木君には馴染みのない料理だったし、これは要練習かしら」

 俺の箸巻の出来を見た美沙にもフォローを入れられ、俺は面目が立たなかった。

 その後、白愛と美沙の分を早苗が作り、それぞれの作った物を試食することになった。

 俺の作った箸巻は焦げてはいたが、食べられないというほどではなかったので、一口食べてみる。

 一口食した感じ野菜感があまりないことから、俺は「キャベツとか小葱を入れてみては?」と提案してみる。

 俺が提案した時点では。キャベツも小葱も用意してなかったため次回の商品開発に持ち越され、俺には練習という課題が課され、あとは改善点を探る試食会になりこの日のHRは終わった。

 

~>゜~~


 9月27日白崎高校────昼休み


 「はぁ~……」

 俺は昼休みのいつもの屋上で盛大なため息をつく。

 

 「どうしたの?ため息なんてついて」

 隣に居る白愛が小首を傾げてため息の理由を聞いてくる。


 「いや、自分があそこまで不器用だったことにショックで……」

 俺は白愛にそう答え、もう一度大きなため息をつく。


 「そんなことを気にしてるの?確かにカッコよくはなかったけど……」

 白愛のその言葉が落ち込んだ俺の心に突き刺さる。


 「でも、初めて挑戦したことで失敗しない人なんていないわ。失敗してそこで立ち止まるのか、失敗から学んで先に進むのかは人それぞれだけど、小太郎は先に進む人でしょ?」

 そう言って白愛に俺は励まされ「そうだね」と返す。

 これを聞いて俺は白愛に愛想をつかされない様に、次のHRまでにちゃんと練習しておこうと決心した。


 「それにしても、白愛ってなんで料理しないの?目玉焼きあれだけ綺麗に焼けるのに」

 自分が焼くと言い出した時こそ料理の腕を心配したが、レシピさえしっかり教えれば出来そうなものだろうと思った。

 

 「特に理由はないわ。ただ面倒だからやらないだけ」

 そう言いながらいつものように俺の弁当箱から卵焼きを一切れ摘まむ。

 俺は白愛の卵焼きを頬張る唇に意識が向いてしまう。

 HRの事があって忘れていたが、俺と白愛は先日のデートの最後にキスをしたんだと2人きりになって思い出す。


 「……」

 「どうしたの?」

 不意に黙り込んだ俺を見て首を傾げる。


 「あ、あぁ~。いや、何でもないよ」

 俺は白愛の唇に向けていた視線を明後日の方向に向け、昨日のことを思い出していたことを裏返った声で誤魔化す。

 

 「……何か隠し事?」

 歯切れの悪い俺を白愛が訝しみ始める。

 

 「いや、その……。昨日の事思い出しちゃって……」

 俺がそう言うと白愛も思い出したのか顔を赤くする。

 

 「……わ、忘れてとは言わないけど、今言う事じゃ……」

 白愛が照れながら俺から視線を外す。

 

 「そ、そうだね……。ごめん」

 俺と白愛は恥ずかしさから、中々視線を元に戻せなくなった。


 「……」

 「……」

 食事の箸も止まり、お互いに沈黙し気まずい空気になってしまう。

 

 「さ、さっきの料理の話しだけどさ……」

 沈黙に耐えられなくなり、俺は話しの軌道修正をする。


 「もし、白愛が良ければ……、その、俺ができる範囲になるけど料理教えようか?」

 白愛は面倒だと言っていたが、目玉焼きの出来を称賛されたときの白愛は嬉しそうに、楽しそうにしていたと思う。


 「……。そ、そうね、私も美沙から教えてもらうより小太郎から教えてもらいたいわ」

 話しの軌道修正がうまくいき、気まずい空気から解放される。


 「ん~、料理初心者で出来るもの……。カレーに挑戦してみようか。味付け変えれば肉じゃがにもなるし」

 カレーなら市販のルーで作れるし、難しい包丁の使い方もしない、どちらに転んでも夕飯のおかずにはなりうると思い、まずはカレーから挑戦してみようと白愛に提案してみる。


 「カレー……ね。カレーとしシチューは大体同じ具材よね?だったらシチューが良いのだけど」

 白愛の言う通り、カレーとシチューはほとんど具材は変わらない。

 敢えて言うなら好みの問題で肉類が、鶏のモモ肉になるか胸肉になるかの違いだろうか、あとは稀だと思うが牛肉になるかだろう。


 「どっちでもいいよ。でも、なんでシチュー?」

 カレーからシチューに変えてきた白愛の意図が分からずに俺は問い返す。


 「……カレーのスパイス系というのかしら?それがちょっと苦手なの……」

 俺は白愛の返答に「なるほど」と、そう言う人もいると思い納得する。


 「分かった。それじゃ今度シチューを一緒に作ろうか」

 俺がそう言うと白愛は頷き、白愛と料理の約束を取り付ける。


 「うん……。楽しみにしてるね」

 俺と次の約束ができて、白愛が笑顔で俺に答える。

 

 「それじゃ、いつ作るとかまた決めようか」

 それを聞いた白愛はコクコクッと2回頷き返してくる。

 その後も俺と白愛はお互いに作ってみたい料理の話しをして昼休みは終わった。


~>゜~~~


 ────???


 白い靄の掛かった空間。

 もう何度目になるだろうか。

 いつもの何もない空間を意識が漂う。


 (またここか……。この感覚にももう慣れてしまったな……)

 今回の夢はどうなるんだろう。

 以前見た夢ではただただ楽しそうにはしゃぐ小太郎と白愛の夢をスクリーンで見せられている感覚だった。

 

 (そういえば、あの日白愛が泣いていた理由はわからないままだったな……)

 俺は初めてのデートの日、泣いていた白愛の表情を思い出す。

 

 (”涙の理由……”か)

 この夢を見続けていればいずれはその理由も分かるのだろうか。

 そんなことを考えていると、急に視界が眩しく開け始める。


 ガランッ!ガランッ!


 視界が開けた瞬間、神社の鈴緒を鳴らす音が耳に響いてくる。

 おそらく小太郎の日課の参拝だろう。

 

 (みんなが幸せになりますように……)

 小太郎の願い事が俺の頭の中に聞こえてくる。

 参拝を終え、小太郎が顔を上げ後ろを振り向く。

 

 「わっ!」

 後ろを振り向くといつだったかと同じように白愛が小太郎を驚かせてくる。


 「ふん!そう何回も何回も同じ手で驚きゃせんぞ!」

 白愛が驚かせてくると分かっていたように、小太郎がそう言うと白愛はつまらなそうな表情を浮かべる。


 「あ~ぁ、つまんな~い」

 そう言って白愛がそっぽを向き、頬膨らませ拗ねた態度をとる。

 夢に出てくる白愛は現実の大人しい白愛に比べ、子供らしく喜怒哀楽が激しい。

 

 「それにしても、お前はいつもいつも神出鬼没じゃのぅ……」

 そっぽを向いて拗ねている白愛に構わずそう言うと、白愛は「ふん!」と言い返し小太郎との会話を拒む。

 機嫌を損ねた白愛に手を焼き、小太郎は頭を掻き困った顔をする。

 

 「悪かったっちゃ。謝るけぇ機嫌直せや……」

 小太郎が折れて白愛に謝るが白愛はそっぽを向いたままだった。


 「……驚いた?」

 白愛はチラッと小太郎に視線を向け質問してくる。

 小太郎はその質問に「驚いた驚いた!」と首を縦に振り答える。


 「えへへ。そっかそっか。それじゃ今日は何して遊ぶ?」

 白愛はその答えに満足したのか、表情に笑顔が戻る。

 

 「すまん。今日は秋祭りの準備があるけぇ遊べんのじゃ……」

 小太郎は申し訳なさそうに答える。

 

 「えぇ~!遊べないの!?」

 誘いを断られ白愛が不満そうな声を上げる。


 「しょうがないじゃろ……。秋祭りが終わるまでは遊べんよ」

 小太郎が白愛を諭すように言うが、白愛は中々分かってくれそうにない。

 

 「じゃあじゃあ。……っ!」

 言葉の途中で白愛が急に険しい表情になり、それを見た小太郎が心配になり「白愛?」と声を掛ける。


 「おぉ、居った居った!やっぱりここじゃったか」

 声のする境内の入り口を見ると、勘助が神社に来ていた。


 「なんじゃ、勘助。どうした?」

 小太郎は近づいてきた勘助に問いかける。

 

 「広場に行ってもお前が居らんかったから探しに来たんじゃ」

 勘助がそう答えながら小太郎の正面に立つ。


 「もうみんな集まっちょるぞ。お前いつも神社に1人で何しちょるんじゃ?」

 「1人?馬鹿言うな、ここに白愛が居るじゃろ」

 小太郎は勘助の言葉に言い返し、隣を指差すがそこに白愛の姿はなかった。


 「あ……れ?白愛?」

 小太郎は辺りを見回し白愛を探すが、いくら探しても白愛の姿はなかった。


 「白愛ってお前が前言っとった女子の事か?」

 勘助に聞かれ、小太郎は「そうじゃ」と返す。


 「俺が来た時にはお前1人じゃったぞ」

 勘助にそう言われ小太郎は「え!?」と驚きの声を上げる。


 (どういう事だ?確かに勘助が来るまで小太郎と白愛は話しをしていたのに……)

 以前も勘助が現れたとき白愛は音もなく居なくなった。

 勘助には見えないのだろうかとも思ったが、それだと小太郎の目の前から居なくなるのもおかしい。

 

 「それより早う広場に行くぞ。皆待っちょる」

 勘助が踵を返して神社を出て行こうとする。

 小太郎は勘助の後を「ま、待って」と追いかけ一度境内を振り向くが、そこにはやはり誰も居ない。


 「お前最近おかしいぞ……。他の奴等ぁも最近お前が神社で1人で笑って遊んじょるって言っちょったぞ」

 「1人じゃない!いつも白愛と遊んじょるんじゃ!」

 勘助の言葉に小太郎がムキになって言い返す。


 「う~ん、ほぃじゃがのぅ……。さっきも言ったし前にも言ったじゃろ?宮司さんにも聞いたがあそこに俺等と同い年くらいの女子は居らんって」

 何を言っても1人じゃなかったと言う小太郎に、勘助は頭を掻きながら困り顔をする。

 

 「じゃけど……!」

 「あぁ!わかったわかった!わかったけぇこの話しはもう終わりじゃ!」

 食い下がってくる小太郎に勘助は無理矢理に話しを終わりにする。

 

 勘助が話しを終わらせた瞬間、視界が白い靄に包まれ始め2人の声が遠くに聞こえるようになる。

 

 (……夢から覚めるのか)

 俺がそう思うと、目覚まし時計のけたたましい電子音が耳に響いてくる。

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

いつも応援してくれている方達に幸福が訪れますように。

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