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〈第11話〉天国に一番近い場所……

いつものように白愛と昼食を摂ろうとする小次郎だったが、この日は生憎の雨だった。

雨の日にどこで食べているのか聞くと付いて来いと言われるだけで行き先を教えてくれない白愛。

だが、職員室を通り過ぎた時点で小次郎は嫌な予感がして……。

 9月20日白崎高校────昼休み

 

 俺と白愛はいつものごとく、一緒に昼食を摂ることにしたが、今日は生憎雨が降っており、屋上で弁当を広げて食べることができない。

 

 「白愛、雨の日っていつもどこで食べるの?」

 俺は「付いて来て」と言う白愛の後ろを付いて1階の職員室のある廊下までくる。

 この時から俺はちょっと嫌な予感がしていた。


 「ここよ」

 そう言って白愛が立ち止まった場所は校長室の前だった。

 俺は(やっぱりか……)と思い肩を落とす。

 何時だったか一緒に帰ろうと言ってきた際に、校長室を待ち合わせにしてきた時点で、雨の日はここかもという予想は付いていた。

 そんな俺を他所に白愛がノックも無しに校長室に入って行く。


 「ちょちょちょ!ノックくらいしなさいよ!」

 ここまで来れば校長室で昼食を摂るのは百歩譲って良いとするが、ノックも無しに扉を開く白愛に俺は戸惑う。


 「大丈夫。問題ないわ」

 校長の姪っ子である白愛は問題なくても一般生徒である俺には大問題である。


 「来ると思っていたよ。おや?今日は佐々木君も一緒かね」

 俺は白愛の後に続き、申し訳ない思いで校長室に入る。


 「失礼しま~す……。なんかすいません俺まで……」

 「はははっ!気にしなくていいよ。私も1人でご飯を食べるのは寂しいからね」

 申し訳なさ気に入室した俺に、そう言って正臣が来客用のソファに座るよう勧めてくる。

 俺は白愛の座った向かい側の富ソファに腰を下ろす。


 「おっと、お茶がなかったね。ちょっと淹れてくるから2人は食べててくれるかな」

 正臣がお茶を淹れるために一時退出し、俺と白愛の2人きりになる。

 正臣が退出した校長室に沈黙が訪れる。


 「……白愛。昨日はごめん……」

 俺は沈黙に耐え切れず、昨日の白愛の悲しげな表情を思い出した。


 「別にあのくらい構わないわ……。もう謝らなくて大丈夫よ」

 白愛は素っ気なくそう言ったが「ただ……」と言葉を続ける。


 「猫の死体なんか放って置けばそのうち誰かが片付けるでしょ。何故わざわざ拾い上げて神社まで埋葬しに来たの?それに答えてくれたら私はもういいわ。お互い気にしないことにしましょ?」

 白愛は弁当を広げる手を止め、真正面に座っている俺をジッと見据え答えを待つ。


 「えっと……」

 確かに白愛の言う通りだ、いつまでも気にしてギスギスしててもしょうがない。

 俺は取り繕った言葉を考えていたわけではないが、一瞬言い淀んでしまう。


 「白愛の言う通りそのままにしておけばそのうち誰かが片付けていたと思う」

 一旦俺はそこで区切る。


 「でも、そのままにして無視していたら子猫を轢いた人と同じだ。神社に埋葬したのは、”天国に一番近い場所……”、かなって急に思いついて。ごめん、このくらいしか言えない……」

 俺はついつい最後に謝ってしまう。

 動物愛護とか言われそうだが、そんな事は今まで考えたことはない。

 ただ、見て見ぬ振りができないから俺はそうした。


 「……」

 白愛は俺の回答を聞き終え無言になっている。

 

 「……」

 俺は良い格好の言葉を並べたつもりはないが、無言になる白愛を見て俺は白愛の返事を待つ。

 

 「85点ね」

 しばらくお互い無言だったが、白愛が俺の回答に点数をつける。

 足りない15点が何かわからなかったけど、白愛は俺の回答に満足そうな笑みを浮かべていた気がする。

 その満足気な笑みの理由ははわからなかったが、俺は白愛の笑みを見て安堵した。

 

 「これで、お互いもう気にしないってことでいいわね?」

 俺は微笑む白愛に「そうだね……」と微笑み返す。

 俺と白愛が弁当を広げ終わったタイミングで、正臣が湯呑を3つと急須をお盆に載せ戻ってくる。


 「お待たせ。何だ、わざわざ待っていたのかい?」

 正臣はまだ弁当に箸をつけていない俺と白愛を見て、待っていたと思ったみたいだ。

 正臣が俺と白愛の前に湯呑を置き、お茶を淹れてくれる。

 お茶を淹れてくれた後、正臣は鞄の中から自分の弁当を取り出し、白愛の隣のソファに座る。

 

 「佐々木君の弁当は自分で作っているらしいね。今日はどんなおかずが入っているんだい?」

 おそらく白愛から聞いたことなのだろう、そう言いながら正臣が俺の弁当箱を覗いてくる。


 「大したものは入ってないですよ」

 俺は正臣が見やすいように弁当を傾ける。

 

 「その里芋の煮っころがし美味しそうね。もらってもいいかしら?」

 俺は「どうぞ」と白愛が取りやすいように弁当箱を近づける。


 「私ももらっていいかな?」

 正臣が白愛に便乗して里芋の煮っころがしに箸を伸ばす。


 「うん、上品な味付けね」

 「そうだね。これは佐々木君が作ったのかな?」

 そう言って白愛と正臣が味付けを褒めてくる。


 「いえ、それは母が作ったやつですね」

 せっかく褒めてくれたのだが、生憎白愛と正臣が摘まんだ煮っころがしは母が作ったものだった。


 「そうか、佐々木君のお母さんも料理上手なんだねぇ」

 「校長先生の弁当は篠原先生が?」

 家庭事情から考えて、自分と白愛の分だけということはないはずで、正臣の弁当と白愛の弁当を見てみると、量の差はあれおかずの内容は同じものだ。


 「そうだよ、さっきの里芋の代わりに何か摘まむかい?」

 俺は「それじゃあ」断りを入れ、正臣の弁当箱に入っている唐揚げをいただくことにした。

 メインのおかずとも言える唐揚げをいただくのは、如何せん悪い気もしたが、卵焼きの味然りどうしても篠原家の唐揚げの味付けが気になったのだ。

 なるほど、この唐揚げは下味を付けずに、粉タイプの唐揚げ粉を塗してあげるタイプの唐揚げか。 


 「小太郎、卵焼きもらってもいい?」

 白愛は一度俺の卵焼きを食べて以来、甘い卵焼きにハマっているらしく、卵焼きは必ず摘まんでいく。

 俺は白愛が美味しそうに食べてくれるので、最近は必ず弁当に入れるようになった。

 

 「卵焼きなら佐々木君のをもらわなくても入っているじゃないか」

 「美沙のしょっぱい卵焼きもいいけど、私は小太郎の甘い卵焼きの方が好き」

 白愛が正臣にそう答え、一口で卵焼きを頬張る。


 「ほぉ、甘い卵焼きか私はしょっぱい卵焼きで育ってきたから味の想像ができないな」

 「食べてみますか?」

 そう言って俺は正臣に弁当箱を寄せる。


 「悪いね。それじゃ私の卵焼きと交換だね」

 正臣も俺の方に弁当箱を寄せてくるので、俺も卵焼きを一切れいただく。


 「ふむふむ、なるほどねぇ。うん、これは美味しいよ」

 「ありがとうございます。卵焼きは俺が焼きましたからそう言ってもらえて嬉しいです」

 校長の正臣に味を褒められ、俺は素直に嬉しかった。

 この学校に転校して来てから料理の腕を褒められることが多くなった気がする。


 「いやぁ、楽しいねぇ。こうやって食事をすると学生時代に戻った気分になるよ」

 そう言う正臣の表情は本当に楽しそうだった。

 俺達は何気ない談笑を続けながら食事を終え、昼休みを過ごした。


~>゜~~

 

 9月20日白崎高校────昼休み


 理科教諭の静香が授業を終え、昼食のため職員室に戻っている。

 職員室の隣にある給湯室から鼻歌を歌いながら出てくる正臣と出くわす。


 「おっと、松江先生お疲れ様です」

 「校長先生お疲れ様です。あれ?今日は来客予定ありましたっけ?」

 お盆に乗った急須と、湯呑の数を見た静香が正臣に問いかける。


 「いえ、ただ、思いもよらない来客者が居るくらいですかね」

 そう言って、正臣がルンルンとスキップのような陽気な足取りで校長室に戻っていく。

 いつもの正臣からは考えられないテンションを見て、静香は「?」となる。


 ガラッ!


 静香が職員室に入り自分の席に向かう。


 「お疲れ様。松江先生」

 「篠崎先生お疲れ様~」

 先に授業を終え、すでに昼食の弁当を机に広げている美沙と社交辞令の挨拶を交わし、美沙の向かいの席に座る。


 「篠原先生、今日って校長先生何かあった?」

 静香は先程のテンションの高い正臣の事を美沙に聞いてみることにした。


 「?何もないはずだけど……。何かありました?」

 何の事かわからない美沙は、静香に聞き返す。


 「さっき給湯室から出てくる校長先生と出くわしたんだけど……。なんかルンルンな感じだったから……」

 静香が正臣の給湯室から出てきたときの様子を美沙に説明する。


 「叔父……、じゃなかった。校長先生がルンルン!?」

 普段の正臣からは想像できない様子を聞いて美沙が驚く。

 

 「うん。だから今日何か良いことでもあったのかなって」

 鞄から弁当を取り出しながら、静香が美沙に答える。


 「ん~……、誕生日は大分前に過ぎてるし、と言うかあの年で誕生日を喜ぶのも……」

 美沙が食べる手を止め、悩み始める。


 「あ、今日雨だから白愛ちゃんが来てるんじゃないの?」

 静香が外で雨が降っているのを思い出し、美沙に質問をする。


 「え~、雨の日に白愛が校長室でご飯食べるのなんていつもの事だし……」

 「例の転校生君が来てるとか?湯呑も3つ持って行ってたし」

 そう言って静香がお盆に乗っていた湯呑の数を思い出す。


 「あぁ~、そうかも!」

 白愛が雨の降る日に校長室で昼食を摂っている事は美沙も知っていたらしい。

 だが、それだけでは静香に説明された正臣のテンションの説明には弱いと感じていたが、小次郎が絡んで来れば静香に説明されたテンションにも合点がいくと美沙は考えた。


 「校長先生と食事を一緒に摂るなんて転校生君も度胸がすごいというか……」

 「ん~、度胸のあるなしは置いといて、多分白愛に付いて行ったら校長室だったていう落ちじゃないかしら」

 弁当を食べながら美沙が静香に答える。


 「白愛ちゃんって押しが強そうだもんね」

 クスクス笑いながら、静香が弁当を食べ始める。


 「でも、校長先生はラッキーかもね」

 美沙がそう言うと、静香が「何で?」と聞き返してくる。


 「佐々木君の料理って美味しいらしいのよ」

 白愛から聞いたであろうことを美沙は静香に言う。


 「へぇ~、佐々木君って料理上手なんですね」

 「白愛曰く、甘い卵焼きが美味しいんだって」

 そう言って美沙が卵焼きを一切れ口に運ぶ。


 「卵焼きって育った家庭で味が分かれそうですもんね。篠原先生はしょっぱい系ですか?」

 静香の質問に美沙は「そうですよ」と返事をする。


 「私の卵焼き、甘い系なんですけど、一切れずつ交換してみません?」

 「あ、いいですね。甘い卵焼き気になってたんですよ」

 美沙と静香はお互いの弁当から卵焼きを交換する。

 

 「あぁ、美味しいですね。白愛からも甘い方がいいって言われてるし、明日はちょっと味変えて作ってみようかな」

 それを聞いた静香は「いいですね」と返し、この2人も学生時代を思い出したかのように、美沙と静香はその後もお互いの弁当を交換しながら昼食を摂った。


~>゜~~~


 9月20日白崎高校────放課後


 「今日も終わりましたよっと。佐々木帰ろうや」

 終礼のHRが終わり、いつもの3人が俺達の席に寄ってくる。

 勘九郎は昨日の引退試合から、先輩からの引継ぎがあるからか、HRが終わって早々に道場へ向かって教室を出て行った。

 

 「ごめん、今日は先客が居るから」

 俺は顔の前で手を合わせて、3人に一緒に帰れないことを謝る。

 それを見た3人は察しがついたのか、ニヤニヤし始める。

 

 「小太郎、帰りましょう」

 前の席の白愛が鞄を持って俺の方を振り返る。

 俺は「うん」と返事を返し、自分の鞄を持ち席を立つ。

 俺と白愛は3人に「また明日」と挨拶して、3人の冷やかしの視線を感じながら教室を出て行く。

 

 「まだ雨降ってるみたいだね」

 隣に居る白愛にそう話しかけると、白愛は「そうね」と返してくる。

 今日は雨が降っていたため、俺はここに越してきて初めてバスで登校した。


 「どこか寄って帰る?図書室とか」

 話しを振ると白愛は「う~ん」と歩きながら考え始める。


 「じゃあ、お茶でも飲んで帰る?」

 その言葉に俺は「?」となる。


 (自販機に寄って帰るってこと?)

 白愛は昇降口には向かわず、職員室のある方へと足を向ける。

 この時俺は「まさか……」と思ったが白愛の後を付いて行くことにした。

 白愛は校長室の前で立ち止まる。

 俺は「やっぱりかぁ」と頭を抱え、素直に付いて行った自分に後悔をする。


 ガチャッ


 「だから、ノックくらいしなさいよ!」

 またしてもノックをせずに校長室の扉を開ける白愛に俺はツッコミを入れる。


 「問題ないわ」

 白愛はそう言って昼休み同様無遠慮に校長室に入って行く。

 今思ったが、白愛は校長室をカフェテリア感覚で使ってないか……?


 「ん?あぁ、白愛か……。あれ?佐々木君もかい?」

 先に入室した白愛に向いていた正臣の視線が、俺の方に向いてくる。


 「放課後も来ちゃってホントすいません……」

 放課後も来てしまった事が本当に申し訳なさ過ぎて、俺は正臣に頭を下げる


 「いいよいいよ。私も話し相手が居るのは嬉しいからね」

 正臣はそう言って昼休み同様、ソファに座るよう勧めてくる。

 俺は恐縮しながら昼休みに座ったソファに腰掛ける。


 「正臣、お茶をいただけるかしら」

 まるで育ちのいいどこかのお嬢様が、執事に頼みごとをするような態度で白愛が正臣にお茶を要求する。


 「そうだね。ちょっと淹れてくるから待っておいてくれ」

 正臣も白愛の言うことを「はい、はい」と聞いているが実際どう思っているんだろう。

 お爺ちゃんが孫の言うことを聞いている感覚なのだろうか。


 「白愛ってさ、家でもいつもこんな感じなの?」

 俺は素直に思ったことを白愛に聞いてみる。


 「大体そうね。それがどうかした?」

 俺の質問を白愛は即答で返してくる。


 「いやぁ、ただ、校長先生にああいう態度取るのはどうなのかなぁと思って……」

 俺は白愛の表情を覗いながらおずおずと質問に答える。


 「……小太郎がやめた方が良いって言うのなら止めるわ」

 俺の言葉を「ああいう態度をとるな」と受け取ったのか、白愛が叱られた子供の様に悲しげな表情を浮かべる。


 「あ、いや、ごめん、お互いがそれで了承しあってるなら別にいいんだよ……」

 俺は白愛の悲しげな表情を見てつい謝ってしまう。

 白愛は俺の返答を聞いて「よかった」と微笑む。

 どうも俺は白愛の悲しい表情を見ると下手に出て謝ってしまう。


 「お待たせ。お茶菓子もあったから持ってきたよ」

 そう言いながら人数分の湯呑と茶菓子の乗ったお盆を持って正臣が戻ってくる。

 正臣は各々の前に湯呑を置き、急須からお茶を淹れてくれる。


 「お茶菓子もあるからどうぞ」

 茶菓子も皆の取りやすいよう中央に置いて勧めてくる。

 俺は「ありがとうございます」と言って頭を下げる。

 対面に座っている白愛は、当たり前化の如くお茶を啜り茶菓子にも手を伸ばす。


 「あ、ちょっと教室に忘れ物をしたから取ってくるわ」

 白愛は徐に席を立ち、忘れ物を取りに校長室を退出する。


 「……」

 「……」

 白愛のいなくなった校長室に沈黙が訪れる。

 正臣がお茶を啜ると同時に、俺も湯呑に口を付けお茶を啜る。


 「佐々木君、学校生活はどうかな?順調?」

 正臣が沈黙に耐えかねたのか、俺に質問をしてくる。

 俺はその質問に「はい」と返す。


 「……」

 「……」

 再び俺と正臣の間に沈黙が訪れる。


 「佐々木君には感謝してるよ」

 唐突に沈黙を破り、正臣が俺にそう言ってくる。 

 正臣のその言葉を聞いて感謝されることなどした覚えのない俺は「?」となる。


 「佐々木君に会ってから白愛が毎日楽しそうでね」

 白愛を古くから知っている勘九郎達やクラスメイトの反応を見る限り、俺が転校してくるまでは静かで目立たない子だとは聞いていた。

 それが俺の転校を境に家族から見ても楽しそうにしているという。


 「でも、俺は何もしていませんよ。ただ、傍にいるだけで……」

 俺のその返答を聞いた正臣は微笑みを浮かべる。


 「それが彼女にとって大きな影響になって、彼女を変えてくれているんだよ」

 俺が白愛に与えている影響は自分が思っているよりもずっと大きい様だ。

 正臣はそう言って茶を啜り、俺もそれに倣って茶を啜る。

 

 「そういえば校長先生にちょっと聞きたいことがあるんですが……」

 俺は手に持っている茶を置き正臣に視線を向ける。

 正臣も「なんだね?」と返答し、茶を置いて俺の方へ向き直る。


 「えっと……、校長先生はその……」

 俺の歯切れの悪さを見て正臣は首を傾げる。


 「小太郎……って名前はご存じですか?」

 俺が質問した瞬間、正臣がピクッとその名前に反応した気がした。


 「小太郎……か。白愛が君の事をそう呼んでいるから聞き覚えはあるけど……」

 そう、白愛は勘九郎からいくら訂正されても俺の事を『小太郎』と呼ぶ。

 その事に正臣も気づいてはいるが訂正をしようとはしない。

 

 「白愛は俺と会ってから俺の事を『小次郎』じゃなくてずっと『小太郎』と呼ばれているのでなんでかなと思って。校長先生ならをの理由を知っているかな……と」

 正臣はソファの背凭れに凭れ掛かり、「ふむ」と何かを考え始める。

 

 「その、俺ここに来てから変な夢……、かよくわからないんですが、それに出てくる少年と白愛が俺の事を呼ぶ名前と同じで……」

 そこまで話すと正臣は俺の事を黙ってジッと見据えてくる。


 ガチャッ


 俺と正臣の間に沈黙が流れた瞬間、校長室の扉が開かれ、白愛が戻って来た。


 「忘れ物はあったかい?」

 正臣の問いに白愛は「えぇ」と返し手に持っている文庫本カバーの付いた本を見せる。


 「お茶が冷めてしまったけど、どうする?淹れ直そうか?」

 そう聞かれた白愛は校長室にある時計に視線を向ける。


 「そうね……、そろそろバスもいい時間だから今日はこれで帰るわ」

 白愛はソファの隣に置いていた鞄を持ち、俺に「行きましょう」と言って校長室から出て行く。


 「ちょ、ちょっと待って」

 俺は残っていたぬるくなったお茶を一気に喉に流し込んだ。


 「校長先生ご馳走様でした。それじゃ自分もこれで」

 俺は先を歩く白愛を追いかけるように校長室を出て行く。

 

 「佐々木君。君が見ているの夢だよ。ただ()()ね……」

 正臣の意味深な言葉を背中で聞き、俺は白愛を追いかける。

 白愛を追いかける際に廊下の窓から外を見ると、あれだけ降っていた雨は止んでいるようだった。

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

いつも応援してくれている方達に幸福が訪れますように。

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