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〈第10話〉縁は巡り巡って……(後)

午後からの個人戦を前に、皆で昼食を摂る小次郎。

作ってきた弁当は重箱になるほどの気合いの入り様で、皆から笑われてしまうが……。

────???


 泣かないで。


 泣かないで小太郎。


 あなたが泣くと私も悲しい。


 あなたが泣くと私も辛い。


 大丈夫、あの子はきっと神様の元へ行ける。


 あの子はきっと感謝してるよ、『弔ってくれてありがとう』って、『自分のために泣いてくれてありがとう』って。


 この子との”縁は巡り巡って”あなたに帰ってくる。


 人のことを想いやれる優しいあなたの元へ……。


 だから


 もう泣かないで。


~>゜~~


 9月19日白崎高校────体育館・昼休憩


 午前の団体戦が終わり、午後の個人戦前に昼休憩の時間が取られた。


 「さぁ、メシメシ!」

 田中が買ってきた弁当を持ち立ち上がる。


 「瑞希はご飯どうするの?」

 俺も勘九郎と合流して昼食を食べようとその場に立ち上がり、せっかくだしと思い隣の瑞希にも声を掛ける。


 「私、個人戦は見るつもりないからお昼は持ってきちょらんよ」

 「なんじゃ、個人戦は見んのんか?」

 皆口の問いに瑞希は「そうよ」と短く答える。


 「俺、勘九郎に一回でいいから俺の作った弁当食ってみたいって言われて作りすぎちゃってるから一緒にどう?2人じゃちょっと食べきれないかもなんだけど……」

 俺は皆で食べようと瑞希を昼食に誘う。

 実際誇張とかはなく、人に改まって弁当を作ったことがなかった俺は、前日にちょっと気合いを入れ過ぎて、作り過ぎてしまったのは事実だ。

 というか、作って来た弁当を見せたら、運動会に来る保護者かよと言われそうだ。


 「じゃ、お言葉に甘えていただくわ」

 「OK。それじゃ弁当取ってくるから、どこで食べる?」

 俺は弁当を取りに駐輪場に向かおうとしたところで、どこで食べるかを聞いておく。


 「勘ちゃんも上に来ると思うからここに戻ってくればええよ」

 俺は「了解」と返事し、駐輪場へ向かう。


 「おぅ小次郎!どこへ行くんじゃ?」

 階段を降りたとこで勘九郎と鉢合わせる。


 「ちょっと、弁当取ってくるから。ついでに自販機行くけど飲み物はどうする?」

 俺が勘九郎にそう聞くと「んっ」とデカい水筒を見せて、飲み物は大丈夫とアピールしてくる。


 「じゃ、ちょっと、取ってくるから上で田中達と待っといて」

 「おぅ、弁当楽しみにしちょるぞ!」

 俺は皆を待たせまいと、少々駆け足で駐輪場へ向かった。


 「おろ?なんじゃ瑞希も居ったんか」

 勘九郎が汗を拭きながら観客席に上がり田中達と合流する。


 「たまたま来ちょったの。午前で帰ろうと思ったけど、小次郎が弁当作り過ぎたって言うけぇ御呼ばれしたの」

 勘九郎は瑞希の返答に「ほぅか」と答え、椅子にドカッと腰を据える。


 「ヤスとシンジも小次郎の弁当待ちか?」

 そう勘九郎に聞かれると、田中と皆口は「買ってきた」と返事をする。


 「いやぁ、どんな弁当か楽しみじゃのぅ」

 「なんだかんだ佐々木と昼ご飯食べるのって初めてじゃない?」

 勘九郎は「そうじゃのぅ」と返答する。


 

 勘九郎と階段で別れた俺は、駐輪場の自転車のカゴに入れていた弁当箱(重箱二段)を掴み、観客席まで急ぐ。

 

 (そういえば瑞希飲み物持ってなかったよな)

 瑞希に飲み物がなかったことを思い出した俺は、校内にある自販機までお茶を買いに行く。

 だが、自販機には俺達と同じく昼休憩に入っていた他校の生徒でごった返していた。

 

 (うへぇあ……。多いなぁ……)

 弁当を待っている勘九郎と瑞希には悪いが、飲み物なしでご飯を食べる瑞希が気の毒に思い、少々時間はかかりそうだが、順番を待って飲み物を買うことにした。


 

 「小次郎遅いのぅ……。もしかして迷ったか?」

 「いやいや。もう2週間以上いるんだよ?それはないでしょ……」

 田中の返答に勘九郎も「それもそうか」と返す。


 「ご、ごめん。遅くなった……」

 俺は息を切らせて勘九郎達の待つ観客席まで戻ってくる。


 「遅いわ!もう腹が減って死にそうじゃ……」

 腹の虫を鳴らしながら勘九郎が俺に文句を言ってくる。


 「ごめんごめん。瑞希の飲み物がなかったの思い出して。はい」

 そう言って俺は瑞希に自販機で買った烏龍茶を手渡す。


 「何?わざわざ買いに行ってくれたん?ありがとう」

 瑞希は素直に礼を言って俺から烏龍茶を受け取る。


 「んで、これがお待ちかねの弁当」

 俺はドンッ!と空いた席に二段の重箱を置く。


 「……。お、お前運動会に来た保護者か」

 俺が弁当箱(重箱二段)を置いた瞬間、皆口に俺が思った通りのツッコミを入れられ、それを見た勘九郎は大爆笑して瑞希と田中もそれに釣られて笑い出す。


 「ご、ごめん。ま、まさか重箱で持ってくるとは思っちょらんかったから。あははっ。皆口もツッコミのセンスあるじゃん」

 瑞希がそう言うと4人が笑い転げる。


 「ちょ、ちょっと!俺は笑いを取るために作ってきたわけじゃ……」

 「わかっちょる、わかっちょるが。俺等の想像の斜め上をいっちょったから」

 へそを曲げそうにになる俺を見兼ねた田中がフォローしようとするが、本人もまだ笑いが収まってない。

 

 「まぁ、腹も減ったし飯食おう」

 まだかすかに笑っている勘九郎だったが、この場を収めようと俺が作って来た弁当の包みを解きふたを開ける。


 「おぉ~!これはうまそうじゃのぅ」

 一段目にはおにぎりと厚焼き玉子、彩でプチトマトを入れてある。

 二段目はおかず類でミートボール、白愛からお墨付きのあったスコッチドエッグ、弁当の定番唐揚げ、エビフライ、ポテサラ、彩兼食後のフルーツ類を入れて持ってきた。

 女子である瑞希に食べてもらうのが想定外だったため、一般男子が喜ぶであろう茶色いメニューが多くなってしまっているがそこはしょうがない。


 「へぇ~。これ全部小次郎が作ったの?」

 重箱の中身を見た瑞希は先程とは打って変わって俺の料理に感心したような表情になる。

 

 「ちょっと取り皿足りるかわかんないけど」

 そう言って俺は紙の取り皿と割り箸を勘九郎達に渡す。


 「ほぃじゃ!いただきます!」

 おにぎりを一つ取り、勘九郎が口いっぱいに頬張る。

 

 「っ!!!美味い!これ具材はなんじゃ!?見たことないピンクの具材じゃの」

 「ん~、それは明太マヨかな。ツナマヨはコンビニとかにあるけど明太マヨってあんまり見ないからちょっと作ってみた」

 「私のは普通の昆布みたい。そっか確かに小次郎に言われてみれば明太マヨっておにぎりに合いそう」

 今日作って来たおにぎりは昆布、明太マヨ、あと変わり種の具材を作ってきている。


 「瑞希、半分交換するか?これうまいぞ!」

 勘九郎がそう言うと、手でおにぎりを半分にする。

 瑞希も「そうね」と言っておにぎりを半分にしてお互い交換する。

 なんだろう、この辺り幼馴染だからか、お互いが一口食べたものを半分交換するといったことに抵抗がないのか……。


 「っ!うんうん!合う合う!明太マヨいいわね」

 「じゃろ?美味いじゃろが」

 勘九郎は自分が作ったわけでもないのに威張って見せる。


 「う、美味そうじゃのぅ。俺らもおかずもらってもええか?」

 皆口が自分の弁当を食べ終わらないうちにそう聞いてくる。


 「いいよ。食べて感想聞かせてよ」

 俺がそう言うと田中も皆口も一品ずつおかずを取る。


 「唐揚げ美味!」

 「このハンバーグ?に包まれた卵も美味いのぅ!」

 「おい!お前らは先に自分の弁当食ってからにせぇや!」

 重箱を持ってきたときのお笑いはどこへ行ったのか、いつの間にか勘九郎達はおかずの取り合いを始めている。

 

 「ポテサラって胡椒かけると美味しいって聞いたけどホントなんじゃね」

 「アクセントになって美味しいでしょ?」

 瑞希は俺の問いに「うんうん」と頷き返してくる。

 

 「それにしても、小次郎は料理上手なんじゃのぅ、おにぎりなんかちゃんと三角形になっちょる。瑞希が作ったまん丸のおにぎりしか作れんけぇのぅ」

 「失礼ね!ちゃんと三角形ににぎれるわ!」

 瑞希が勘九郎の頭を反論しながら小突く。 

 俺達はそれを見て笑っていた。


 「ん?このおにぎりの具材なんじゃ?ツナマヨでも明太マヨでもないが……」

 「あ、それ今回の当たりかも。ちょっと冒険して『食べるタルタル』が入ってるんだよ」

 聞き慣れない単語がでて瑞希達は「?」となる。


 「うんうん!なるほど!こりゃタルタルソースか!」

 「そうそう、ちょっと前に料理系のMouTuberが作ってるの見て真似てみたんだ。エビフライに何もかけてないでしょ?だからそれをおかずにすれば合うかなって」

 俺がそう言うと、勘九郎はおにぎりを一口含み、おかずにエビフライを摘まむ。


 「っ!」

 「あ、あれ。ちょっとこれは冒険しすぎたかな……」

 おにぎりとエビフライを頬張った勘九郎が黙り込んでしまったため、俺はさすがに合わなかったかなと思った。


 「お前……。男の胃袋の掴み方知っちょるな……。これは美味い!」

 俺の両肩をガシッ!と掴みタルタルおにぎりとエビフライの味に感動している。

 

 (男の胃袋の掴み方って……、俺も男なんだが)

 俺は心の中で勘九郎の言葉にツッコミを入れる。


 「『食べるタルタルソース』か、なるほどねぇ。食べるラー油みたいな感じなのね」

 瑞希がそう言いながら勘九郎の手の中にあるおにぎりの具材を覗き込む。


 「さすがにマヨマヨしすぎてカロリー高そうじゃから私はパスかな」

 「市販のタルタルソースより具材がゴロゴロして大きいんじゃの」

 瑞希の言う通り、ちょっとマヨネーズを使った料理が多かったかなとちょっと反省。

 だが、勘九郎は味を嚙み締めながら、本当に美味しそうに食べてくれるからこれだけ作った甲斐があった。

 

 「こんなに美味いんじゃったら弁当なんか買いに行かにゃ良かった」

 「ホントホント」

 田中と皆口も自分達の買ってきた弁当を食べ終えても、俺の作ったおかずを摘まんで食べてくれた。

 

 (今まで父さんと母さんにしか食べてもらってなかったから、ここまで人に美味しいって言ってもらえるのは嬉しいな)

 

 結局重箱で持ってきた弁当はデザートのフルーツまで皆で完食し重箱は空になった。


 

 「あぁ~、美味しかった御呼ばれして正解じゃったね。ご馳走様、小次郎」

 瑞希のその言葉に倣い、他の3人も「ご馳走様」と言ってくる。


 「また今度こういう機会があったら作ってくるよ」

 俺も重箱を出した時こそ笑われてしまったが、最終的に皆から高評価をもらえて何よりだった。


 「また今度……か。じゃあ次は文化祭ね」

 そう言って瑞希が提案してくる。


 「おぉ。ええのぅ。文化祭があったか」

 勘九郎が瑞希の提案に乗ってくる。


 「あんた達今年はまともな出し物にしなさいよ……。去年みたいな白けたお化け屋敷はごめんじゃけぇね」

 「あれはお化けのメイクした奴が悪いわ。俺等は真面目にやっちょったぞ」

 去年の文化祭を思い出して4人の会話が盛り上がる。

 俺もこうやって楽しい思い出を作っていきたいものだ。


 「さて、それじゃ私は帰るけぇ」

 瑞希が腕時計の時間を見て席を立つ。


 「なんじゃ瑞希、個人戦見て行かんのか?」

 個人戦を見届けず帰ろうとする瑞希に勘九郎が声を掛ける。


 「言ったでしょ。今日はたまたま来てただけ。小次郎、お昼誘ってくれてありがとうね。楽しかった」

 そう言いながら瑞希が会談へ向かう。

 

 「酒井!個人戦、頑張りなさいよ!」

 瑞希が不意に立ち止まり、勘九郎の方に振り向いてエールを送る。

 勘九郎はそのエールに「おう!任せちょけ!」とガッツポーズをして返事を返す。

 それを見た瑞希は満足そうな表情で帰っていく。


 「よし!ほんじゃ俺は食後のウォーミングアップに行ってくるわ」

 瑞希のエールがあったからか、勘九郎が気合いを入れる。


 (この2人って実はあと一歩ってとこなんじゃないか?)

 瑞希は幼馴染の関係が壊れるのが怖いと言っていたが、俺の目には何かしらのきっかけがあれば2人はうまくいくのではないかと思った。


~>゜~~~


 9月19日白崎高校────駐輪場

 

 「すまん、待たせたのぅ」

 勘九郎が試合後の片づけを終えて、駐輪場で待っていた俺達と合流する。

 こうやって4人で帰るのも転校初日以来かもしれない。


 「俺達も手伝った方が早く終わったんじゃない?」

 俺は赤いタオルで汗を拭いている勘九郎に問いかける。


 「お前等は今日は観客じゃ。観客に片付けさせる奴がどこに居るんじゃ」

 俺達もここの生徒なわけだから別に問題はないと思ったが、この辺勘九郎は生真面目というかなんというか。


 「まぁ、勘ちゃんも来たことだし帰りますか」

 田中がそう言って自転車を漕いで先に行く。

 俺達も自転車に乗って、先を走る田中に続く。

 

 「そういえば。勘九郎、優勝おめでとう」

 俺は個人戦の結果を思い出し、優勝した勘九郎を祝う。

 

 「おぅ。ありがとうの。お前の弁当のおかげで精が出たわ」

 勘九郎は礼を言ってくるが、ホントはそれだけじゃないくせにと俺は思った。

 

 「次からは勘ちゃんの時代じゃね。頑張ってよ」

 皆口の言葉に勘九郎は「任せちょけ!」と威勢よく答える。

 俺達は談笑しながら学校の坂道を下り、一般道に出てそこから、国道二号線に出る大きな交差点の赤信号で立ち止まる。


 「あっ」

 俺は信号待ちしているところで、ある物が道路に転がっているのを発見する。

 俺は自転車を降りて、車の行き来が緩くなるころ合いを見計らって、その落ちているところに駆け寄る。

 

 「お、おい。佐々木!」

 後ろで田中が呼び止める声が聞こえ、何台かの車にクラクションを鳴らされるが、俺はその転がっていたものを抱き上げ走って皆の元へ戻る。


 「危ないことするのぅ!急にどうしたんじゃ!」

 車通りの多い車道に出た俺を心配した勘九郎が語気を荒げる。


 「これ……」

 と、俺は抱きかかえている物を皆に見せた。

 それは車に轢かれ、血塗れで息絶えていた子猫だった。

 おそらく、母猫を追っている所を運悪く車に跳ねられたのだろう。


 「お前そんなもののために危ないことするなや」

 「そうじゃ、放っときゃあとで業者か何かが処理するじゃろ」

 「……」

 田中と皆口から俺の取った行動を批難されるが、勘九郎だけ腕組みをして無言で俺を見てくる。


 「見つけたからには放っては置けないよ……。これを放って置いたら車で引いた人と同じじゃないか」

 俺がそう言うと黙っていた勘九郎が、首に掛けていたタオルを俺に投げてくる。


 「血で服が汚れる。それに包んじゃれ」

 黙っているから勘九郎も怒っているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

 「勘ちゃん、それってお気に入りのカープの限定タオルじゃろ?ええの?」

 それを聞いた俺は申し訳なさから「いいの?」と皆口と同じことを聞き返す。


 「タオルなんかまた買えばええじゃろ。それよりそいつどうするんじゃ?」

 俺は勘九郎に感謝して、子猫をタオルで出来るだけ優しく包む。

 

 「できればどこかに埋めてやりたいけど……」

 「どこかにって言われてものぅ……」

 俺の返事を聞いた勘九郎が腕組みをして考え込む。


 「白天様……」

 俺が不意に思いついたことを呟く。


 「神社の脇とかに埋めさせてもらえないかな?」

 「普通、神社にはそう言った死体とか亡骸は持って行かんもんじゃろ……。穢れを持ち込むことになるけぇの」

 俺の問いに、勘九郎が難しい顔をして答える。


 「まぁとは言うても思いつくとこもないし、行くだけ行ってみるか」

 俺は「ありがとう」と勘九郎に礼を言って、子猫を包んだタオルを自転車のカゴに載せ、皆で白天比女神社に向かうことにした。


~>゜~~~~


 9月19日白天比女神社────


 白天比女神社に着いた俺達は、通行の邪魔にならない場所に自転車を止め、カゴに載せたタオルで包んだ子猫を抱え、境内を抜けて社殿へ向かった。

 社殿前まで来た俺達は、箒を持って佇んでいる白い着物を着た少女、白愛を見つける。

 白愛も俺達の気配を感じたのか、こちらに振り返ってくる。


 「小太郎?」

 俺を見た白愛は笑顔になるが、勘九郎が一緒に居るのを見て表情が曇った。

 俺達は事情を説明するため、白愛に近寄る。


 「お前がここに何しに来た?」

 白愛は勘九郎に睨みを利かせ、攻撃的に質問してくる。


 「別に神社に来るくらいええじゃろが。それに、今日の用事は俺じゃない」

 そう言って勘九郎が、俺に目配せする。

 

 「それ……。子猫?」

 俺が抱えていたものを言い当てた白愛に驚いたが、今は考えないことにして俺は「うん」と答えた。


 「車に轢かれてるの見つけて……。神社の脇の草むらにでも埋めさせてもらえないかと思って……」

 「……」

 白愛は俺を見たまま何かを考えている様に黙り込む。


 (やっぱりダメかな……)

 

 「ちょっと待ってて。スコップか何か持ってくるわ」

 俺はそれがOKの返事だと思い安堵した。


 俺達は白愛が戻ってくる間に、神社の脇で埋葬できそうな場所を探す。

 

 「どの辺にするかのぅ……」

 掘りやすそうな場所を探していると、ある一角だけ草が生えていない場所があった。

 そこには小さな石と、摘んだ野花がまるでお供えの様に置いてある。

 

 「持ってきたわ」

 白愛が園芸用のスコップを持ち俺達の元へ戻ってくる。


 「白愛、ここって何か埋まってるの?」

 俺が野花がお供えしてある場所の事を聞くと、白愛の表情が悲しそうなものになる。


 「そこを掘っちゃだめよ。掘るならその隣くらいにして」

 そう言って白愛が掘る場所を指さす。

 指さされた場所を、田中が掘りやすいように周りの草をむしる。

 俺は勘九郎にスコップを渡し、子猫を埋葬できるくらいの穴を掘ってもらう。

 

 「ま、こんなもんじゃろ」

 穴を掘り終えた勘九郎に子猫をタオルに包んだまま渡す。

 勘九郎はそのままの掘った穴に子猫を入れ土を被せる。


 「良かったの?タオルごと埋めて」

 「ん?ええよ、俺からの手向け代わりじゃ」

 大事なタオルだったろうに、タオルごと埋めた勘九郎に俺は「ありがとう」と感謝した。


 「墓石の代わりはこのくらいでええかの?」

 そう言って皆口が墓石の代わりにと石を持ってきた。


 「……」

 子猫を埋葬し終わった俺達は皆で手を合わせる。


 「白愛、ありがとう」

 俺は埋葬する許可をくれた白愛に礼を言った。


 「別に私は何もしてないわ。それよりちょっとここで待ってて」

 白愛に借りたスコップを手渡すとここで待つ様に言われる。

 俺達は白愛を待つ間に神社にある水道で手を洗わせてもらう。



 しばらく待っていると白愛が、人数分の紙コップに入った冷えたお茶を持って来てくれた。

 

 「おぉ!気が利くじゃないか白愛!」

 よっぽど喉が渇いていたのか、勘九郎が白愛からお茶を受け取り一気に飲み干す。

 俺達も白愛からお茶を受け取り、ありがたくいただく。

 

 「相変わらずガサツね……」

 一気にお茶を飲み干す勘九郎を見て、白愛が冷たい一言を言う。

 いつも思うが何で白愛は勘九郎に対してこんなに冷たい態度をとるのだろう。


 「ありがとう白愛、助かったよ」

 俺が礼を言うと白愛は優しげな表情になる。


 「そういえば、あの花がお供えしてあるところって何かあるの?」

 俺は疑問に思ったことを白愛に聞いてみる。

 

 「覚えて……ない?」

 俺は白愛から返ってきた問いに「?」となる。


 「ううん……。いいの、気にしないで」

 そう言う白愛の表情は今にも泣きだしてしまいそうなくらい悲しそうな表情だった。

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

今回小次郎の弁当パートに自分自身笑みを浮かべながら楽しく書けました。

もし自分の作った弁当が誰かに食べてもらえた時、美味しい!と言ってもらえるシーンを思い浮かべると執筆していて楽しかったです。

いつも応援してくれている方達に幸福が訪れますように。

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