こんな世界に誰がした
世界がゲームに塗り替えられた。んなアホな。
ゲームみたいっていうかゲームだよこれ。視界の右のあたりにHPバーみたいなのが見える。
気づいたときにはこうなってたっていうか、ほとんど一瞬?意識が切り替わるように目の前の景色が日本家屋に塗り替わって、すると何故か木綿の着流しを羽織り、腰には2本の刀がぶら下がっていた。
いや、おかしいでしょと思うのも束の間、周囲を俺と同じような格好をした日本人に囲まれてたのだ。
彼らは抜刀し、切っ先をこちらへと向けている。
「えっと、もしかしてコスプレの方ですか?それとも、時代劇の撮影とか?」
ツーっと脇腹を冷や汗が伝うのが分かった。
場を和ますためのジョークというか、あまりにも現実離れした光景に言わずにはいられなかったが、しかし表情から察するにどうやら冗談ではないらしい。
背後までは数えられないが、目の前にいるだけでも15人ほどだ。勝てるわけがない。もし背後に誰もいなかったら後ずっていただろうというくらいには緊迫した空気感があった。
「これが冗談に見えるのかな?」
浪人風の男たちの中でも、もっとも体格の良い髭面の男が言った。
「ははは…。なにか恨むようなことでも?」
男は首を振る。そして不敵に笑った。
「所詮この世は弱肉強食」
「は?」
「しかして、驕れる者久しからず」
「何を言ってるんです…?」
「分からないならっ」
言葉とともに男はこちらへと駆け出した。
一瞬の出来事で、避けようとするも間に合わない。
「死ぬまでだ!」
このとき、俺は自分の肩口から脇腹まで刀が滑らかに通り過ぎていく様子を幻視した。
全身が恐怖で戦いた。避けるのは無理だと悟って、咄嗟に刀を握る。
もし、この刀を握るのがあと一秒でも速ければ、俺の五体は切り裂かれることなく無事だっただろう。
しかし、俺は抵抗虚しく躊躇なき浪人の一刀にて五臓六腑を暴かれて、死んだ。
最後に目に写った光景は、俺を斬り伏せた浪人の首が血潮とともに宙を転がる様だった。