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歓迎会

「どなたか、オリヴィアさんの車いすをお願いできますか?」


「はい!」


 アメリアさんの言葉に私は手を上げて答えた。


「では、お願いします」


「フレデリカ様、大変申し訳ありませんが、お嬢様をよろしくお願い致します」


 イエルチェさんが私に向かって頭を下げた。その顔には少しばかり心配そうな色がある。


「はい、任せておいてください」


 まあ、前回はいきなり試合会場に行ってしまいましたから、心配なのはよく分かります。でもこの中では、多分私が一番まともに押せると思います。それに今日はドレスではありませんし!


「フレデリカさん、すいませんがよろしくお願いします」


「はい、オリヴィアさん」


「では皆様、中へお進み下さい」


 アメリアさんの言葉に、この宿舎にいる新入生が一列になって進んだ。車いすを押す私とイサベルさんが最後に談話室の中へと入る。


 一列に進んだ私達の両側には大勢の人の気配があった。だけど中は油灯の小さな光だけでとても暗く、人数を含めてその姿ははっきりとは分からない。それに中は自分の息遣いが聞こえてきそうなくらいの静寂に包まれている。歓迎会というよりは、むしろ何かの儀式のような雰囲気だった。


 アメリアさんはそのまま小さな油灯の前まで進むと、私達に向かって再度頭を下げた。


「バタン!」


 誰が閉めたのかは分からないが、背後で入り口の扉が閉まる音が響いた。


「改めまして、本日は私共の誘いに参加して頂きましてありがとうございます。この歓迎会は、皆さん新入生同士の結束を深めて頂くこと並びに、皆さんがこのグレース女子宿舎寮にふさわしい方かどうか確認させていただく為のものです」


 そう告げると、そこで一度言葉を切って私達をじっと見つめた。


「え!」


 私だけじゃなく、イサベルさんも含めて、何人かの新入生から驚きの声が上がった。歓迎会って、歓迎の乾杯をして自己紹介をしてとか、そういうもんじゃないんですか!? 私を含めて並んでいる何人かは、明らかに予想外の展開に狼狽していた。


 だが何人かは動揺することなく冷静を保ったままだ。きっと私と違って、この歓迎会がどんなものか知っているのだろう。だけどこの息が詰まるような感じと言い、個人的には嫌な予感しかしない。

 

「私語はご遠慮ください。では今から私の方で箱を持って回りますので、そちらの中に入っている棒をそれぞれ一本づつお取りください」


 アメリアさんが、指先がやっと入るかどうかの細い筒のようなものを持って先頭から回っていく。私と一緒に並ぶ新入生は緊張した面持ちで、そこから棒を一本づつ取り出していった。


「あの、私も引く必要がありますでしょうか?」


 オリヴィアさんがアメリアさんに問いかけた。


「もちろんです」


 私もアメリアさんが差し出した筒に指を差し込んだ。一番最後だったせいだろうか、筒の中には棒は一本しか残っていなかった。


「では、皆さん引かれましたね。では暗いところで大変恐縮ですが、ご自分の引いた棒の端が何色かをご確認ください。確認に際して私語はご遠慮願います。もし暗くて見えない様なら私に声をかけてください。私の方で判断させていただきます」


 アメリアさんの声に、私は自分の持つ棒の先を遠くにある明かりに照らしてみた。そこには赤い塗料のようなものが付いている様に見える。


 私の前ではオリヴィアさんが腕を伸ばして、色を確認しようと苦戦していた。私の目にはそれは新緑のような明るい緑色に見える。残念だが違う色の様だ。隣にいるイサベルさんの棒の先端も黄色だった。どうやら残念な事に、私達三人はそれぞれ別の色らしい。


「皆さま、何色か確認できましたか? 確認できなかった方は挙手をお願いします」


 誰も手を上げる者はいない。オリヴィアさんを含めて、全員問題なく確認できたらしい。


「緑色の方はどなたでしょうか?」


 アメリアさんの声に、オリヴィアさんと他に三名が手を上げた。


「どうか緑色をお持ちの方で、オリヴィアさんの車いすも押して前へお進みください」


 その声に私の前方に居た女性が私に会釈すると、私に代わって車いすの押し手を掴んで前へと押そうとする。だがこの部屋の中には絨毯がひかれているので、車いす自体の重さもあって簡単に動こうとはしない。


「うう……」


 女性の口からうめき声が漏れた。さらに前方に居たもう一人の女性が手伝いに来て、車いすは二人がかりでやっと前へと動き始める。車いすの上でオリヴィアさんがとても申し訳なさそうな顔をして座っていた。


 オリヴィアさんのせいではないのだけど、その気分はよく分かる。私が前世で冒険者として森に入っていた時には、マリや黒いやつ(百夜)に助けられてばかりで、申し訳ない気分で一杯だった。


「次に赤をお持ちの方?」


 私のほかに二名が手を挙げた。


「緑色の方の後ろに続いてください」


 言われた通りに緑色組の後に続く。


「では最後に黄色をお持ちの方は、赤の方の後ろに並んでください」


 イサベルさんと他二名の方が私の後ろに並んだ。一体何が始まるんだろう?


「では、これから各組にランタンと地図をお渡しします」


 地図!?


「地図にはここから少し東に離れた旧グレース宿舎までの道と、そこからの帰り道ならびに、旧グレース宿舎内の見取り図が書いてあります。各組の皆さんで協力して、旧グレース女子宿舎寮から各組の色に関わる物を持って帰っていただきます。それを持って、皆さんをこの伝統あるグレース女子宿舎寮にふさわしい方かどうか判断させていただきます」


「あの、できなかった場合は?」


 先頭にいた誰かがアメリアさんに向かって口を開いた。


「質問などはすべて後でお願いします。では最初の緑の組から始めさせていただきます。各組は緑組から時間を置いての出発になります」


 アメリアさんはそう言うと、小さな油灯が乗っていた机の先の厚いカーテンを開いた。そこには硝子がはめられた大きな窓枠があり、中庭に出られるようになっている。その先には月明りに照らされた芝生の広場と、その奥にある黒い木立の影が見えた。


 もしかして、もしかしてですが、歓迎会というのは、私のとっても苦手な、()()()の事でしょうか!?

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