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事情聴取

 昨日のお風呂の件は誰にばれることなく、普通に授業が終わり、私はロゼッタさんの補講が始まるまでの夕食後のひと時を、マリとだべりながら過ごしていた。


「お昼休みにお弁当を広げたら、オリヴィアさんがいきなり土下座してくるから、もうびっくりよ」


 私の話に、夕飯の片づけをしているマリが、含み笑いを漏らす。


「オリヴィアさんの土下座なんて、想像できません」


 ですよね。私にとっては、前世からの特技みたいなものですけどね。


「でも、お風呂に入った後は、まったく覚えていないみたい。イエルチェさんから聞いて、青ざめたって言っていた」


 それはそれで、不幸中の幸いかもしれません。オリヴィアさんみたいに、男性に全く免疫がない人が、いきなりお風呂をのぞかれたら、夜も眠れなくなってしまいます。


 もっとも、オリヴィアさんは床に寝ていたし、タオルもかけてあったから、ほとんど見えなかったと思う。私と言えば……。やばいやつを思い出してしまいました。頭の中で歌って、追い出さないといけないやつです。


「どうかされましたか?」


 黙り込んだ私に、マリが心配そうに声をかけてくる。


「一発じゃすみません」


「一発?」


 マリは首をかしげて見せたが、すぐに殺気を含んだ顔をした。いけません。またしても、心の声が漏れてしまった。


「やっぱり、二発ぐらいは必要かな?」


「足腰が立たなくなるぐらい、殴った方がいいと思います」


 マリが真顔で返してくる。ですが、やりすぎるとこっちの首が飛びかねません。私だけならいいですけど、アンにも迷惑をかけてしまいます。


「そんな事より、ロゼッタさんの補講の準備をしないと……」


 トントン……。


 補講用のノートへ手を伸ばした時だ。誰かが扉を叩く音がした。


「マリ、私が出る」


 マリへ声をかけて扉へ向かう。いつもよりずいぶんと早い。昨日は休んだ分、二倍はやるつもりかも。背中に冷たいものを感じつつ、扉を開けた時だ。


「ごきげんよう、フレデリカさん」


 扉の向こうに立つ人物が、スカートに手を添えてあいさつをした。意外な人物の訪問に、慌ててスカートに手を添えて頭を下げる。この方に不意打ちの訪問を食らうのは、目玉お化けの時以来です。


「ご、ごきげんよう、アメリアさん」


「急な申し出ですみませんが、ソフィアさんが、フレデリカさんとお話をしたいそうです。それでお迎えに来ました」


「今からですか?」


「さほど時間はかからないと思います」


 これは私に拒否権がないやつですね。


「承知いたしました。マリ、ロゼッタさんが来たら……」


「ロゼッタ先生には、私の方から連絡してあります」


 今さら肝試しの続きをするとは思えないけど、ロゼッタさんにまで連絡しているとは何だろう?


 マリから受け取ったカーディガンを羽織り、アメリアさんに続いて部屋を出る。廊下の角を曲がり、その一番奥、突き当りの扉で足を止めた。


「フレデリカさんをお連れしました」


 扉の向こうから明かりが漏れ、月の女神を思わせる銀髪の女性が顔を出す。


「ようこそ、フレデリカさん。どうぞそちらへお座りください」


 自ら扉を開けたソフィア王女が、居間のテーブルを指さした。そこには既に先客が座っている。イサベルさんとオリヴィアさんだ。その顔には明らかに緊張の色がある。


「皆さんお揃いですね。早急に確認したいことがあり、お時間をいただきました」


 そう告げると、ソフィア王女は私たち三人を見回した。口元に笑みは浮かべているが、その目は決して笑ってなどいない。


「先日、皆さんが旧宿舎のお風呂へ行かれた際に、それをのぞいていた人物がいたと言う話があります」


 思わず声をあげそうになるのを、必死に飲み込んだ。どうして、のぞきの件をソフィア王女が知っているのだろう。イサベルさんとオリヴィアさんへ視線を向けると、二人とも驚いた顔をしてソフィア王女を見つめている。


「事実だとすれば、誰がのぞいていたのか、教えていただきたいのですが?」


 この様な場合、余計な事を言わずに、口を閉じているのが一番だ。ですが、相手はソフィア王女です。黙って座っている訳にもいきません。


「なんのお話か、よく分からないのですが……」


 とりあえず口を開いた私に、ソフィア王女が首をひねって見せる。


「よく分かっていると思いますが?」


 どうしてかは分からないが、のぞきの件がすべてソフィア王女にばれている。オリヴィアさんの飲酒もばれているかも。ここは相手がソフィア王女だろうが何だろうが、しらを切るしかありません。

 

「すいません。やはり何のことか分かりません」


「フレデリカさん……」


 ソフィア王女はそう問いかけると、明るい灰色の目で私を見つめた。


「あなたって、私が思っていた以上に嘘つきなんですね」


「えっ!?」


 あまりにも率直な指摘に、頭の中が空っぽになる。


「誰かを傷つけないためなら、いくらうそをついても、許されると思っていませんか?」


「ソフィア王女様!」


 うろたえる私の横で、イサベルさんが声を上げた。


「ここでは同じ学生同士です。敬称なしでお願いします」


「失礼いたしました」


 イサベルさんが慌てて頭を下げる。


「ソフィアさん、旧宿舎へ行った際に、とある男子生徒の方と偶然にお会いしたのは事実です。ですが、旧宿舎は再建中ですし、その方がそこにいたのは、単なる偶然かと思います」


「もとはと言えば、私がフレデリカさんとイサベルさんのお二人に、旧宿舎のお風呂の使い勝手の件をお願いしたのが……」


 固まっている私に代わって釈明する、イサベルさんとオリヴィアさんへ、ソフィア王女が首を横に振った。


「イサベルさん、オリヴィアさん。私がお聞きしたいのは事実であって、見解や経緯ではありません。いずれにせよ、イアンさんが私に申し出た内容は事実の様です」


「イアンさん!?」


 その名前に思わず声が出た。イサベルさんとオリヴィアさんも、当惑した顔でソフィア王女を見つめている。


「この件は、もう一方の当事者であるイアンさんから聞きました。イアンさんの勝手な作り話でないことを、皆さんの口からお聞きしたいと思い、お時間を頂いたのです」


 そう告げると、再び私たち三人を眺めた。

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