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動転

 昨日のこともあり、髪をとかすのに時間がかかったせいで、遅刻ギリギリで教室に入った。もちろん、イサベルさんとオリヴィアさんはとっくに教室に行っている。


「フレデリカさん!」


 走り続けたため、膝に手をおいて深呼吸をしていると、私を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げると、オリヴィアさんが、ものすごい勢いで私の方へ駆け寄ってくる。そしてあろうことか、いきなり床に手をついて頭を下げた。いわゆる土下座だ。突然のことに、教室にいた全員が、呆気にとられた顔でこちらを見ている。


「昨日は、本当に申し訳ございませんでした!」


「あ、あの、オリヴィアさん……」


「は、はい」


「お願いですから立ってください!」


 オリヴィアさんに土下座などさせていると、私が天下の極悪人に見えます。実際のところ、教室の生徒全員が、眉をひそめて私を眺めている。


「頭を下げたぐらいで許していただけるとは――」


 まだ何か言おうとしているオリヴィアさんの手を取り、無理やり立たせる。


「オリヴィアさん、まずは落ち着いてください」


「一体どうしたんですか?」


 私はオリヴィアさんの後を追いかけてきた、イサベルさんへ声をかけた。


「昨日の件で相当に動転されているみたいで、特にフレアさんには合わせる顔がないと言って、ずっと嘆いておられました」


「本当に、本当にすいません……」


 抱き上げた私の腕の中で、オリヴィアさんがしゃくりあげ始める。今度は別れ話をしている恋人同士みたいだ。もう予鈴がなる時間だけど、教室の中で全員にガン見されながら、これを続けるのは危険過ぎです。


「オリヴィアさん、ここではなんなんで、廊下でお話ししましょう」


 そう告げた私に、イサベルさんが入口の扉を開けてくれた。そして私に目配せをしつつ、後ろ手に扉を閉める。他の生徒たちが廊下に出るの防いでくれるつもりらしい。


「ごめんなさん、ごめんなさい……」


 そうつぶやくオリヴィアさんの手を取り、顔を上げさせる。


「オリヴィアさん、昨日の件はロゼッタさんがうまく収めてくれましたから大丈夫です」


「ロゼッタ先生がですか?」


「ですから、私ではなく、ロゼッタさんに感謝してください」


「分かりました。ロゼッタ先生には、今回の件でご迷惑をかけたことについて、誠心誠意謝らせていただきます。ですが、フレアさん……」


「なんでしょう?」


「もう、私のことはお嫌いになられましたよね?」


 突然のセリフに、思わず目が点になる。


「オリヴィアさんのことは大好きですよ」


「本当ですか?」


「そもそも、私がオリヴィアさんのことを、嫌いになったりする訳ないじゃないですか?」


 それを聞いたオリヴィアさんが、涙にぬれた目を輝かせる。どちかと言えば、あの二人に覗かれた方が大問題ですよ。そっちこそ、イサベルさんと三人で、殴り込みに行くべきです。


「よかったです。もう生きる希望もないと思ってしまいました……」


 オリヴィアさんが両手で私を抱きしめてくる。なんて大げさなと思った時だ。首筋が前世でマ者が近寄ってきたときみたいな、チリチリした感覚が走る。


「フレデリカさん、オリヴィアさん?」


 振りかえると、廊下の暗がりに子供みたいに小さな人影が見えた。もちろん子供ではないし、マ者などという生易しいものでもない。


「予鈴前に、廊下で痴話げんかをするのはやめてください」


 そう告げると、人影は私に向かって唇の端を持ち上げて見せる。決して痴話げんかなどではないとは思ったが、そんな言い訳をしていたら、命がなくなります。


「メルヴィ先生、申し訳ありませんでした!」


 私はそう声を張り上げると、オリヴィアさんの手を引き、光の速さで教室へ舞い戻った。

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