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告白

「フレデリカさん、ごめんなさい。私が悪かったんです!」


 バラ園に入るなり、ローナさんが私へ向かって、地面に膝をついて謝ってきた。その姿に、思わずこちらが驚いてしまう。


「ローナさん、どうか立ってください。ローナさんは何も悪くありません」


 とりあえず彼女に手を差し伸べた。その手を見上げたローナさんの顔は、涙に濡れそぼっている。


「いえ、全て私が悪いんです。私がすぐに試合を止めるべきだったんです!」


 そう叫んだローナさんへ、私は首を横に振った。


「違います。私が止めないよう、お願いしたのです」


「あら、あなたからもお願いしたの?」


 花壇の向こうから声が聞こえた。見れば腕を組んだ彼女(メラミー)が、うすら笑いを浮かべつつ、私たちを眺めている。


「それなら、私からわざわざ頼む必要はなかったわね。それに、いつまでお涙頂戴みたいな事をしているの?」


 彼女(メラミー)がいらついた顔をして、こちらを見る。


「ローナ、あなたは今回の当事者の一人でしょう。自分の役割ぐらい、きちんと果たしてくれないかしら?」


『当事者?』


 いったいどういう事だろう? 呆気にとられた私へ、ローナさんが頷いて見せる。


「そうです。フレアさんに嫉妬した私が悪いんです。それでメラミーと一緒に、あなたをはめようとしました」


「ローナさん……」


「私を助けてくれたのはフレアさん、あなたですよね? それが出来るあなたが、それに頼ってしまった自分が、どうにも許せなかったんです!」


 もしかして、個室宿舎に入る支援をしたのが、私だと思っています?


「違いますよ。申し訳ないですが、自分が入るのすら危うかった我が家に、そんなお金はありません」


「えっ!」


 私の言葉に、ローナさんがとても驚いた顔をする。やっぱり勘違いしていたらしい。


「どこかのスケベ親父から、あなたを助けたいと思ったのは確かです。でも私に出来るのは、私みたいな人間でも、立ち向かえる勇気を持てる事を、示すぐらいです。でも、それもうまくいきませんでしたね」


 苦笑いを浮かべた私を見て、ローナさんがさらに驚いた顔をする。


「何を被害者面をしているの? これはローナが自分で言い出したことよ。今頃になって、自分は悪くないと、必死に泣いて見せているだけじゃない」


「誰だってそうじゃない?」


「どういう意味?」


 私の台詞に、彼女(メラミー)が首をひねって見せる。


「誰かをねたむこと。そんな気持ちになることぐらい、誰にだってあるでしょう?」


「そうね。そのお花畑一杯の頭を見ていると、本当にうらやましく思えてくるわ。それよりもローナ、まずは立会人としての仕事を、きちんとやって」


 私は怯えた顔をするローナさんの横で、地面に手をつくと、そこへ額をこすりつけた。


「メラミーさん、私たちは互いが同じ学園で学ぶ生徒です。心から謝りますので、こんな馬鹿げたことはやめませんか?」


「メラミー、やめようよ。こんなの絶対に間違っている!」


「やりなさい!」


 彼女の声に、ローナさんがビクリと体を震わせる。どうやら何を言っても無駄らしい。


「どうしてもやるのね」


 私は立ち上がると、腕組みをして立つ彼女を見つめた。


「当たり前でしょう? だからさっさと立会人としての仕事を――」


「これは単なる殺し合いよ。そんなものはいらないわ」


「それがあなたの本性ね」


 私の台詞を聞いた彼女が、ニヤリと笑って見せる。そして背後に立つ男性の方を振り返った。男性が腰にさす大剣を眺めながら、私は前世で見た風景を思い出す。彼女は人がただの血と肉へと変わっていくのを、それを成す人たちがどんな顔をしているのかを、知っているのだろうか?


 私が前世で見た人たちは、戦乱の中でそれをやり、マ者に食われた。白連が目をふさいでくれたので、その最後を私は見ていない。


 でもその時に聞いた絶望の悲鳴は、未だに私の魂に刻み込まれている。今からやろうとしていることは、その時起きたことと何も変わりはしない。ただの殺し合いだ。


「フレデリカ様、もう言葉は無用です」


 そう告げると、背中から剣をおろしたマリが、私の前へと進み出た。


「メラミー、あとは俺に任せろ」


 それを見た彼女の付添人の男性も、私たちの前へと進み出る。


「ライオネル、あの子たちに、現実と言うものを教えてあげて」


 男性は腰から剣を抜くと、さらに一歩前へと進んだ。その先では、マリが剣を鞘に入れたまま立っている。


「もしかして、抜かないつもりか?」


 男性の台詞に、マリが頷く。


「本日は、こちらの方が都合がいいのです」


「君に剣を抜くつもりがなくても、こちらは何も遠慮はしない」


「それで結構です」


 そう答えると、マリは鞘に納めたままの剣を構えた。

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