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誇り

「フレデリカさん、皆さんを前にはしゃぎすぎです」


 そう言うと、カミラお母様は周囲へ視線を向けた。そこにはドレスや黒の正装に身を包んだ人々が立っている。


「分をわきまえなさい」


「は、はい」


 慌てて膝を折って謝ろうとした私の前へ誰かが割り込んだ。


「カミラ様、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。イサベル・コーンウェルです。本日は私の茶会へご足労いただきまして、大変ありがとうございます」


 そう言うと、カミラお母様に深くお辞儀をして見せる。


「カミラ・カスティオールです。フレデリカがご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「本日は制服での参加を含め、私の方から、日々学園ですごしているのと同様に参加して頂くよう、皆様にお願いさせていただきました。どうがご容赦のほどをよろしくお願いいたします」


 カミラお母様は、私の方へちらりと視線を向けたが、すぐにイサベルさんへ視線を戻した。


「イサベルさんのご意向については承知しました。ですがフレデリカの振る舞いについては、私からお詫びさせていただきます」


「カミラ様、とんでもございません。フレデリカさんには私の方が大変お世話になっております。ぜひ、祖父の方からも、お礼を言いたいと思いますので、ご足労頂いてもよろしいでしょうか?」


「コーンウェル侯がですか?」


「はい。ぜひともお願いいたします」


 それを聞いたカミラお母さまの顔が輝く。


「ぜひご挨拶させていただきます。アンジェリカ、あなたも一緒にいらっしゃい」


 そう言うと、カミラお母様は、アンと一緒にイサベルさんの後に続いて、コーンウェル侯の方へ歩いていく。


「大人だな」


 私の左手からイアン王子の声が聞こえた。その視線の先では、コーンウェル侯の周りにいた貴族たちに囲まれるイザベルさんの姿がある。私がイサベルさんの盾になるつもりだったのに、むしろイサベルさんを盾にしてしまった。


「あなたの妹も大変ね」


 今度は私の右手から声が上がった。メラミーさんだ。


「ローナ、あなたもここを出たら、あの子と同じ様に、どこかの男の見世物にされるのかしら?」


「メラミー!」


 私はメラミーさんの言葉に、頭を殴られた思いがした。ローナさんがメラミーさんに何かを訴えていたが、その言葉すら耳に入ってこない。私の視線の先では、カミラお母様に紹介されて、居並ぶ大人たちへ頭を下げ続けるアンジェリカの姿がある。


 私は一体何をしていたのだろう。メラミーさんの言うとおりだ。自分のことだけを考え、アンジェリカを見世物にしてしまった。


「違います」


 誰かの声が聞こえた。振り返ると、オリヴィアさんが私の肩へそっと手を置いてくれる。


「フレアさん、違いますよ。アンジェリカさんはフレデリカさんのことを誇りに思うと思います。私なら絶対にあこがれます」


「オリヴィアさん……」


 オリヴィアさんはにっこりとほほ笑むと、コーンウェル侯の方へと歩いていく。そして居並ぶ大人たちを押しのけると、アンの前へと進み出た。


「アンジェリカさん。私はフレデリカのお友達になれたことを、フレデリカさんから、『頑張り屋さん』と言ってもらえたことを、とても誇りにしています」


「頑張り屋さんですか?」


 アンジェリカが驚いた顔をしてオリヴィアさんを見る。カミラお母様をはじめ、周りにいる貴族たちも同じような顔をしてオリヴィアさん見つめた。オリヴィアさんはその全てを無視すると、アンの手をしっかりと握る。


「叔父が言ったように、ほんの少し前まで、私はベッドの上で寝たきりでした。こうして自分の足で歩くことすら、もう無理だとあきらめていました。少し病がよくなり、この学園に入学できた時も、車いすの上にいて、自分で動くこともままなりませんでした。でも今はこうして自分の足で歩くことが出来ています」


「大変なご努力だったと思います」


 アンの言葉に、オリヴィアさんが首を横に振って見せる。


「私の努力ではありません。助けてもらったのです。その時の私は自分の足で歩ける人を、この学園にいる全ての人をひがんでいました。そして誰も私のことなど分かってくれないとも思っていました」


 オリヴィアさんは、何かを問いかけるようにアンの顔をじっと見つめる。


「でもあなたのお姉さん、フレデリカさんが私のお友達になってくれました。そして私に言ってくれたんです。自分の妹のアンジェリカと同じで、頑張り屋さんですねって」


「わ、私ですか?」


「はい。生まれて初めて誰かに褒められた気がしました。それに、こうも言ってくれたんです。お互いに迷惑をかけるのが許されるからお友達なんですって。私は学園にきて、フレデリカさんやイサベルさんをはじめ、多くのお友達ができました。たくさんの迷惑をかけましたけど、その人たちに助けられて、今こうして自分の足で歩いています」


 イサベルさんもアンの前へ進み出ると、二人に頷いて見せる。


「私も同じです。フレデリカさんに、皆さんに支えられてここにいます。でも正直に言わせていただければ、アンジェリカさんみたいな妹がいる、フレデリカさんがとってもうらやましいです」


「はい。イサベルさんのおっしゃる通りです!」


 パチパチパチパチ!


 どこかから拍手が響いてきた。振り返ると、ウォーレス侯が白い手袋をはめた手を盛んに打ち鳴らしている。


「素晴らしい!」


 ウォーレス侯はそう告げると、コーンウェル侯の方へと颯爽と歩いていく。


「このような若者たちが、我が国の未来を背負ってくれると思うと、とても心強いと思いませんか?」


「ウォーリス侯、互いに身内のことではありますが、心強いという点については異存はありませんな」


 二人の言葉を聞いた人々が、コーンウェル侯やウォーリス侯へ追随の言葉を述べていく。だけどカミラお母様だけは違った。何か忌々しいものを見る目つきで、じっと私の顔をにらみつけていた。

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