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妄想

「フレデリカさん、大丈夫ですか?」


 教室にたどり着くなり、私の顔を見たイサベルさんが声を掛けてきた。頑張って早起きと言うか、徹夜明けでそのまま来たので、まだ教室に人はほとんどいない。


「はい。大丈夫です」


 最近はこれしか言っていない気もします。いや、もともとそうだった気もします。


「とても顔色が悪いみたいですけど、まだ休まれていた方が良くはありませんか?」


 オリヴィアさんも、心配そうな顔をして聞いてきた。まあ、3日近く気を失っていた後に、いきなり徹夜の補講ですからね。平気な訳はありません。でもですね……。


「休むと命に関わります」


 休んで宿舎にいる方が、ロゼッタさんから補講を受ける時間が長くなってしまいます。這ってでも教室に行かないといけません。


「そうなんですか?」


 私の答えを聞いたオリヴィアさんが不思議そうな顔をする。怒鳴られる事もなく、淡々と補講を続けられるのが、これほど精神にこたえるとは思いませんでした。むしろ正座して説教を受け続けた方が、精神的には楽だったかもしれません。


 魔法職の術で、勉強をしているフリの姿とかをでっち上げられないものなんですかね? そんな術が使えるようになるのなら、よろこんで魔法職になります。


「フレデリカさんって、魔法職になりたいのですか?」


「はあ?」


 イサベルさんとオリヴィアさんが、驚いた顔をして私を見ている。いけません! 心の声がだだ漏れです。でもセシリー王妃様にエミリアさんも魔法職ですから、私が魔法職になってもおかしくはないですよね?


「そうですね。おかしくはないですね。私のおじい様も魔法職ですし……」


 いけません! またも心の声が漏れています。


「えっ、イサベルさんのおじい様って、コーンウェル候ですよね?」


 それにロゼッタさんも魔法職です。そうか、私が魔法職なんかになったとしても、補講をさぼる手段なんてありませんでしたね。なにせ相手はあのロゼッタさんでした。


「でもフレデリカさんのお父様も、魔法職ではないのですか?」


「そうでした」


 ほとんど顔を合わせていないので、思いっきり忘れていました。お父様、薄情な娘で申し訳ありません。


「そう言えば、私の叔父上も魔法職だったと思います。侯爵家って魔法職が多いんですかね。でも不思議ですね。自分で魔法職になる必要はなさそうな気もしますけど」


 確かにオリヴィアさんの言う通りです。


「フレアさんにイサベルさんも、魔法職になるための訓練を受けられているのですか?」


「いえ、特に何も受けてはいません」


 イサベルさんが首を横に振る。


「はい。私もです」


 ロゼッタさんみたいにとっても頭がいい人でないと、とても務まらない職業の様な気がします。そのロゼッタさんですら、術の行使は危険なことだと言っているのです。


「でもイサベルさんが魔法職になったら、とっても素敵だと思いますよ」


 私はイサベルさんが杖を振るう姿を想像した。セシリー王妃様やエミリアさんがとってもかっこよかったので、ちょっと憧れます。この件を秘密にしないといけないのが本当に残念です。


「あ、フレデリカさんもそう思いました?」


「はい。絶対にそう思います!」


 思わずオリヴィアさんと、手を取り合って盛り上がる。当のイサベルさんは、そんな私達を見て苦笑いをして見せた。


「でも、私たちの周りには魔法職の方が一杯ですよね。魔法職の方って、こんなにも沢山いるものなんですか?」


 その辺りにいるような人達じゃないですよね?


「さあ、王宮魔法庁にはそれなりに人がいるみたいですので、とっても少ないわけではないと思います。でも沢山いらっしゃるとはとても思えません」


 イサベルさんの答えに私も頷いた。あんな力がある人達がそこら辺にゴロゴロ居たりしたら、危険すぎです。


「そうですね。ロゼッタさんも魔法職ですし……」


「えっ、ロゼッタ先生って魔法職なんですか?」


 オリヴィアさんが驚いた顔をする。


「あ、はい」


 あれ、そんなに驚くことですかね? 前にもイサベルさんに聞かれて答えたような気がしますが?


「あの年齢で学園の教授になれて、しかも魔法職だなんて、やっぱり素敵な方です」


 オリヴィアさんがうっとりとした顔をする。そう純粋に憧れることが出来るのは、ロゼッタさんの真の恐ろしさをまだ知らないからですよ。でも何でそんなにすごい人が、私の家庭教師なんてやっているのかについては私も不思議です。


「私の護衛役のトカスさんも魔法職ですから、イサベルさんのお茶会では、お二人で話が盛り上がるかもしれませんね」


「そうなんですか?」


 見かけはちょっと渋いおじさんですが、実は魔法職だったんですか? それにヘルベルト(お調子男)さんも魔法職でしたし、やっぱり私の周りには魔法職が多すぎです。それに魔法職になったイサベルさんという設定は色々とおかずに出来そう。ですが今はもっと大事な用件がありました。


「それはそうと、実はお二人に相談したい事があるんです」


 私の問いかけに、イサベルさんとオリヴィアさんが疑わしそうな、何かを恐れるような目で私を見る。もしかして、またやらかすとか思っていませんか?


「なんでしょうか?」


「実は昨日ハッセ先生から、新人戦の世話役を仰せつかりました」


「新人戦って、あのフレアさんがエルヴィンさんと試合をした新人戦ですか?」


 そ、その通りですが、その時のことは記憶の奥底に沈めておきたい案件なので、あまりつつかないでいただけると助かります。


「どうもそれを再開するらしいんです。私だけではとても無理なので、お二人にも手伝っていただきたいのです」


「お世話って、何をすればいいのでしょうか?」


 そう答えたオリヴィアさんが首をひねって見せた。


「さあ、私もよく分かっていないのですが、きっと選手の紹介とか、勝敗票の記録の管理とかだと思います」


「それでしたら、運動祭の時にやったのとさほど違いはないので、お手伝いはできるかと思います」


 イサベルさんはそう言うと私の手を握ってくれた。やっぱりイサベルさんは頼りになります。まさに心の友です!


「それにフレアさんも出場されますから、是非に近くで応援させていただきます!」


 ちょ、ちょっと待ってください!


「そうですね。心から応援させていただきます!」


 オリヴィアさんも真剣なまなざしで私を見つめる。


「あの、試合については、棄権する気で満々なのですが……」


 私の台詞を聞いた二人が不思議そうな顔をした。なんで私が男子生徒相手に、木刀を振り回さないといけないんです?


「そんなことよりエルヴィンさんの応援とか、もっと他にやることがありますよね?」


 そうです。前回の南区ではあれだけ体を張ったにも関わらず、何の進展もなしです。今度の新人戦こそ、是非に彼を応援して距離を縮めてください。そもそもイサベルさんやオリヴィアさんに応援してもらったら、世の男子生徒たちは死に物狂いで戦う事、間違いなしです!


「でも、エルヴィンさんはすでにフレアさんに負けていますので、試合はもうないのではないでしょうか?」


 私の問いかけに、オリヴィアさんが首をひねって見せた。


「えっ、あれで終わりなんですか? 敗者復活とかはないんですか?」


 ほら、漫才のやつでもあるじゃないですか? あれ、漫才ってなんだろう? やっぱり私には色々と変なものが混じっているらしい。


「トーナメントですから、一度負けるとそれでお終いなんだと思います」


 イサベルさんもオリヴィアさんに頷く。


「なんか方法はないですかね?」


「方法ですか? 試合の形式を変えない限り、それは難しいのではないでしょうか? 流石に試合の形式を変えてしまうのはまずいですし……」


 試合の形式を変える? それです!


「ハッセ先生は運動祭と同じ様に、学生らしい斬新な考えで運営して欲しいと言っていました。つまり、私達で変えてもいいと言っているのだと思います」


 変えてしまえば、エルヴィンさんの復活だってなんだってありです。それに私の試合もなくせます。


「でも、他にどのような方法がありますでしょうか?」


「団体戦です!」


「団体戦ですか?」


「そうです。組を作ってその全員で戦って、勝ちの多い方、あるいは勝ち抜きで勝敗を決めるのです。それならエルヴィンさんも参加できます」


 オリヴィアさんの応援を受けて、全力で戦うエルヴィンさんと言う、本来あるべき姿を堪能させていただくのです。それにあの嫌み男も参加すると言っていましたから、イサベルさんの応援の仕方で、二人の関係が分かるというものです。


『そうだ!』


 各組に監督を置いて、学園祭の時みたいにイサベルさんやオリヴィアさんにやってもらえば、より確実に盛り上がること間違いありません。


「男どもはみんな、己の女神の為に戦うのです!」


 気が付くと、腕を振り上げてそう宣言した私を、イサベルさんとオリヴィアさんが呆気にとられた顔で見ていた。

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