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イケメン!

 私の背後で何か声が聞こえた様な気がしたが、それを無視してスタート地点まで駆け戻った。こちらはお前と違って忙しいのだ。邪魔をしないでほしい。そこではなぜかイサベルさんが揉み手で私を待っていた。


「フレデリカさん!」


「はい」


「見ましたよ。もう抱き合って走るなんて凄すぎです。来年の借り物競争が禁止になったら絶対にフレデリカさんのせいです」


「はあ?」


 エルヴィンさんに抱きかかえられて、実際は走っていないオリヴィアさんの方が明らかに一枚上手だと思うのですが?


「見てください。皆さんもキャーキャー言って大変でしたよ」


 恐る恐る振り返ると、そこでは女子生徒達が私の方を指差しながら口々に何かをしゃべっている。あのですね、先ほど相当に険悪なやりとりをしていたのを皆さんは全く見ていなかったのでしょうか? 見ていなかったんですね。


「では私の番なので後はよろしくお願いします」


 そう言うと、イサベルさんがスタート地点へと移動する。もう何だかな。でもいいです。最後の借り物は完全に私の趣味でいかせていただきました。全て同じです。これでイサベルさんの男性の好みが分かるはずです。


「位置について、よーい、はじめ!」


 イサベルさんはじめ、最後の走者が一斉に駆け出す。明らかにイサベルさんは格が違います。他の二人を一気に引き離して、借り物の指示の紙が置いてある台へと突き進んで行く。その一枚を取り出すと素早くそれを開いた。そして怪訝そうな顔をする。


「ふふふふ」


 思わず口から笑みがこぼれてしまいます。


「イケメン!?」


 イサベルさんの口から悲鳴のような声が漏れる。そして私の方を振り返った。思わずにっこりです。


「はい。顔がかっこいい殿方です!」


 あっけに取られているイサベルさんの横で、追いついた他の生徒も次々と借り物の指示の紙を開けた。


「えっ、イケメン?」「こっちもイケメン!」


 三人が慌てて辺りを見渡している。ふふふ。皆さん自分がイケメンだと思う人なら誰でもいいですよ。ぜひ日頃の思いの丈をここでぶつけてください。誰を連れてきても代表者権限でイケメンに認定させていただきます。文句は言わせません!


 イサベルさんが何かに目を止めると素早く動き出した。その移動する先には白組男子の席がある。


『なるほど』


 そこには銀色の髪を持つまさに美少年としか言えない人物が座っている。白組代表の男子生徒のヘクターさんだ。流石はイサベルさんです。彼なら誰も文句はつけないと思います。


 この美男美女の組み合わせが走るというのも絵になりますね。色々な人のおかずになりそうです。他の二人はというとおろおろとまだ辺りを見回している。少しかわいそうな事をしただろうか?


「えっ!?」


 だがイサベルさんの方へ視線を戻したところで、私の口から思わず声が漏れた。イサベルさんは明らかに自分の出番だと思って立ち上がったヘクターさんの横をあっさりと通り過ぎると、白組男子生徒の席の背後へと飛び込んでいく。


 ヘクターさんを含めて皆がそれを呆気に取られて見ていた。そちらには来賓の天幕が置かれている。まさかですが、そこにいるおっさんの誰かを引っ張ってくる気ですか!?


 他の二人はそれを見て、そこに誰が見ても間違いなくイケメンと呼べる生徒がいることに気がついたらしい。二人でヘクターさんのところに突進していくと、それぞれにヘクターさんの片腕を掴んで、自分が先だと言い張り合いを始めた。


 あのですね、誰を連れてきてもイケメン認定させていただくつもりなので、その横にいる誰かを連れてきた方が早くないですか? そんなことより、イサベルさんはどうしたんだろう。一向に戻ってくる気配がない。


「私には仕事が!」


「運動祭の運営の補助が優先のはずです!」


 白組男子の席の背後からイサベルさんと男性のものらしい声が響いてきた。その声は間違いなく大人の男性の声だ。もしかして、本当に来賓席のおっさんを引っ張ってきた!?


 声に続いて男子生徒の席の間から、イサベルさんと、イサベルさんが手を引っ張っている男性の姿が見えた。


「えっ、ええぇええええぇえええ!」


 思わず奇声を発してしまう。イサベルさんが腕を引っ張っている先にいる男性は……


「アルベールさん、急いでください!」


 いや、確かに間違いなくイケメンです。それについては完全に同意します。ですがあまりに渋くないですか!?アルベールさんはイサベルさんの掛け声に諦めたのか、素早く身につけた単外套を脱ぎ捨てると、イサベルさんの手を握り直して運動場を走り始めた。


 その姿はその辺の男子生徒達とは比較にならないぐらいに優雅だ。それに背後を走るイサベルさんの方を気遣いながら走っている。やはり大人です!


 それに何ですか!背後を走っているイサベルさんの走り方がお嬢様走りになっています。ヘクターさんの腕を引っ張りあっていた二人も呆気に取られてその姿を見ている。確かに美男、美女です。ですが……これは絶対に何か見てはいけないものを見ているような気がします。


「一着、白組。借り物は『イケメン!』確認しました」


 ゴールの方からオリヴィアさんの声が響いてきた。その先にいるイサベルさんの顔は今まで見たことがないくらい嬉しそうで、そして赤く高揚している。ちょっと待って下さい。だって、年があまりに違い過ぎますよね……


 まさか、まさかですよね、イサベルさん!?

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