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探偵の助手をしていたぼくが地獄の獄卒になった理由 三章

作者: 駒城亜樹
掲載日:2021/05/22

第3章 真実


それから三日後


ぼくはついに来てしまった


そう[富士山]に。



三日前「富士山です」と菊さんに告げられ、茫然自失のぼくに彼女は


「寒いでしょうから、防寒服や食料や装備は手配してホテルに送ります。大丈夫ですよ?大寒地獄より数万倍は優しい寒さですから。」と彼女は微笑んでいた。


いやいやいや!問題そこじゃないし!

問題はなぜ富士山に行くか?だ。

どうも富士山に満月の晩だけ咲く花[雪勿忘草]ユキワスレナグサがあるらしい。

しかも寒さでも枯れず、咲いた姿は誰もが魅力にハマり、その花の蜜には[記憶を忘れさせる作用がある]とか?


数年前

とある学者が世間で発表したが、信憑性がなく闇に葬られたとある。


なにはともあれ、グチグチ行っても仕方ない。行けば調査も終わるし。また獄卒ライフが楽しめて、閻魔さまからご褒美もくれる!....はず!!


ぼくは意を決して出発した。

富士山、初日は晴れて気候も安定してる。順調に滑り出せたぼくは、山小屋に着いた。



中は木の温もりで温かい。

一息着いてると、ある話が耳に入ってきた。


「その花は本当にあるんだな?」


「ああ。間違いない。売ればかなりの値になる。まだ、誰も富士山にあると情報は掴めてない。今なら我々が一番乗りだ。」


「そうか。それが手に入れば、記憶を消せて、俺はまた戻れるな。」


値がつく?

何て話をしてるんだ。


ソッと様子を探る。

男が二人。一人はどう見ても登山者には似付かない男。帽子を目深に被り辺りになぜか警戒を払ってる。


もう一人はいかにもベテラン登山者らしいが、どちらかと言えば強盗犯みたいな顔付きだ。


と帽子の男が帽子を脱いだ。

警戒を解いたようだ。


が!ぼくが今度は驚いた。

あの頬の傷!

夢の中の男に面影がハマったのだ。

ぼくの心拍は異常に上がってきた。間違いない!


ぼくはあの男を「知っている。」記憶に残ってないはずなのに、完全になくなってるはずなのに。


何故!何故!!!何故!!!!!!

頭がくらくらしてきた。

慌てて小屋を出る。


小屋から離れ

通信の鏡を出す。

「菊さん、菊さん!」ぼくは震えながらも彼女に繋ぐ。


「禅斗さん?どうしました?顔が真っ青ですよ。何があったんですか?」


「..って...しまったんです」


「え?」


ぼくは絞り出すように彼女に告げた

「会って....しまったんです。夢の中で見た、あの男に。記憶はないはずなのに。どうしてですか?」


「禅斗さん?夢と言うのは?落ち着いて、ゆっくり話していただけますか?」

温かみのある彼女の声に、ぼくは少しずつ数日前の名前のくだりと夢の話を伝えた。



「そうでしたか。やはり」

ひと通り聞いてから彼女は言った。


「???」ぼくはこんな感じだ。


「今まで人間の、元亡者の方にも下界の調査は任せたことはありました。しかし、大体の獄卒の方は戻りませんでした。」


「何故です?」


ひと息吐くと彼女は続けた

「記憶玉を使うと現世での記憶はなくなり、獄卒として新たに記憶は作られますが、やはり自殺した元亡者の性質なのか、下界に下りると自殺した記憶に引きずられ、他の記憶も戻る方もいたのです。」


「え?でも生前の記憶は記憶玉の中に全て移ってますよね?」


「はい。だからそこが謎なんです。どうして全ての記憶がもどるのか?」

「あの。記憶が戻った獄卒のその後は?」

「はい。調査した結果。ひっそりと村を作り暮らしてるそうです。何とか戻るように説得したのですが、やはり元人間。悪さはしないからそっとしてほしいと。」


「そうだったんだ。でもぼくに何故調査を?下手したら記憶はもどるかもしれないのに?」


「ええ。だから元人間で亡者の方に調査をお願いするのは、これで最後にしようと閻魔さまが。貴方が記憶玉に執着してるのは、既にお見通しでしたから。」


ば、ばれていたか。

ぼくは冷や汗タラタラだ。

「それで、先程の夢の話とその男はどんな繋がりが?」


「いや、それは、、、」

彼女が言いよどんだ。


すると空間が歪む、時が止まったようだ。

「菊。良い。ワシから話そう」閻魔が直々に現れた。


「禅斗。今から話すのはお前の知りたい過去の話だ。通信だと誰が聞いてるかわからんからな」

閻魔が岩に腰かけた。


ぼくも適当に座る。

緊張感が走る。自分の事なのに聞きたいような、聞きたくないような。


閻魔は優しく頷き、ゆっくりと息を吐き出すと。語りだした。

「まず、お前の名前だが生前は瀬戸修二と名乗っていた。」


「じゃあ、あの名前は仮ではなく本名?」


「そうだ。どうせなら長年親しんだ名前が使いやすいだろうと。漢字がスラスラと出たのもそれだろう。」


なるほど。だからなんだ、違和感を感じながらも、どこか懐かしかったのは。


「お前は生前、[探偵の助手]をしていた。ある男の元で探偵のノウハウを学び、いつか師匠を越えるべき探偵になるために。だが」


閻魔は言葉を切る。

言いたくないのか、言ってしまうべきか。迷ってるようだ。

それはそうだ、この先からはぼくが何故自殺したのかが明確にわかるからだ。


「続けても構わぬか?お前の生前の記憶だぞ。辛くないか?」


ぼくは一瞬迷う。

聞いたら10年間のモヤモヤがなくなると同時に、もしかしたら憎しみが出るかもしれないからだ。


しかし、記憶玉を完成させればそれも消せる。なら聞いてからでも遅くないはず。


ぼくは意を決して顔を上げる

「構いません!どちらにしろ記憶が戻るのも時間の問題だったと思います。ぼくは他の獄卒と違うのを貴方に示したい。」


「それは他のものとは違い、必ず地獄に戻ってくると言うことか?」


ぼくは躊躇った。即答したかったが出来なかった。



そんな様子のぼくを尻目に閻魔は話し出した。


[ぼくの顛末]を。


10年前


ぼく[瀬戸修二]は親がいなかった。2人とも事故でなくなり、ぼくは優しい祖父母に育てられた。

両親は生前、ぼくに不自由がないようにと貯金をし、そのお陰で祖父母に引き取られてからも、大学進学までさせてもらえた。


そんなある日。

近所で空き巣が相次いで発生し、祖父母の自宅も被害にあった。ぼくの貯金は銀行にあり、通帳もぼくが持ち歩いていたため無事だったが、祖父母の下ろした年金が持ち去られた。


悲しむ祖父母を見て、ぼくは決心した。必ず空き巣を捕まえると。

ぼくは昔から観察が趣味だった。その趣味を生かして、ぼくは見事空き巣の逮捕に貢献。警察に表彰された。


この時、ぼくは[探偵]になろう、探偵になれば祖父母のような悲しんでる人をまだまだ救えると決意。


なるにはノウハウを学び、力を付けないと。

ぼくは情報サイトを調べ、とある探偵事務所を尋ねた。


それが山小屋で再会した男

[黒瀬洋一郎]の探偵事務所だった。初めは黒瀬→師匠も助手を取るのを嫌がったが、ぼくのあまりの熱意に折れたのか、助手にしてくれて様々な現場に同行させてもらった。


師匠は探偵として最高な人だった。悪しき者には証拠を徹底的に突き付け落とし、被害にあった方には、しっかり寄り添う。

ぼくも師匠のような探偵になろうと熱心に助手業に勤しんでいた。


しかし

師匠には[裏の顔]があった。

麻薬の密売組織と手を組み

その資金の一部を探偵事務所に使っていたのだ。


ぼくは知らなかった。

ぼくがたまに郵送を頼まれていた書類は密売組織に送っていた、麻薬のルートや警察からのガサ入れ時期が書かれた物だと。


知らないうちに片棒を担いでいたことを。


「黒瀬さん、何故です?何故、こんなことを?」

ある夜、ぼくは師匠に問いただした。

黒瀬は顔色を変えず淡々と語る。


探偵を続けるには情報や資金が必要になる。報酬をもってしても賄えない。


「修二くん、仕方ないんだ。これも生きていくためだよ」


「ぼくはこれ以上、貴方には付いていけない。自首してください。ぼくも行きますから。」


「無理だよ。これからもっと大きな組織と繋がれるんだ。きみには悪いが、私は捕まるわけにはいかない!」


師匠は早足で闇の中に去っていく。ぼくは慌てて追ったが、事務所は既に藻抜けのから、ぼくはあわや警察に密売組織の末端として捕まるところだった。


ぼくはビルの屋上にいた

逃げるにしても逃げきれる自信はない。

祖父母に迷惑はかけられない。


膝から崩れ落ちる。涙が自然と流れていた。「どうして?......どうしてですか?し、師匠」


ひとしきり泣いたあと、ぼくは屋上の手すりを乗り越えていた。

「ぼくに帰る場所はない。」

スマホに祖父母への遺書を残す。


[ぼくを育ててくれて感謝してます。ぼくは無実です。信じてください。修二]


夜風が頬を撫でる。これから死ぬのに穏やかだ。

眼下の光を抱き締めるように

ぼくは......飛んだ。


これが[ぼくの顛末]


何て惨めだ。

信じていた者に利用され

育ててくれた祖父母を裏切ってしまった。


閻魔は続けた

「お前は地獄に来るなり、ワシに頭を下げてきた。獄卒にしてほしいと。ワシは迷った。生前のお前の罪は地獄で判断したところ、そんなに重くない。」


「では、何故ぼくは獄卒に?」


「お前は言った。[あの男が地獄に来ることを直々に迎えてやりたい。ぼくが自ら拷問にかけて、苦しめたい]とな」


閻魔は続けた。

「恥ずかしいが獄卒不足で困っていたこともあり、またお前の祖父母を裏切ってしまった悔しさも悲しさも胸を打った。だから、特例で獄卒にした。」


「そうだった。思い出しました。どうせ生きるにしても、なんにしても、地獄に行くだろうから、ぼくが犯した罪と黒瀬を逃がした罪は自らケリを付けたいと」


「お前は意思が強いから、獄卒にも向いている。」

閻魔はうんうんと頷く。

「さて、禅斗」修二もとい禅斗になったぼくに閻魔は問う。


「お前が聞きたいことは話した。これからどうする?目的の花はあやつも狙っているようだし。」


ニヤリとぼくは笑った。

すべてをしったからこその開き直りと言うのか、迷い無く答える。


「ぼくは黒瀬より先に、花を取りに行きます!今度はあいつが絶望する番です!」


閻魔は立ち上がると山のてっぺんを指差す。

雪が降りしきるなか、光る何かが見える。


「あの光りこそ、ワシと菊が探していた[雪勿忘草]ユキワスレナグサじゃ。」


「ありがとうございます!」

ぼくは走った。足元は岩と雪だらけ。降りしきる雪も体感をどんどん下げていく。


寒い!でも負けない!

あんな男の手に渡すもんか!

しばらく走るとてっぺんに付いていた。

雪の中を感じさせないように

その花は咲いていた。


「これが、雪勿忘草」

ぼくはそっと摘み。用意していた袋に入れた。


と!

「悪いがその花を置いていけ。」

いつの間に黒瀬がいた。


「断る!」ぼくはキッと睨み付ける。

10年も経つと悪人は悪人面になると言うが、この男も例に漏れずに悪人らしい顔付きになっていた。


こんな男を師と仰ぎ、探偵を目指していたとは。

喉の奥から笑いが込み上げる。


「何が可笑しい?」黒瀬が怪訝そうに聞く。

「忘れたんですか?師匠」

ぼくはしていたマスクを外す。


「お久しぶりですね~師匠、いや黒.瀬.さん!」にやりと笑って見せる。


と、黒瀬の目が見開かれる。

それもそうだ、死んだはずのかわいい助手が目の前にいるのだから。


「お、お、おまえは!修二?そんなバカな!?お前は、お前は」


「えーそうですよ?麻薬組織の末端として捕まる寸前に自殺しましたよ」ニヤニヤと迫る


「でもね~生まれ変わったんですよ」ぼくは被っていた帽子を取る


角が露になると黒瀬は腰を抜かす

「あんたを地獄に案内するためにな!」


「く、来るな!止めろ!化け物!お前のせいで俺は警察に追われてるんだ!」

ぼくのせい?何のことだかわからない。


意味がわからなく、わめきながら黒瀬が雪のなか必死に逃げていく。


「失礼だな~。獄卒ですよ~。地獄であんたみたいな悪者を拷問にかけてるんですよ~。一緒行きましょうよ~師匠ぉ~」


わあわあと連れの男と逃げていく黒瀬。

と、2人が視界から消え、

ガラガラと岩が崩れる音がした。


どうやら崖から落ちたようだ。

「待ってますよ。黒瀬さん。」

ぼくは呟く。


鏡を取り出す「菊さん、禅斗です。任務は完了しました。花は取れました。」


「良かったです。お疲れさまでした。花は後で鴉に取りに行かせますから、渡して下さい。」

菊さんはホッとしていた。


「それから、禅斗さんに閻魔から言伝コトヅテです」

コホンと咳をすると

「あんまり地獄に亡者を増やさないでほしいと。それから」


ぼくは2つ目の言伝に胸が踊った。





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