まさかの襲来・サカキ高校
Side 藤崎 シノブ
不良との追いかけっこは学校中で有名になっていた。
ネットやテレビでもニュースになっているらしい。
そりゃ人間担いであんだけ校内や外で走り回ってたもんな。
特に運動部の部員は目を丸くしたらしい。
だけど大騒ぎになったので学校は緊急休校することになった。
ちなみに親からは苦言を呈されたが人を担いでマラソンしてへっちゃらだったのを知っているのか「そんなに体力あったのか?」と不思議そうな顔された。
☆
休校開け。
教師達からは谷村さんと一緒に軽く注意されたが、同時に「運動部、特に陸上部に今からでも入らないか? 君達なら即戦力だ」と勧誘されて「考えておきます」と返しておいた。
谷村さんの周りももっと賑わっており、谷村さんは「いや~人間やれば出来るもんだね。藤沢君とか凄かったよ」とか白々しい嘘を言っていた。
小河原君とも仲良くなって連絡先を交換した。
不良達は停学処分になった上に学校に来たくても来れない状態になっているらしい。
あんなコントみたいな負け方したせいでネットでも話題になったせいで特定班に身元を晒されているようだ。
普通に自分が暴力で片付けた方が穏便済んだんじゃないかと思う。
ちなみに谷村さんは報復を警戒しているらしく見張りのためのマジックアイテムを既に不良達の近辺に展開しているようだ。
谷村さん曰く「バカはやる」らしい。
自分もそう思う。
「そう言えば君は部活には入らないのかい?」
ふと教室で谷村さんに質問される。
クラスの目も興味津々だ。
「えーと、入っていいんでしょうか?」
異世界帰りの自分の身体能力はとんでもないレベルだ。
オリンピックで世界新記録連発してしまうだろう。
「運動部がダメなら文化部とかはどうだい? ともかく学生生活は"本来"一生に一度きりだ。後悔のしないように生きればいいのさ」
「はあ・・・・・・」
そんな谷村さんは確かアニメ研究部だか漫画研究部とかだった筈だ。
もしくはそう言う部活を幾つか兼任している。
自分を偽らず、趣味に全振りしている生き方で清々しく思えた。
☆
(教室でああは言ったけど、どうしようかな・・・・・・)
運動系の部活はどうしても注目されるのでパスだ。
だからと言って文化部もどうしようかと思う。
(我ながら寂しい学校生活を送っていたもんだ)
召喚前からしてこんな感じだ。
どうしたもんかと思っていると――
「ああ、ここにいた!!」
「なんだ智也か」
小河原 智也がゼイゼイと息を切らしてその場で両手を自分の膝におき、体を折り曲げてゼイゼイと深呼吸した。
よほど異常なできごとだったんだ。
「逃げて!! あいつらの仲間が――」
「あいつらって停学してる筈じゃ――」
「あいつらが素直に言う事聞く連中だと思う!? しかも他校の――サカキ高校の連中まで来てる」
「サカキ高校!?」
それを聞いて思わず耳を疑うが成る程と思った。
サカキ高校とはようするに不良高校で裏社会の専門学校とか言われ、警察や並大抵の半グレ、暴力団でも手を出さないらしい。
大阪府の中で1、2を争うタチが悪い不良校でサカキ高校周辺で起きた少年犯罪は必ずサカキ高校だと言われている。
恐らく昨日絡んできた不良連中、サカキ高校に伝手でもあって声でもかけたのだろう。
「ともかく逃げて!! 亮太郎君にも!!」
「警察は?」
「警察を呼んでどうにかなるような連中じゃないよ!? あいつら教師に警察を呼んだら生徒を襲うって大声で脅迫してる!!」
「やってることが暴力団だな――」
発想がまんま893だ。
少年法を盾にしてやりたい放題な感じなのだろうと思った。
「つか逃げたらやばいことになりそうだな」
「でも――今回ばっかりは――追いかけっこするのとはワケが違うんだよ?」
「大丈夫だ。ちと痛い目みてもらうだけだ」
「そんなアナタに解決法を提供しよう」
唐突に谷村さんが現れて、智也君はギョッとなる。
普通の人間からすれば突然現れたようにしか見えないもんな。
「僕も名指しで呼ばれてるからね。手早く片付けよう」
ああ、色々な意味で終わったな不良達。
またどんなコメディショーになるのやら。
☆
Side 琴乃学園 不良・梶原
俺は先日の屈辱――突然はじまったマラソン大会の末に警察にパクられて大恥を掻かされたことを思い出す。
怒りは収まらず俺は中学時代の伝手を使ってサカキ高校に入学した伍田達を呼び出した。
気に入らなければ直ぐに手を出し、競うように女にも手を出し、イジメで自殺に追い込んだのを自慢にしているワルの中のワルだ。
強面でガタイもしっかりしている。
背丈も2mぐらいあり、腕っ節ならまず負けず、あの悪名高いサカキ高校で既に頭角を現しているらしい。
「それでまだ来んのか? お前に恥を掻かせたんは?」
と、イライラした様子で伍田はタバコを吸いながら言っていた。
周りでは野次馬で来た女をあれこれと物色し、駆けつけた警察の前にスマフォをちらつかせて因縁つけたりとやりたい放題に振る舞っている。
流石はサカキ高校だ。
そこらの不良とは格が違う。
「しゃあない。直接乗り込んだるわ」
そう言って遠巻きに眺めていた教師を押しのけてそのまま学園の中に入ろうとした。
「いや~遅くなってごめんね」
谷村が姿を現す。
その後ろには藤崎、小河原までいた。
「梶原? あいつらがお前に恥掻かせたって奴か?」
「ああ」
ちょうど小河原までいる。
こいつらにキッチリと恐怖を植え付けて二度と逆らえなくなる。
学園の誰にもだ。
「サカキ高校の人達だね? 他人の学校の問題に首を突っ込むのが君達のやり方かい?」
普通、伍田を観ればビビると思ったが臆することもなく言ってきた。
「こいつです。こいつが谷村、そっちが藤崎、そして小河原です」
「そうかそうか。こいつらぶん殴ればこの学園の女を斡旋してくれんやな梶原?」
「はい」
本当に女に目のない奴だと思う。
「うわ~普通に人身売買のやり取りしてるよ」
「ああ。救いようがねえな」
などと伍田の前で態度を崩さない。
伍田は躊躇なく拳を振り上げて藤崎をぶん殴った。
突然の出来事も俺も多少は驚いたが――
「どうだい? 藤崎君?」
「痛くも痒くもねえな」
などと谷村と藤崎は平然とやり取りをしていた。
「あが・・・・・・ああ・・・・・・」
一方で伍田はその場に崩れ落ちて殴った方の腕を抑えた。
手首は折れ曲がり、赤く腫れている。
シーンと静まりかえった。
「テメェ――なにしやがった!?」
伍田が立ち上がり、片方の手で殴ろうとするが同じ結果になってまたうずくまる。
何が起きてるんだ?
あいつ顔に鉄板でも仕込んでいるのか?
それから雪崩式に襲い掛かろうとしたその時。
謎のガスが発生して――それから――
ゴホッ!? ゲホッ!? ゲホッェ!?
☆
Side 藤崎 シノブ
また休校になった。
谷村さんが仕込んだカラシグレネードが炸裂して周囲は大惨事になった。(他にもコショウグレネードとかある。意外とモンスターにも効果がある)
その名の通り爆発すると周囲にカラシの成分が耳や鼻や目に付着して地獄のような苦しみを味わう代物だ。
谷村さんが異世界で使ってた奴の効き目を抑えた奴らしいが効果は抜群だったらしく、救急車が大量に来て不良達は病院に搬送された。警察達や野次馬、教師は密かに風系の守護魔法を掛けていたので被害はない。
僕達?
僕達は被害者だから直ぐに警察から解放された。
先日のこともあったしまた君達かと言われてカラシグレネードが不良どもが作った作品という事で処理された。
残骸も谷村さんがチャッカリ回収しているので状況証拠しか残らない。
谷村さんは勇者と言うより暗殺者型だ。あの人混みでも誰にも気づかれず物を回収するなど、あの人からすれば朝飯前だろう。
そうそう、智也君は俺達と一緒にサカキ高校の連中と一戦交えるつもりだったようだが唐突な展開にポカーンとなっていた。
まあそれが普通の反応だわな。
それにしても僕達、元の世界にに戻ってもトラブル続きでなんか魔王にでも呪われたのかな?
☆
後日、この件に決着つけるために僕と谷村さんでサカキ高校に乗り込むことになった。
どうしてこうなったかというと――
*次回に続く