異世界帰りの少女・安藤 マキ
Side 藤崎 シノブ
=琴乃学園=
そこである少女に屋上へ呼び出された。
名前は安藤 マキ。
漫画の地味な図書委員キャラみたいな女の子だったと思う。
だが今はすっかり垢抜けて長い茶髪の顔立ち整った美少女になっている。
「貴方も私と同じ――異世界から帰って来た住民なの?」
「えーと?」
直球だった。
そう言われた。
「魔力量とか凄いし――普通に魔法使ってるし。それに色々と凄い噂も聞いてるし」
黄昏てる感じで彼女はフェンス越しに外の風景を見る。
バレてる。
しかもかなり確信に近い状態でだ。
同じ身の上ならば魔力耐性値の関係で暗示どうこうで誤魔化すのは至難の技だろう。
正直言われるがままだった。
「そっちの異世界どうだった? 私と同じ異世界? それとも私とは違う異世界?」
「たぶん違う世界だと思う」
勘だかそんな気がした。
同郷の異世界転移者なら谷村さん経由で自分の耳にも入っているだろうと思ったからだ。
と言うか谷村さんどっかでこの会話を盗み聞きしているパターンかな。
「異世界センティアス、ディアーユ、マジックメイルと言う単語に心当たりは?」
「ないな。完全に別世界だ」
聞いた事もない単語だ。
否定する。
「そう――」
「しかし異世界って複数あるんだな」
「信じるんだ」
「信じるよ。君の魔力量も桁違いに高いし。雰囲気が常人のソレとは違うし」
「ところで盗み聞きしている人がいるけどアレは知り合い?」
どうやら谷村さんの存在に気付いているらしい。
分かっていたが異世界で漠然と過ごしていた訳ではないようだ。
「大丈夫だよ。私は戦うつもりはないから」
「そう言われたら姿を現さないとね。失礼しました」
と、谷村さんがスキルを解除して姿を現した。
傍目から見ると光学迷彩を解除したような感じになっている。
「やっぱり谷村さんも異世界に行った住民なの?」
「まあね。そろそろひょっこり異世界に顔を出してもいいかなとか考えている」
「そうなんだ。世界を救い終わった後だし、ちょっと冷却期間が過ぎてから私もまたヒョッコリ顔を出そうかなと思ってる」
(そう言えば皆、元気にしているかな)
こんな会話をしていると異世界が恋しくなる。
皆元気にしているといいのだが。
「しかしどうして異世界の帰還者である事を明かしたんだい?」
と、谷村さんが当然の疑問をぶつけてくる。
「それに隠し事して変にギクシャクしてすれ違って変な事になるよりかはいいかなと思って」
「あ~成程」
確かにそれはあり得る話だ。
彼女の言い分は一理あると思った。
「あと、この世界の事を楽しみたいから。これはそのための第一歩」
「世界を楽しむ?」
疑問形で僕は尋ねる。
「そう。今迄はずっと遠慮してたけどね――この世界の楽しい事を見つけて、何時か異世界の皆に紹介したい」
「そうか」
俺には安藤 マキさんの事がまぶしく見えた。
「異世界に戻ってからトラブル続きだったけど、俺も探してみようかな――この世界のいいところ」
と、俺は決意を新たにする。
「いいねそれ」
マキさんは笑みを向けてくれた。
「んじゃあ出会いを祝してどっかで食事でもする?」
谷村さんが提案した。
「うん、いこっか」
マキさんはすっかりご機嫌だった。
(この世界の楽しいところ、みつけていかないとな)
などと決意を新たに俺は二人と一緒に食事に向かう。
学生なので近所のファミレスとかでいいだろう。
なんか変な噂されるかもしれないけど噂されたらされたらでその時はその時だ。
何を食べようかなと考えながらファミレスに向かう足取りは軽かった。