ビデオレター
一個前の小説『恋の戦い』はこんなのおもしろくない? と思ってあんな形にしたら、大不評でした(泣)
本来は、こっち↓のストーリーで創っていたものが、ふとした思いつきからあんな形になってしまいました。
こっちが本編です。前半は内容変えてません。後半付け足しました。お気に召すとよいのですが(ドキドキ)
私たちは友達だった。でも、
「付き合ってください!きっと幸せにしてみせます。一生大事にします」
「お? プロポーズかな? まだ付き合ってもいないのに」
「あ・・・いや・・・違くて。いや、でもあながち間違ってもいないというか」
「ふふ。うそうそ。きみの気持ちは嬉しいよ。うん。オーケーだよ。私たち付き合おう」
そうして、私たちは恋人同士になった。
彼との日々は幸せだった。それはそれは、幸せで。彼への不満なんて一つもなかった。ケンカなんてしたこともない。みんなからも、たくさん祝福された。女友達から、羨ましいなんて声もよく聞いた。そんなふうに言われると私は、
「フッフッフッ。羨ましかろう? 私ほどの果報者もそうおるまいよ」
なんて、おどけて答えるのだった
私たちはあるアニメのマネで、お互いの誕生日にビデオレターを送ることに決めた。付き合って初めての私の誕生日、デートの後、彼から渡されたビデオレターを再生する。
『え、えっと。お誕生日おめでとう。そしてありがとう。こんな僕と付き合ってくれて。僕は僕に自信がなかったんだ。今までの人生でね。でも、きみに告白して、そしてオーケーをもらって。僕の人生はあの日から間違いなく変わりだしたよ。大げさだけど、この世界にいていいんだって。僕の居場所があるんだって、そう感じるんだ。きみがそれを与えてくれた。きみの横が僕の居場所になったよ。だから、ありがとう。そしてこれからもよろしく。
以上。初めてのビデオレターです。緊張したー。これ毎年やるのかー。話すネタなくなりそうだね。いやいや。作ってみせます! 一生幸せにするって言ったもんね。毎年ネタが尽きないくらい、思い出をたくさんつくっていこうね」
私は幸せだった。きみが私の横を自分の居場所だっていうように、もうきみの横が私の居場所になっているんだよ。そう思った。だけど・・・
突如私たちを不幸が襲った。彼は命に関わる病気にかかってしまった。みるみるうちに、彼は衰えていった。それでも彼は私の前だけでは気丈に振る舞った。
「一生幸せにするって言ったから」
そう言って。
だが、ある日。
「もう、だめみたい。僕はきみと人生を共にはできそうもない。くやしいよ。これからどれだけ僕らに幸せが待っていたのかを考えると、辛くてしかたない」
そう言って涙を流すのだった。
「いいんだよ。きみは十分私を幸せにしてくれた。もう一生分の幸せをもらったのかもしれないよ」
その言葉も彼には届かないようだった。だが、ふと彼は思いついたという顔で、
「そうだ。ビデオレター。今から君の毎年の誕生日に向けて、ビデオレターを撮ることにするよ。僕がいなくなったあとも、きみを支えられるように」
彼はその日からビデオレターの作成に取り掛かった。それは、燃え尽きるロウソクが最後、ポッと弾ける時のあの輝きを思わせた。彼の最後の命の輝きだったのだろう。
彼のいない初めての誕生日がやってきた。私は日々をむなしく暮らしていた。そしてこの日を待ち望んでいた。彼と再会できるこの日を。
『やぁ。元気? 僕のいない毎日にも慣れたかな? もう慣れました、なんて言われたらそれはそれで僕が寂しいけど。でも元気をだして生きていって欲しいんだ。今頑張って、ビデオレターを、毎年ぶん作っているよ。言ったと思うけど、きみを支えられるようなものを作っていくつもりだ。なにしろ病院生活で考える時間だけは山ほどあるからね。渾身の作品を毎年楽しみにしていて欲しい。では今年はこれで。また来年!』
また来年。来年までビデオレターは見てはいけない約束。つらい。無性に彼に会いたくなる。今年の分は見てもいい約束なので、何回も何回も見返した。彼の手に触れたいなあ。手を握って街を散歩した日々。あれは、奇跡のような日々だったのだ。もう帰ってこない日々。
ビデオレターなんかじゃ、心の隙間が埋まらないよ。一生幸せにするって言ったくせに。嘘つき。
私は辛い毎日を泥のような心で過ごしていった。
ある日、街を歩いていると、彼の担当をしてくれていた、高島さんという男性看護師とばったり会った。彼が亡くなってからは会う機会もなかったが、彼と私の関係をよく理解してくれていて、生前よく3人で話をしたものだった。
「みゆきちゃん元気だった? 心配してたんだよ。って元気なわけないか。あんなに仲よかったもんね」
「はい。はっきり言って人生に絶望してますよ。彼からのビデオレターを、エンドレスで流してて擦り切れるんじゃないかって不安です。まあ、デジタルデータは擦り切れないですけど」
「あはは。あれ? 意外と元気だったりする?」
「冗談でも言ってなきゃ心が擦り切れそうです。まあ、心も擦り切れないですけど」
「あはは。みゆきちゃんは本当におもしろいなあ。彼も楽しい人だったし。本当にお似合いのカップルだったのにねえ」
「私もそう思います。もうあんな人、二度と現れないでしょうね」
「うーん。僕でよければいつでも話きくから。連絡ちょうだいよ」
そして、高島さんと連絡先を交換した。私の泥の心がすこし身動きが取れやすくなったのを感じた。
私は高島さんの好意に甘えた。高島さんは泣き言ばかりの私に忍耐強く付き合ってくれた。そしていつの間にか泥の心は澄み渡っていた。
私の誕生日がやってくる。ビデオレターを再生する。
『今年もお誕生日おめでとう。毎日泣いてない? 大丈夫かな? きみはいつも僕を笑わせてくれて、それは本当に嬉しい事だったけど、本音を言えば、もっと頼ってほしかった。悲しいことがあったなら、笑いに変えるんじゃなくて、辛いって泣いて欲しかったよ。きみはたぶん一人で泣いていたね。そういう関係を作れなかったのは僕の後悔だよ。
ごめん。暗くなっちゃったね。なにはともあれ、おめでとう。来年また」
こっちこそ、ごめん。
泣き顔見せる相手ができちゃったよ。
私弱くなっちゃったのかな。きみといる時にもっと泣いておけばよかったのかな。私にはわかんないや。そして、きみの私の愛を信じる瞳が息苦しいよ。
きみは亡くなってしまって、でも私はこれからも生きていかなきゃなんない。あんなに辛かった心も、容易に癒えてしまった。
生きてるって残酷だ。あんなに楽しかったのに。掛け替えのない日々だって思ったのに。私はもう思い出すことがほとんどなくなっていた・・・。
それでも私は生きていくしかない。その先に答えがあるのかはわからないけれど、ただ、日々を生きていく。それしか、今の私に考えられることはなかった・・・。