表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ビデオレター

作者: 朝寝雲

一個前の小説『恋の戦い』はこんなのおもしろくない? と思ってあんな形にしたら、大不評でした(泣)

本来は、こっち↓のストーリーで創っていたものが、ふとした思いつきからあんな形になってしまいました。

こっちが本編です。前半は内容変えてません。後半付け足しました。お気に召すとよいのですが(ドキドキ)

 私たちは友達だった。でも、

 「付き合ってください!きっと幸せにしてみせます。一生大事にします」

 「お? プロポーズかな? まだ付き合ってもいないのに」

 「あ・・・いや・・・違くて。いや、でもあながち間違ってもいないというか」

 「ふふ。うそうそ。きみの気持ちは嬉しいよ。うん。オーケーだよ。私たち付き合おう」

 そうして、私たちは恋人同士になった。

 彼との日々は幸せだった。それはそれは、幸せで。彼への不満なんて一つもなかった。ケンカなんてしたこともない。みんなからも、たくさん祝福された。女友達から、羨ましいなんて声もよく聞いた。そんなふうに言われると私は、

 「フッフッフッ。羨ましかろう? 私ほどの果報者もそうおるまいよ」

 なんて、おどけて答えるのだった

 私たちはあるアニメのマネで、お互いの誕生日にビデオレターを送ることに決めた。付き合って初めての私の誕生日、デートの後、彼から渡されたビデオレターを再生する。

 

 『え、えっと。お誕生日おめでとう。そしてありがとう。こんな僕と付き合ってくれて。僕は僕に自信がなかったんだ。今までの人生でね。でも、きみに告白して、そしてオーケーをもらって。僕の人生はあの日から間違いなく変わりだしたよ。大げさだけど、この世界にいていいんだって。僕の居場所があるんだって、そう感じるんだ。きみがそれを与えてくれた。きみの横が僕の居場所になったよ。だから、ありがとう。そしてこれからもよろしく。

 以上。初めてのビデオレターです。緊張したー。これ毎年やるのかー。話すネタなくなりそうだね。いやいや。作ってみせます! 一生幸せにするって言ったもんね。毎年ネタが尽きないくらい、思い出をたくさんつくっていこうね」


 私は幸せだった。きみが私の横を自分の居場所だっていうように、もうきみの横が私の居場所になっているんだよ。そう思った。だけど・・・

 

 突如私たちを不幸が襲った。彼は命に関わる病気にかかってしまった。みるみるうちに、彼は衰えていった。それでも彼は私の前だけでは気丈に振る舞った。

 「一生幸せにするって言ったから」

 そう言って。

 だが、ある日。

 「もう、だめみたい。僕はきみと人生を共にはできそうもない。くやしいよ。これからどれだけ僕らに幸せが待っていたのかを考えると、辛くてしかたない」

 そう言って涙を流すのだった。

 「いいんだよ。きみは十分私を幸せにしてくれた。もう一生分の幸せをもらったのかもしれないよ」

 その言葉も彼には届かないようだった。だが、ふと彼は思いついたという顔で、

 「そうだ。ビデオレター。今から君の毎年の誕生日に向けて、ビデオレターを撮ることにするよ。僕がいなくなったあとも、きみを支えられるように」

 彼はその日からビデオレターの作成に取り掛かった。それは、燃え尽きるロウソクが最後、ポッと弾ける時のあの輝きを思わせた。彼の最後の命の輝きだったのだろう。


 彼のいない初めての誕生日がやってきた。私は日々をむなしく暮らしていた。そしてこの日を待ち望んでいた。彼と再会できるこの日を。


 『やぁ。元気? 僕のいない毎日にも慣れたかな? もう慣れました、なんて言われたらそれはそれで僕が寂しいけど。でも元気をだして生きていって欲しいんだ。今頑張って、ビデオレターを、毎年ぶん作っているよ。言ったと思うけど、きみを支えられるようなものを作っていくつもりだ。なにしろ病院生活で考える時間だけは山ほどあるからね。渾身の作品を毎年楽しみにしていて欲しい。では今年はこれで。また来年!』


 また来年。来年までビデオレターは見てはいけない約束。つらい。無性に彼に会いたくなる。今年の分は見てもいい約束なので、何回も何回も見返した。彼の手に触れたいなあ。手を握って街を散歩した日々。あれは、奇跡のような日々だったのだ。もう帰ってこない日々。

 ビデオレターなんかじゃ、心の隙間が埋まらないよ。一生幸せにするって言ったくせに。嘘つき。

 私は辛い毎日を泥のような心で過ごしていった。


 ある日、街を歩いていると、彼の担当をしてくれていた、高島さんという男性看護師とばったり会った。彼が亡くなってからは会う機会もなかったが、彼と私の関係をよく理解してくれていて、生前よく3人で話をしたものだった。

 「みゆきちゃん元気だった? 心配してたんだよ。って元気なわけないか。あんなに仲よかったもんね」

 「はい。はっきり言って人生に絶望してますよ。彼からのビデオレターを、エンドレスで流してて擦り切れるんじゃないかって不安です。まあ、デジタルデータは擦り切れないですけど」

 「あはは。あれ? 意外と元気だったりする?」

 「冗談でも言ってなきゃ心が擦り切れそうです。まあ、心も擦り切れないですけど」

 「あはは。みゆきちゃんは本当におもしろいなあ。彼も楽しい人だったし。本当にお似合いのカップルだったのにねえ」

 「私もそう思います。もうあんな人、二度と現れないでしょうね」

 「うーん。僕でよければいつでも話きくから。連絡ちょうだいよ」

 そして、高島さんと連絡先を交換した。私の泥の心がすこし身動きが取れやすくなったのを感じた。

 私は高島さんの好意に甘えた。高島さんは泣き言ばかりの私に忍耐強く付き合ってくれた。そしていつの間にか泥の心は澄み渡っていた。

 私の誕生日がやってくる。ビデオレターを再生する。


 『今年もお誕生日おめでとう。毎日泣いてない? 大丈夫かな? きみはいつも僕を笑わせてくれて、それは本当に嬉しい事だったけど、本音を言えば、もっと頼ってほしかった。悲しいことがあったなら、笑いに変えるんじゃなくて、辛いって泣いて欲しかったよ。きみはたぶん一人で泣いていたね。そういう関係を作れなかったのは僕の後悔だよ。

 ごめん。暗くなっちゃったね。なにはともあれ、おめでとう。来年また」


 こっちこそ、ごめん。

 泣き顔見せる相手ができちゃったよ。

 私弱くなっちゃったのかな。きみといる時にもっと泣いておけばよかったのかな。私にはわかんないや。そして、きみの私の愛を信じる瞳が息苦しいよ。

 きみは亡くなってしまって、でも私はこれからも生きていかなきゃなんない。あんなに辛かった心も、容易に癒えてしまった。

 生きてるって残酷だ。あんなに楽しかったのに。掛け替えのない日々だって思ったのに。私はもう思い出すことがほとんどなくなっていた・・・。

 それでも私は生きていくしかない。その先に答えがあるのかはわからないけれど、ただ、日々を生きていく。それしか、今の私に考えられることはなかった・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ