九話 黒星は帰ります
九話 黒星は帰ります
要はその日、黒星に唐揚げの味付けと他のウサギ肉料理数点の作りかたのレクチャーを受けた。
試作する材料がないので口で教えるのみであったが、要は必死にメモを取った。スマホの撮影は黒星が嫌がったので、出来なかったのだ。
スマホを手に取っただけで腰の銃を抜いて要に向けてくる黒星は怖くて、盗撮するなんて考えは消え失せた。それにスマホを壊されるリスクは避けたい。修理費は確実に自腹を切る羽目になるだろうから。
「後は実践あるのみ。エスパーダが嫌がらなけれい程度に唐揚げを食わせ倒せ。俺の唐揚げの味を忘れるくらいにな」
一通り教えた黒星は調理道具とにらめっこをしてる。どうやら持って帰るかを悩んでいるようだ。
「ではまた来る。来るときは連絡する」
結局置いていくことにしたみたいで、あの不似合いなリュックすら置いていこうとしている。
自分の部屋に他人の物が置かれるとなると侵略されたようで落ち着かない。エスパーダは唐揚げに夢中だ。
「おい、エスパーダ」
「え?」
「お前、このままここに残るのか? ケンカしてたんだろ?」
エスパーダは黒星を見て、要を見上げた。要と目が合うと、照れたような態度で目をそらした。
要が謝ろうと思って声をかけようとすると、エスパーダは黒星に向かって言った。
「黒星、ありがとう。ここからは私と要でなんとかしてみる」
「そうか。まあお前はそういうやつだよな」
黒星は小さく笑った。
二人のやりとりを見ているしかなかった要を黒星は見上げる。
「要、お前はエスパーダに選ばれた。自信を持て。素直な気持ちを言えば分かってくれる。だが早とちりはする。こいつはそういうやつだ」
黒星は優しく笑いかけてくれた。もしかしたら別のことを言いたかったかもしれない。でもそれを飲み込んで、要を励ましてくれる。黒星には勝てないと要は思った。
「はい。師匠」
「じゃあな」
黒星は帰っていった。玄関まで歩きながら腰の銃で壁を這っていたGを殺して。
「何怒ってんのかしら」
エスパーダはそう呟くと、再び唐揚げを食べ始めた。