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八話 彼は唐揚げを食べました

八話 彼は唐揚げを食べました


 マットに上げた唐揚げは数分置かれた後、黒星の持ってきた皿に移され、要の前に置かれる。


「さあ、食べなさい要」


 エスパーダが言った。


「お前が言うなよ。要もそう思ってる」


 黒星がそう言うとエスパーダは要を睨み付けた。言いがかりである。要は何にも言ってないのに。


 敵意を向けられたままの食事は緊張するので、要は無理に笑って場を和ませようとした。


「何笑ってるのよ」


 エスパーダに怒られた。


 要は理不尽に対し、どうすれば良いのか分からなくなった。助けを求められる唯一の相手はエスパーダの元彼だけだ。


 目が合うと黒星は口パクで「食べろ」と訴えてきた。確かに今の状況を変えるには唐揚げを食べたほうが良い。だが怒ったエスパーダの見ながらは食べたくない。要はウサギ肉の唐揚げをつまみ、目をつぶって食べた。


 予想通り香辛料の効きが甘い。塩味もほんのりであり、肉の味がダイレクトに来る。


 要はおいしいとは思わなかった。


「目をつぶって食べるなんて失礼ね」


 目を開けると、エスパーダはまだ要をにらみつけていると、目をつぶって食べたことが、まずいかもしれないけど我慢して食べていると解釈されたようだ。


「お前が睨んでいるから、食べづらかっただけだろ。どうだ? やはりおいしくはないか」


 黒星は優しい。エスパーダの理不尽さを分かっているので、要の置かれている状況を理解しているのだ。さすが元彼。


「はい。すみません」


「感覚が違うのは仕方がない。問題は要がどちらにあわせるかだ。それによっては俺は敵になる」


 黒星は腰の銃に手をかけた。


 黒星はエスパーダからは守ってくれるが、救ってくれるわけではない。要が決めなくてはならないのだ。エスパーダにあわせて薄味か、自分の食生活を守るか。


 要は悩んだ。


 腕組みをしてうなっている横で、エスパーダはまだ残っている唐揚げを要や黒星に何の断りもなく勝手に食べた。


「やっぱりこの味付け最高よね」


 エスパーダはご満悦で、さらにもう一個食べようとしている。


 それを見て要は決めた。


「黒星さん、俺に小人族の味付けを教えてくれませんか?」


「え?」


 エスパーダは驚き、手にした唐揚げを立っているテーブルの上に落としてしまった。


「濃い味を薄くは出来ないけど、薄い味を濃くすることは出来る。俺はエスパーダのご飯を作りたい。いや、作らせて欲しい」


 エスパーダは唐揚げを拾ったが、要の発言に驚いて、また落とした。今度は顔を赤くしている。


「今のプロポーズよね? 一生私のご飯を作ってくれるなんて」


 発想の飛躍がはなはだしい。要はそこまでは言ってない。でも自分との未来を想像してテンションが上がってくれているのは悪い気はしなかった。


 エスパーダが飛び上がらんばかりにはしゃいでいると、黒星はため息をついてからエスパーダに近付き、彼女の頭を軽くはたく。芸人のツッコミのようで叩く音が要にも聞こえた。


「いったぁーい! 何すんの?」


「要はお前に悪いと思って、料理を作ると言っただけだ。勘違いすんな」


「何よ。要は確かに言ったわよ。私に料理を作ってくれるって、一生」


 また黒星が頭をはたく。


「もう信じらんない! 黒星なんか二度と呼ばないんだから」


「悪いが俺は要の料理の師匠になった。お前に連れてこられなくともここに来る権利がある。それに俺が来ないとお前はおいしい食事をとることが出来ない。良いのか? 辛くてしょっぱい唐揚げしか出てこなくなるぞ」


 言われたエスパーダは沈黙した。未だに彼女の胃袋は黒星につかまれたままなのだ。黒星は悪い小人族ではないが、要にとって良い小人族ではない。越えなければならないおとこだ。


「エスパーダ、その唐揚げを食べてて。次からは俺の唐揚げを食べてもらうから」


「うーん、分かった。黒星は気に入らないけど、要がそう言うなら」


 エスパーダは唐揚げを手に取り、再び食べ始める。別の意味で沈黙した彼女を尻目に、要は黒星と向き合う。


「よろしくお願いします」


「ああ。エスパーダの機嫌は料理で維持できる。頑張れ、今の彼氏」


 要は黒星と連絡先を交換した。二人目の小人族のもので、エスパーダの元彼のものだ。


「それじゃこのまま唐揚げを教える。良いな?」


「はい、師匠」


 要の料理修業が始まった。

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