七話 李黒星は唐揚げを作ってくれています
七話 李黒星は唐揚げを作ってくれています
黒星は北京鍋の他にコンロとすでに下味のついたウサギ肉を持ち込んでいた。
それをテーブルの上に広げて、準備を始める。
「黒星には唐揚げを頼んであるわ。要よりもおいしい唐揚げを作ってくれるはずよ」
エスパーダは黒星を手伝うこともせずにドヤ顔で要にアピールしていた。エスパーダはこういう小人なのだ。ケンカしても変わらないのが要には嬉しく、辛い。早く仲直りをしたいものである。
「要、油を借りられるか? それからボウルがあると良い。後は片栗粉」
「あ、はい」
要は黒星から北京鍋を借りて、唐揚げに使った油を移した。まだ一回しか揚げてないので捨てるのはもったいない。彼に使ってもらおう。
北京鍋をコンロに置いたあと、片栗粉とボウルを持ってくると黒星は黙って受け取った。何か言ってくれるとありがたかったが、集中力を高めているようなのでお礼を強要はできなかった。
黒星はコンロの火をつけて、ボウルに片栗粉を入れる。
「黒星、ちゃんと要をギャフンと言わせる唐揚げを作ってよね」
エスパーダの中ですでに目的が変わっていた。黒星に小人族の味付けを教えてもらうのではなかったか。
「別に味勝負をしたいわけじゃないだろう。要に小人族の味付けを覚えてもらって、餌付けしてもらえば元彼の俺のところに来なくても良くなるしな」
「え?」
エスパーダを見て、黒星を見て、またエスパーダを見る。元彼という単語の持つ意味を正確に理解するのに時間を要したのだ。
「エスパーダ、黒星……さんと付き合ってたの?」
要は聞きやすいほうに確認を取る。
「大学時代にね。卒業して一ヶ月も経たないうちにフラれたけど」
「ふーん」
要の視線が黒星に移る。黒星は下味のついたウサギ肉に片栗粉をまぶしていた。
「エスパーダは就職もせずに食っちゃ寝を繰り返していたからな。自立させるためだ。こいつは心を許すととことん甘えてくる」
黒星はフった理由を語ってくれた。要に対してもエスパーダはその甘えん坊の片鱗を見せ始めていて、納得できるものだった。
「それだけ黒星の料理はおいしかったのよ。要のは香辛料だらけで辛かったけどね」
かなり根に持たれているようだ。
「まあそのおかげで天下のコロポックル社で働いているわけだからな。別れて正解だったわけだ」
要はまずいと思った。自分の好感度が黒星よりも低い気がするのだ。このままではまたエスパーダが出て行ってしまうかもしれない。元彼にエスパーダを奪われるなんて要は絶対にイヤだ。
「あの……」
「要、唐揚げを置く物が欲しい」
「あ、はい」
打開策をフラットな指示で潰された。おとなしく皿にキッチンペーパーを敷いた物を持っていくと、ウサギ肉を揚げ始めた黒星にこう言われる。
「まずはこの唐揚げを食って小人族を知ってくれ。こいつはそう簡単に男を見捨てたりしないから」
ここにいる三人の中で、一番黒星が大人だと要は思った。