五話 彼は友達に相談してたんです
五話 彼は友達に相談していたんです
要は想に電話を掛けていた。文字にしてしまうとエスパーダが出ていってしまった事実が確定してしまう気がして、出来なかったのだ。
「想になんか用?」
当たり前のように都が電話で応対している。要はためらったが、都の検閲を逃れることはできない。事の経緯を二人に話していた。
「馬鹿じゃん」
一言で片付けられた。
「確かに言っちゃいけないことを言ったと思う。でも我慢できなかったんだ。都は作った料理をまずいって言われたらどうする?」
「殺すわよ」
「じゃあ分かるだろ?」
「でもあんたが言うのはダメ」
「不公平だ」
「世の中に公平なことなんてないのよ。だから少しでも自分を有利にするために争うの」
理不尽である。都合の良い理屈でねじ伏せようとしているように要は感じた。
「俺はエスパーダにホメて欲しかったんだ。なのに」
思わず愚痴ってしまう。
すると想が言った。
「イケア効果だね」
「え?」
「自分が手間暇かけて作った物を過大評価してしまうことをイケア効果って言うんだよ。要はイケア効果の影響をモロに受けて良い物を作った気でいたけど、エスパーダは素直にまずいと言った」
「想も俺だけが悪いって言うの?」
「事実を言ってるだけ。要はどうしたいの? このまま錯覚を武器に好きな人と争う?」
「イヤだ。エスパーダに帰ってきて欲しい」
「相談してくる人は背中を押して欲しいだけ。答えは決まってるんだ」
「うん、連絡取ってみる」
「それで帰ってこなかったら笑うけどね」
都の余計な一言にげんなりして要は電話を切った。すぐにSNSの着信が来たが無視をした。都の相手をするよりエスパーダに連絡をするほうが大事だ。
文字で訴えるより、声のほうが気持ちが乗る。それにエスパーダの声を聞きたい。要は電話を掛けていた。
「要、今からそっちに戻るから、首洗って待ってなさいよね」
要が謝罪を言う暇も与えずに電話は切られた。
エスパーダは怒っている。でも別れを切り出す感じではなかった。まだ希望はあると思いたい。
要は正座してエスパーダの帰りを待った。