三話 唐揚げは辛いんです
三話 唐揚げは辛いんです
食べる前に、人間のテーブルの上に要の山下剛いて、エスパーダは座る。まるでピクニックみたいだが、見える景色はいつもの部屋のものであった。
「要が食べたいって言うから、どうしてもって言うから、食べるだけだからね」
言い訳のようにエスパーダは要に恋を押し続けた。人間の食料は小人にとってはカロリーが高いかもしれないが、そんなに太ることがイヤなのだろうか。要はエスパーダと向かい合って食べられるだけで幸せなのに。
二人とも手を合わせて、「いただきます」と言った。
要は唐揚げを一個口の中に放り込む。うまくいったほうだと自画自賛した。
そうなると気になるのはエスパーダのリアクションである。要はエスパーダの食事姿を凝視した。
「難しいから見ないで」
エスパーダから講義の声が上がる。要は横を向いたり、上を向いたりして、見ないようにはした。が、やっぱり気になって見た。
「要、見るなって言ってんでしょ」
「ごめん」
うつむいて目を瞑る。
その間に箸の音や「デカイよ」という不満の声などが聞こえる。目を瞑ったことにより、要は耳からの刺激で盛り上がった。
しかし次の言葉に思わず目を見開いた。
「うわっ、辛い」
要が見た光景はエスパーダが唐揚げをぺっと吐き出すところだった。
「ちょっと何してんの」
「辛い! 水!」
エスパーダは真っ赤な顔で、叫んでいた。
要は台所から、水をペットボトルの蓋に入れて、持ってきて、渡した。
奪うように飲んだエスパーダは肩で大きく息をする。
「大丈夫?」
エスパーダはドラゴンが炎を吐くように息を出し、辛味を軽減しようとしていた。
「これが人間の普通なのよね?」
だいぶ間をおいてから、エスパーダは要に聞いてきた。それまでは必死に辛味と戦っていたようだ。
「これは普通の唐揚げで、まだまだ入り口みたいなもんだよ」
ニンニクだって、醤油だって入れる。唐揚げの味をもっと濃くすることは可能で、逆に薄くするのは要の腕では無理だ。
「やっぱり私の思っていたことは間違いじゃなかったのよ」
「え?」
「私たちは同じ物を食べられない。味覚が違いすぎるのよ」
要はビックリした。エスパーダが食べるのを渋ってたのは、太ることを警戒してだと思っていたのだ。
「そんな……せっかく作ったのに」
「どんなに苦労してもまずい物はまずいの」
要はカチンと来た。




