37:なんでもない日のはずだった日。
のんびりしてる日のはずが変なのに絡まれる話
――フレンドのカズのパーティと山登りをして釣りをした日から数日、サーディの街も探検し終わっていたけど、カズの方もちょっとだけ探索を進めてるらしく……まだボクは次の街へ行けていなかった
「とりあえずこの鉱石は売って、こっちは打って、あ、これは加工して……」
サーディにある鍛冶場の前の小さな広場みたいなところで採掘してきてもらった鉱石をせっせと選別していれば次男さんがちょこちょことアドバイスをくれて、鉱石屋さんはこそこそとこっちを見ているけどボクは気にしていなかった。
『お客人、こっちは多分紹介所じゃ安く買い取られるよ』
「これって原石?」
『そう。一応魔光石の一種だけど加工しないと価値がでないもので、少し見えるだろうけどこの中の石の色や透明度によってさらに価値が変わる』
「じゃあ鉱石屋さんなら買い取ってくれるもの?」
ボクのその問いにはこそこそと覗いている鉱石屋さんが大きく頷いていたけどそっちは見ずに次男さんを見ればやっぱり頷いていた。
『鉱石屋は石の取り扱いに関してはプロだからな。加工も査定もしっかりしてるよ』
なんでも、鉱石屋の人は原石でも見ればどのくらいのサイズかがわかるらしく、最初の査定と加工後の結果はそこまで変わらないとか。それがいいことなのか悪いことなのかはボクは知らないけど
「じゃあ原石は鉱石屋さんに売ってあげることにする。ボクがもってても加工はできないんでしょ?」
『そうだね。原石の加工には加工スキルが必要だけど……鍛冶師でも持ってないからな』
「じゃあボクには無理だ」
ボクのジョブはあくまで【カジ】。鍛冶師でもないし、家事手伝いでもない。両方のスキルを併せ持つということはそのどちらかになることが出来ないとも言えるからこそボクは……
それから数時間、石の仕分けも終わり、鉱石屋さんに原石系を売り、紹介所に鉄とか銅とか一般的なものを売り、自分用もちゃんと残して移動した先はある意味慣れたファスタウンの作業場で。そこでボクが作ったのは前に革屋で買った革を使った本作りと山で釣った魚の調理で、その後はまたファスタウンの工房に行く予定にしていた。……していた、んだけどなぁ?
「邪魔……」
「はぁ? 初心者がいきってんじゃねぇよ」
ファスタウンの裏道で、変な人に絡まれた……とりあえず名前は見えてるからカズにメールを送ってるけど……複数人だから逃げようにも逃げずらいんだよね……ボクだって晩御飯の予定もあるのに。そう思ってるとき、カズからメールが返ってきてて、そこに書かれていたのは……
“しゃがめ”
だけだった。まぁ、しゃがんだ瞬間にボクの頭上を何かが飛んで行って目の前にいた変な人は壁に衝突してたんだけど。ついでにボクの後ろにいた人は何故か地面に埋まってた。
「白鳳と唐ヶさんすごいなぁ」
間違いなくカズじゃこんなことできないだろうし。そう思いながら呟けばいつの間にかフレンド用のチャットが立ち上がっていて2人が文句を言っていた。
―――
白鳳:カゲから変な輩に会ったら隠れろって教わらなかったのか!
カズ:いや、あの人なら隠れるよりも少しでも相手の情報を盗めって言いそう
唐ヶ:意外とヒカタも落ち着いてるよね
ヒカタ:晩御飯前に鍛冶したかった
唐ヶ:そっちかー……時間まだ大丈夫なの?
ヒカタ:もう晩御飯だから一回落ちる。あ、助けてくれてありがと
―――
そうチャットをしてボクはゲームからログアウトをした。だからこそ、あの絡んできた人達がカズ達の手によってどうされているのかは当然知る由もなく、知るつもりもなかった。それにしても、あの変な人って多分前にサーディに行く途中でカズが相手してた人達と関係あるんだろうなぁ……
なお、絡まれ時にヒカタの頭上を通過した何かは唐ヶの攻撃で、地面に埋まった方が白鳳の攻撃である。




