第5話
初クエスト
朝になり、月見荘の看板娘が寝ているヒデトを起こしに来た。
「ヒデトさん。朝ですよ!起きて下さい!」
かわいらしい声が部屋に響く。
ここはどこだっけ。そうだ、「アイネ」の町に来てて、月見荘に泊まっているのだった。
「おはよ
寝ぼけていたが、少し意識を取り戻したヒデトは一日を始める。
身支度を済ませて一階の食堂に行くと、看板娘がこちらに座るように案内してくれた。
さすが、町一番の料理と聞いていたが朝ごはんもおいしい。
昨日の夕食も、これまたおいしかった。
「お味はいかがですか?、ヒデトさん。」
看板娘が少し自信なさげにヒデトに聞いてくる。
少し上目遣いなのがたまらん。可愛すぎる。
「おいしいよ!特にこれなんかすごくおいしいね!」
ヒデトは、率直に気持ちを述べた。
「やったー。それは私が腕におりをかけて作ったんですよ!」
「よかったねーアキ、お客さん喜んでくれて!」
厨房から店主の声が聞こえる。
「はい!よかったです!」
アキが頬を赤くし嬉しそうに語る。率直に言ったことが吉兆したようだ。
おれのハーレムに来る日は近いか…。
そんなことを考えていると、アキが朝食の説明をしてくれた。
「私が作ったこの料理は、ワイルドボアーのベーコンポテトです!
ワイルドボアーっていうモンスターのお肉なんですよ!」
これが、モンスターのお肉か。今までにない経験であったがおいしかった。
「おいしいかった!
ところでこのパンは小麦から作ってるの?」
「もちろん小麦からです!。あとマーリンカウから作ったバターを付けています!」
この世界には、パンやバターといった概念が存在するらしい。
昨日の夕食にもパンが出てきたのだが、米はあるのだろうか。疑問に思って聞いてみた。
「なるほど。バターまでつけてくれてありがとう!
ちょっとした疑問を聞くが、米ってあるのか?」
「コメ?って米ですか?
それは、貴族しか食べれない高級の食材ですよ!
貴族の領地でしか栽培されていないほど米は育てるのが難しく、大変貴重な作物です!
なのでここアイネでは育てられてないです。」
そうか(泣)
この世界での米はそれほど貴重なものとは知らなかったな。
だが、日本人として、米がない生活はやっていけない。
スキル「異世界の文明」で米を買うしかないか…。宿代も稼がないといけないし。
となると、SPと金稼ぎにクエストに行くしかないな。
今日の予定は決まった。
「ありがとう、アキ!おかげで朝から気持ちいい気分を味わうことができたよ。
これからもよろしくね!」
ヒデトがアキにお礼を述べると、
アキは
「は、はい。ありがと…ございますぅ…。」
と顔を真っ赤にしながら、厨房へ一目散へ駈け込んでいった。
さて、準備を整えて、ギルドにやってきた。
幸いなことにミクがまた立っていた。
「おはよー!!昨日はいきなり押し入っちゃってごめんね!
久しぶりの新人さんだったから、歓迎会をしてたのに私たちが酔いつぶれるなんて(笑)」
聞いての通り、昨日の話は完全に精神系魔法「記憶改変」によって変わっている。
「大丈夫だよ!ところでさっそく今日はクエストを受理しに来たんだけど、何かいいやつってな
いかな。」
ヒデトがミクに問いかける。
「そうね…。ヒデトはFランクだから、一つ上のEランクのクエストも受理できるんだけど…。
あ、こんなのどう?薬草集めと畑荒らしウサギの討伐っていうのは。
最近アイネの街の畑を荒らすウサギが出るのよね。名前のとおり本当に作物を収穫できないほどに荒らしていて農家さんはいい打撃を受けてるところなのよ。場所はギルバートの森より手前のアイネの森ね、あるいて正味30分てとこね。報酬は、10ガレルで結構高額だしやってみない?」
「ありがとう!もちろん受理するよ!」
「了解!じゃあ頑張ってきてね。」
ミクと話をつけたヒデトは、アルビスに通行許可のためにギルドの会員証を見せて門を通過し、「美しい草原」のある東の方ではなく、西の方へ向かって歩く。
朝起きてからは外していた索敵モードもきちんとONにし、しばらく歩くと目的地がマップに表示され、肉眼でもわかるようになった。
しばらく行くと、森の入り口の看板が見える。
「ここはアイネの森」と書いてある。
近くには「この先ギルバートの森」という看板も見つけた。
さて、入り口付近で改めて索敵を行うと、索敵に緑のほかに赤が重ねって表示されている。
赤色はモンスターを示したのでモンスターの詳細を確認すると、すべて畑荒らしウサギであった。
どうやらここが畑荒らしウサギの根城らしい。
薬草のクエストの場所と一致していて助かった。
その数はだいたい10匹程度か…。
よし、まずは薬草摘みだな。
最初に植物を示す緑で示されたアイコンに向かう。
アイコンのもとへ向かうと、密集して薬草が繁茂していた。
よし、こんなにたくさんあるならば、余裕でクエストはクリアだろう。
クエストで必要な薬草は、「レッドハーブ」か…。
お目当ての薬草があってほしい。
薬草の詳細を見てみると、その薬草全てとんでもないものであった。
すべて最高ランクと思われるSSSランクの薬草だったのである。
今まで発見されていないのが謎なのだが、どうやらここらに住んでいる人間には、発見したり、鑑定できないほどの白物の為、残っていたのだろう。
と、ここでアドバイザーが脳内で語り掛けてきた。相変わらずかわいい声である。
「薬草には、全部で7種類あり、そのうち6種類は基本的に、それぞれ違った効果を持っており、
それぞれ、レッド・ブルー・イエロー・グリーン・パープル・オレンジハーブといいます。
あと一種類の薬草ですが、それが今目の前にあるSSSランクの薬草です。
これはファントムハーブといわれ、発見できる確率は1/1億といわれている大変貴重なものです。
しかし、ご主人様はステータス幸運がEXであるため、出会ってしまわれたのでしょう。
効果として、この薬草を使って作られたSSSランク「全治のポーション」は、
すべての病気・欠如・穢れ・呪いを取りはらい、本来あるべき姿へと戻すポーションです。
今現在、ヒデト様は、HP,SPは分母が∞であり、常時自然回復LV1が働いているため、実際の数値は少しずつ増えておりますが、不老不死・その他の耐性をお持ちとはいえ、HPそして「異世界の文明」の対価として使用されるSPもまた、少ないと思います。
また、今の状態で仮に戦闘で腕を失ってしまった際には腕がきちんと治らない心配があります。
というのも、腕を修復する方法は二つありますが、現状一つしかできないのです。
その一つというのは、
時間がかかることを覚悟して、腕を失ったところからの血を吹き出しながらも創造により腕を修復することでしょう。
血を吹き出していても、不老不死の効果で生きることはできるので大丈夫ですよ(笑)。
ただ、この場合は魔力が無限大にあるとはいえ、やはりそれ相応の時間がかかります。
腕の場合であれば3日ほどかかるでしょう。
また、腕の感覚が元の状態であるかはわかりませんし、腕の接合部分がきちんとつくかどうかがわからないという懸念も見られます。
創造は自分が育んだイメージによってなされるものであるため、きちんとした創造をしなければ、自分のみが危険にさらされることもあるかもしれません。
最悪、解体をしたり編集しながら直せばいいのでしょうが、それをするのであれば第二の方法が簡単なのです。
その方法こそ、このSSSランクの薬草ファントムハーブで作られた「全治のポーション」を飲むことです。これも創造によって作ることはできますが、材料があると時間が数秒で終わります。
今、材料となるファントムハーブを入手されたご主人様には、ぜひ「全治のポーション」を飲んでいただき、HPやSPを相当な量回復していただきたいです!
長い語りを聞いてくださりありがとうございます。大好きですご主人様!!!」
長い語りも、最後のを聞けば何もなかったかのようにすっかりいい気持である。
まあ、もとからヒデトはうれしそうであったが。
アドバイザーの助言をそのとおりだと思ったヒデトは、早速スキル「智慧」の「創造・編集・解体」を行使した。
すると、目の前に密集したSSSランク薬草ファントムハーブがたくさんの「全治のポーション」に変わっていく!
見る見るうちに、目の前のたくさんのファントムハーブが「全治のポーション」となってしまった。
ストレージにすべて保存し終え、一本だけ取り出したヒデトは、。ステータス画面を開いた状態で、「全治のポーション」を飲む。
結果は、HP:10000/∞、SPも100000/∞となっていた。
どうやら、∞/∞にはさすがにならないらしい。
攻撃当たっても減らないってことになるし、スキル「異世界の文明」の使用やスキルレベル上げを無限にできるからだろう…。
後でわかったことだが、ここはファントムハーブの宝庫だった。
もちろん、クエスト用のレッドハーブも取れたが、数えきれないほどのファントムハーブもとることができた。
突如、ブザーが脳内で鳴り響く。地図で索敵を確認すると、畑荒らしウサギの群れだろうか、ぴったし13匹がこちらへきているようだった。
どうやら、ここ一体のファントムハーブはウサギの宝物だったらしい。
たくさん取られて怒ったのだろうか。
「アドバイザー、どうやって倒せばいいんだ?」
ヒデトはアドバイザーに聞いた。
「ヒデト様は現在、精神系魔法「記憶改変」のみ修得されております。
魔法は、この世界では自分が見聞きしたものや受けたものでないと習得できず、また適性がないと放てないという体になっております。
ご主人様は、すべての適性があり、
また、ご主人様の運命を変えたとされる他の神のミスによって偶発した非正規の記憶をきちんと直すため、創造神様がご主人様に向けて使用なされた「記憶改変」が認知された扱いになり、「記憶改変」は習得されております。
ただ、今回の場合は敵はモンスターであり、モンスターには精神系魔法は効きません。
そのため、ご主人様自身の力で倒されるしかありませんが、全く問題はありません。
ご主人様には、対モンスター戦最強の称号『勇者』と剣技最強の称号『大剣聖』があります。ご主人様が木の枝を持つだけでもここらのモンスターは一掃できると思われます!」
「わかった!ウサギを木の枝倒してみるよ。」
ヒデトは脳内での会話を終えるとすぐ、近くの木の枝を拾いウサギを身構えた。
ウサギがまとまってヒデトめがけて突撃してくる。
緊張して少し汗の出ていたヒデトであったが、ヒデトは無意識ながらも一匹、また一匹と木の枝で致命傷を与えてウサギを倒していく。
それはまるで宙を舞っている、いうなれば剣舞のようであった。
ウサギがまとまって突撃してきてからすべてのウサギを倒すまでにわずか1秒。
恐るべし力であった。
しかしそれだけではなかった。さらに、恐るべきことがあったのである。
それは、ウサギを切った方角に地面が5m、下に1メートルほど亀裂が入っており、
全部できれいに13か所あった。
いやいや、チート過ぎでしょ…。ヒデトはそう思わずにはいられなかった。
周囲に人がおらず、さらに木の枝だったからよかったものの、きちんとした剣を持ってパーティーでの討伐であったならば、味方・仲間をやっていたかもしれない。
つくづく一人で来てよかったと思うヒデトであった。
そのころ、アイネの街では何やら騒ぎがあっていた。
「ギルバートの森からモンスターの大群がこっちに向かってるってよ。
ギルバートの森にあるダンジョンからいきなりたくさんの大群が出てきてそれぞれ周囲に拡散したらしい。中でも、こっちに来るのは多勢らしいぞ!!」
なにやら、商人が門番のアルビスに門付近で話をしていた。
「おれは、殺されるのはごめんだ。この町を失礼するよ!」
アルビスの許可を得てすぐ、商人は去っていった。
アルビスは事の次第を話しにギルドへ向かう。
「モンスターのスタンピードがギルバートの森から発生して多勢がアイネに来ているそうだ。
冒険者を支給招集して、モンスター討伐に加担してほしい。」
受付にいたミクに伝える。
ミクも事の次第をギルド町長に伝え、その後アイネ全体に情報がいきわたり、
アルビスを隊長としたモンスター討伐軍が編成されたのであった。
果たして、モンスターを打ち倒すことができるのだろうか。