第0話
普通の日常
無造作にものが散らかった薄汚い部屋の中に、一人の少年、いや背丈から青年が、毛布で体をくるくると覆ったまま、これまた散らかったベッドで気持ちよさそうに眠っていた。
それもそのはず、部屋に掛けられたカレンダーを見ると、12月23日まで✖印がある。
しかし✖印の次の日、つまり今日の予定の欄は空白。なんとなくこの部屋の汚さからも察することができよう。
しばらくしてスマホのアラーム音が鳴り始めた。
バイブレーションとともにこの青年の好きな音楽だろうか、徐々に大きくなり始める。
アラーム音とともに「午前9時30分です!、午前9時30分です!」と電子音が叫ぶ。
すると、青年の腕が覆った毛布から出始める。
手さぐりにスマホを探し、無事にスマホをとることに成功。
意識がはっきりしないまま、アラーム音を何とか切り、両腕を上げて大きなあくびをし、すぐさま両腕を毛布に入れる。そして、そのまままた眠りにつく。こんなことを続けてはや4回目である。
突如、勢いよく部屋のドアが開かれ、「お兄ちゃん!朝だよ!起きなさい!」と大きい声が部屋中に響き渡る。
その言動の衝撃がすごかったのか、先ほど寝ていた兄たる男がベッドから飛び起きる。
声のした方を見ると、確かに髪や肌、そして目の色が男と似ていながらも、
兄と比べて根が明るく、健やかで、芯がしっかりしてそうでいて、かといってそんなに主張が激しくない、そしてモデル体型かつ胸もしっかりしているかわいらしい美女が立っていた。
「どうしたんだよ、咲季。そんなに大声出して、びっくりして起きてしまっただろ。」
すると、咲季が「何言ってるのお兄ちゃん!!今日は、クリスマスイブ、今もう9時だよ?朝ごはん作って机に置いといたから食べてね。私これから出かけて夜の八時まで帰ってこないから。」
「はぁ?ちょ、まて。どこ行くの?」兄が驚いた様子で咲季に聞く
「昨日夕飯食べてた時に言ったでしょ。女友達の家でクリスマス会するの。まさか男の子だと思った?」
咲季が少し兄を翻弄していく。
「いや、別にそういうわけでは。ってか、今日イブか。」
「そうだよ。まあ、お兄ちゃんは彼女いないだろうし大丈夫か…。」
「はいはい、言ってろ。じゃあ、気を付けていって来いよ。あんまり遅くなんなよ?」
「はーい、行ってきまーす!」
咲季が兄の部屋から出て、しばらくして玄関の戸が開く音が聞こえた。
はぁ…。ため息が漏れる。それもそのはず、妹に大好きな就寝を邪魔されたんのだ。
先ほどから描写してきたこの男、咲季の兄のプロフィールはこうだ。
横山英人、24歳童貞の大学院生、趣味・特技はゲーム、ネットサーフィン、寝ること。
このようなだらけ切った生活を送っているのは、英人自身の趣味であることもあるが、大学院生は空いている時間は極力暇人であり、それに加えて、今は冬季休みになっているからである。
これは、そんなだらけていた大学院生が、いつの間にか異世界に転生してしまう、そんなお話である。