彷徨う騎士
皆様、お久し振りです。
ドラキュラです。
この度の作品は傭兵の国盗り物語および傭兵王物語に登場させる人物の話です。
ただ、まだ先の話ですので、あくまで短編として投稿した次第というのを御理解ください。
草木が一本すら無い荒野。
吹く風は生暖かく、ひび割れた大地は一歩踏む度に鈍い音を鳴らした。
そんな荒野を一頭の馬に乗った騎士が歩いていた。
馬の毛並みは黒で、軍馬に相応しい体格をしており威圧感が強い。
また馬に乗る騎士も同じ印象を受けた。
乾いた血を連想させる暗い赤と、黒の2色を使った「アルフレッド式甲冑」と「アーメミット」はあたかも戦場から帰還したばかりと思わせる。
しかし声は触れたら壊れそうな印象を受けた。
「・・・・何時になったら再会できるの?」
騎士は綺麗なソプラノ声で誰に言う訳でもなく問いを投げた。
声色から察して女性騎士だろう。
そして言葉から女性騎士は剣を捧げる主人を探しながら旅をしている「遍歴騎士」と見受けられた。
だが直ぐ自嘲したのか、鎧を震わせる。
「・・・・私が剣を捧げるのは、あの御方"一人"のみ」
女性遍歴騎士は自分が剣を捧げる相手は決まっていると断言した。
それは今まで旅をして何度も痛感されたと思わずにはいられなかったのか小さく嘆息した。
そして今も「再会」が叶わぬ唯一の主人を思ったのだろう。
自分が歩んだ道を思い返した。
戦があれば自分は「客将」として参加し何度も勝利に貢献した。
預けられた兵士達は自分と戦場に行くと奮い立ち敵を打ち払い、それによって勝者として兵士達は報酬が得られた。
それを雇い主は喜んだが・・・・・・・・
「今の・・・・私では・・・・また、あの御方は拒絶する」
女性遍歴騎士は呟いた。
幾ら自分が数多の戦場に出て、雇い主を勝利に導いても誰一人として・・・・・・・・
「私を・・・・受け入れてくれなかった」
女性遍歴騎士は馬の手綱を握り締めて肩を落とした。
そして何時ぞやの雇い主に言われた台詞も頭に浮かんだ。
『貴殿は確かに騎士としての実力は申し分ない。しかし"血の夢"に酔う者を私は雇いたくない』
これを言われた時・・・・自分は未だに騎士という形に囚われていると思い知らされた。
確かに・・・・自分は、自分が描く騎士として正々堂々と正面から「決戦」に今も固執している。
決戦は何れやらなければならないから避けては通れない道だ。
しかし、決戦を何度もやれば必然的に味方の将兵も倒れるのも避けては通れない道だ。
そして決戦に固執している自分は何度も雇い主に決戦をするように進言した。
雇い主達も決戦の必要性は理解していたから自分の進言を受け入れ決戦を行った。
自分も貸してもらった兵士達を率いて参加したが・・・・どの軍よりも消耗は多かった。
ここを何時ぞやの雇い主は見て上記の言葉を言ったのだろうと騎士は思った。
実際に唯一の主人と定めた人物も上記と同じ内容の言葉を言って自分を拒絶した。
だが・・・・・・・・
「謀略を・・・・行うなど・・・・飛び道具を使うなんて・・・・騎士から逸脱しているわ!!」
ソプラノ声が狂気に染まった。
その言葉からは騎士という形に囚われているのが垣間見えた。
しかし女性遍歴騎士は狂気に染まった声で言い続けた。
騎士とは槍を掲げて敵陣に突っ込み、そのまま敵を蹂躙する事だ。
謀略や飛び道具を使うのは参謀や軍師、末端の兵士が用いるべきだ。
それなのに・・・・・・・・!!
女性遍歴騎士はふと目に入った岩を見た。
岩は無造作に在ったが、まるで自分を嘲笑しているように女性遍歴騎士には見えたのだろう。
女性騎士の体が大きく揺れた刹那・・・・左手に填められた縦長のカイト・シールドを徐に突き出した。
するとカイト・シールドから赤熱した鋭利な先端を持った軟鞭が飛び出し直ぐ近くにあった岩を無造作に貫いた。
見る感じ・・・・軟鞭は魔物の皮などを加工したのだろう。
岩を深々と貫いた軟鞭はプスプスと白い蒸気を放っている。
まるで女性騎士の感情を表すように・・・・・・・・
「あんな飛び道具を使う女が・・・・謀略を使う女が・・・・滅亡する祖国から逃げた卑しい亡命者が・・・・あの御方の左に立って良い訳ないわ!!」
女性騎士は絶叫に近い怒声を上げながらカイト・シールドを縦に振った。
それに合わせてカイト・シールドから伸び出た軟鞭は岩を縦に切断した。
だが、それだけでは満足いかないのか・・・・騎士は馬の腹を蹴り岩に突進した。
「でぇいっ!!」
掛け声と共に騎士は腰に提げていた刀剣「バスタードソード」を革鞘から引き抜いて岩に振り下ろした。
バスタードソードが振り下ろされると岩は瞬く間に両断された。
軟鞭でやられた上でバスタードソードを受けた岩は最初の面影が既に無い。
しかし・・・・女性騎士は更に岩を叩き割るようにバスタードソードを振り下ろした。
「・・・・・・・・して・・・・どうして・・・・どうしてぇっ・・・・どうして私だけが?!どうして私だけ否定されたばかりか拒絶されたの?!」
女性騎士は絶叫を上げながら岩にバスタードソードを振り下ろし続けた。
既に岩は見るも無残な形となっており、バスタードソードは地面を悪戯に抉るだけとなっていた。
こんな真似をすれば刃毀れして使い物にならなくなるのも時間の問題だ。
ところがバスタードソードは刃毀れ一つない。
そのためか騎士はバスタードソードを振り下ろし続け・・・・やがて問いを投げた。
「どうして・・・・・・・・?」
私は、騎士に相応しい道を歩む事に努力を惜しまなかった・・・・・・・・
騎士として礼節を守り続けてきた・・・・・・・・
勇敢な者には敵味方関係なく賛美を送った・・・・・・・・
それなのに・・・・・・・・
「どうして・・・・誰も私に味方してくれないの?どうして私の前から皆、姿を消したの?!私は、ただ・・・・・・・・」
『そんな"一方通行"の感情を今も抱いているようでは永遠に叶わない』
女性騎士の叫び声を否定するような声が聞こえてきた。
しかし女性騎士は直ぐ反論した。
「私は、あの御方を主人とし、剣を捧げて如何なる存在からも守り通すと決めただけ!!」
『それなら剣だけを捧げれば良かっただけの話。あまつさえ愛も捧げようとしたからいけない』
「どうして私だけが許されないの?!他の女は許されたのに!!」
『他の女達は、あの騎士の気持ちを汲んだ。そして彼の騎士も彼女達の気持ちを受け入れ、そして彼女達が背負う”重石”を軽くさせた。しかし・・・・お前は彼の騎士の気持ちを汲まないばかりか自分の気持ちを押し付けた』
あの騎士は無駄な流血は好まず、勝つ為なら騎士の道から外れる手段も用いる。
『それで自身の名が汚れようと配下の者達が無事なら躊躇わない。しかし、お前の場合は違う』
自分が掲げている騎士の道を他者にも押し付け、強要する挙句に大量の流血を強いた。
『それによって得た勝利に酔う。あの騎士とは反対の道を歩く、お前を彼の騎士が受け入れる訳がない』
「・・・・・・・・」
女性騎士は声に口を噤んだ。
声の語った内容は間違いではない。
自分は、あの騎士を好いていた。
あの騎士が歩む道を自分も共に歩き、そして愛し合いたかった。
だからこそ・・・・・・・・
『・・・・憐れだな』
声は女性騎士を揶揄する台詞を発した。
「私が憐れ・・・・憐れですって?!」
女性騎士は謎の声が発した評価に怒りを剥き出しにした。
『お前は憐れだ。形に囚われ続けている憐れな流血を好む騎士だ』
「私は流血を好んでいない!騎士という形にも囚われていないわ!!」
『いいや、囚われている。そうでなければ未だに荒野を流離ってなどいない』
「私が剣を捧げるのはあの方一人!他の者に剣を捧げるつもりなんて無いわ!!」
『・・・・・・・・』
女性騎士の怒声に声は無言となった。
それは女性騎士に何を言っても無駄と判断したからだろう。
『・・・・憐れな流血を好む騎士よ。今のままでは永遠に彼の騎士は、お前を拒絶するだろう』
それなら彼の騎士に殺される事を望むだろうが・・・・・・・・
『今のお前では殺される事もない。ただ、このまま朽ち果てるのを彼の騎士は待つ』
そうすれば良いのだからと声は告げた。
「そんな事は・・・・・・・・!!」
女性騎士は否定しようとしたが言葉は途中で切れた。
ただ女性騎士は否定したいとばかりにバスタードソードを握り締めた。
しかし・・・・それから先は何をする訳でもなくジッと銅像のように停止し続けた。
彷徨う騎士 完