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85話 遺跡

 先行したブレイディアは遭遇する敵を撃破しながら先を急ぐ。するとやがて森を抜け巨大なクレーターがある場所に出る。地平線の先まで広がっているそのクレーターを見てすぐにそこがどこなのか察した。


(……ここがアルロンの跡地……ラグナ君とハロルドの故郷か……ってことはここの地下に……)


 ブレイディアは辺りを見回した後、クレーターの中へ降りて行った。警戒しながらしばらく進んでいると大人数が乗れる軍用車やトラック、それに乗せられてたのであろう何らかの探知機と思われる巨大な機械が複数置かれている場所にたどり着く。それらに身を隠しながら慎重に進んでいると『ラクロアの月』の構成員と見られる男たちが十数人集まっている場所を見つけた。何かを守るように展開する男たちを見てすぐに状況を理解する。


(たぶんあそこが地下へ続く階段がある場所……見張りがいるのが何よりの証拠だね。アイツらをまずは倒さないと)


 ブレイディアは隠れながら緑色の光を纏うと『月錬機』を武器に変化させ、トリガーを二度引いた。すると刃が高速で柄から離れ飛び回り始める。そして見張りの男たちの周囲をかく乱するように飛び、驚く男たちを次々に切り裂く。逃げ惑う者、戦う者、それぞれいたが想定外の事態に混乱していたのは皆同じ。男たちが混乱に陥る中、殺し屋のように静かに背後から忍び寄った女騎士は刃から逃れた敵の後頭部を殴打し次々に倒していく。やがて全員を倒し終わると『月光』を消し『月錬機』を箱状に戻した。


(これで全部か……たいして強くなくてよかった。問題はこの先に幹部、もしくは幹部補佐がいる可能性が高いってこと。幹部は言うまでも無いけど、ラグナ君の話を聞く限り幹部補佐も一筋縄ではいかない。幹部クラスの連中の実力差がどれくらいあるのかわからないけど、もし幹部の実力がみんな同じくらいならフェイクと同等の実力を持っているということになる。正面切って戦って勝つのは不可能。……もし幹部がいた場合、心苦しいけどラグナ君に任せるしかない。でも頼みの綱のラグナ君は今カーティス三兄弟と交戦中)


 ブレイディアはカーティス三兄弟の情報を思い出していた。


(……確かカーティス三兄弟の個々の危険度は手配書でB。けど三人そろった場合その危険度はA以上。ラグナ君一人に任せてきちゃったけど本当に大丈夫かな……あの子も幹部がいる可能性を考えて『黒い月光』を使わず体力を温存する戦い方をするだろうし……)


 不安に思っていたブレイディアだったが、ラグナの両目が赤く染まる姿を思い出し不安は払拭される。


(……いや、今のあの子の実力なら問題ないか……たぶんすぐに追いかけてくるはず。私はその間に人質の救助や幹部、幹部補佐、残存勢力の確認をしなくちゃ。そして可能なら少しでも敵の数を減らそう。敵の探してる『鍵』や『方舟』についても調査しないとだしね)


ブレイディアはそう決めると、男たちが守っていた場所に歩を進める。そこは想像した通り、地面に穴が開き地下へ続く階段が存在していた。穴の上から足場が複数付いたひもが車に括りつけられ下に垂らされていることを確認した後、ポシェットからペンライトを取り出しひび割れた石造りの階段を降りて行く。途中まで降りると噂で聞いていた通り階段が崩れていたため垂らされていた足場の付いたロープを使い最下層まで降りて行った。やがて底までたどり着くと松明で照らされた広大で不可思議な場所に出る。


(……あんまりこういうの詳しくないけど……聞いてた通り遺跡っぽいな……)


 ペンライトでよく照らしてみると石で出来た柱や門、人を模した彫像が複数確認することが出来た。大昔に作られたものということはわかったもののそれ以上のことはわからなかったためいったん考えるのをやめ先に進むことを優先する。石畳の上を足音を立てずに歩きながら間を開けるように等間隔に配置されたそれらを通り過ぎて行くとやがてさらに広大な空間に出る。

 

 出てすぐにブレイディアはその中央を思わず凝視する。なんとそこにはそびえ立つような長い階段が存在したのだ。彫像の裏に隠れながら階段の上を見ると石で出来た祭壇のようなものが確認できた。さらによく目を凝らすと、どうやら敵や人質は祭壇近くに密集しているようだ。


(なるほど。あの祭壇みたいな場所に人質やお目当ての物があるってことね。じゃあ……敵の様子を窺いつつ、一人ずつ静かに消していこうかな)


 ブレイディアはそう決めると物陰に隠れながら静かに緑色の光を纏った。



 階段の上、祭壇近くにいたデップは周囲に存在する部下に指示を出していた。


「――警戒を怠るなよ! ラグナ・グランウッドたちがここまで来る可能性だってあるんだからな! 散開して常に周囲を見張れ!」


 デップはそう部下達に吠えると脇に抱えたトランクを見ながらため息をつく。


(……祭壇から『鍵』を手に入れた後、このトランクのダミーにすり替えたのはいいけどよぉ……ラグナ・グランウッドを待ち伏せなきゃいけないなんて面倒だぜ……人質はいるしいづれ奴らは確実にアルロン跡地まで向かうんだろうけど……でも本命のラグナ・グランウッドが来る前に他の騎士とかも来るんじゃねえかな……まあ他の騎士がいくら来ようと関係ねえか。雑魚がいくら来ようが物の数に入らねえだろうし。仮にラグナ・グランウッドが来たとしてもカーティス兄弟が始末するだろ。なにせ『魔王種』まで用意してんだからな。んで左手を入手してミッションコンプリートだ。……にしてもカーティス兄弟からの定期連絡こねえぞ。どうなってやがる。……クソッタレ。アイツら、オイラのこと陰で頭が悪いって言って馬鹿にしてやがるからな。もしかしてここにいる奴らの副隊長に連絡するからオイラには直接連絡しなくてもいいとか思ってるんじゃねえだろうな。舐めてやがる)


 苛立ちながら床を踏みつけていたデップだったが、しばらくの間床に八つ当たりすると石造りの巨大な祭壇の近くに座りあくびをし始めた。


(……ねむい。警戒しっぱなしだったからなぁ。疲れたぜぇ。……ちょっとくらいなら寝てもいいかな。何かあれば部下達が知らせてくれるだろうし)


 目をつぶり仮眠を取り始めるデップ。その後、数分から十分程舟をこいでいたがやがて目覚める。そしてその途端、周囲の異変に気づいた。


「……あ、あれ……部下が……いねえ……」


 周囲にいた部下達が忽然と姿を消してしまったのだ。驚いたデップは周囲を見渡しながら祭壇周辺を駆けまわり始める。しかしやはり部下の姿はどこにも無い。


(ど、どこ行っちまったんだッ……!? 確かに散開しろって言ったけどよぉ、そんなに遠くに行けなんて言わなかったぞッ!? も、もしかして何か発見して階段の下に降りて行ったのかッ……? け、けど周りにいた奴ら全員いなくなるなんてやっぱ変だ……何が起こってるんだチクショウ……!)


 地団太を踏んだデップはやがて現実を見つめ階段の下に目をやる。


「……下も見てみるしかねえか……人質はどうすっかなぁ……」


 口に猿轡を噛まされ縄で両手両足を縛られた黒髪短髪の男性――ジャックを筆頭に十数人の騎士たちが同じように囚われている場所に目を向ける。全員負傷しているものの意識自体はあるようで、デップを睨み付けている。


(……すぐに戻ってくれば大丈夫か。とにかく状況の確認をしねえと)


 ため息をついたデップは人質に向かって怒鳴る。


「いいかてめえら! 逃げようとするんじゃねえぞ! そんなことしようものなら見せしめに一人か二人くらいぶっ殺すかんな!」


 周囲を警戒しながら階段を降り周りを歩き始める。


(……やっぱりだ……下にいた部下もいなくなってる……く……こ、怖くなんかねえぞ! あんちゃんは俺を見込んでこの仕事を頼んだんだ! ビビッてなんかいられるかよ! 期待に応えてみせるぜ!)


 気合を入れ直していたデップだったが不意に首筋に悪寒を感じ体をねじりながら後方へ跳ぶ。すると先ほど自分の首があった場所の近くの柱に何かが食い込む。その衝撃で石の柱は倒れたが、デップは柱が倒れる大きな音よりもいつの間にか周囲に浮かんでいた四つの緑色の刃の方に目がいっていた。


(……な、なんだこれ……いつの間にこんなもん浮かんで……いや、今考えるべきことはそのことじゃねえ)


 困惑するデップだったがすぐに赤い光を身に纏うとトランクを左手に持ちながら右手で腰のホルスターから『月錬機』を取り出し変形させる。変形した二メートルほどの赤いメイスを振り回しながら飛んでくる四つの刃を打ち落とすと一つの周囲にあった石像の一つに向かって思いきり武器を振り下ろす。


「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


 デップの叫びと共に石像は粉砕されその裏に隠れていたと思われる小さな影が飛び出した。そして周囲にあった五メートルほどの石像の上に跳び乗った影に対してメイスを向けながら威嚇するように吠える。


「て、てめえ何者だ!? お、オイラは『ラクロアの月』の幹部補佐なんだぞ! こんなことしてタダで済むと思うなよ!」


 周囲は火で照らされていたものの、上の方は薄暗かったため姿をはっきりと見ることは出来なかったがその影が人であることはわかった。ゆえに若干上擦りながら恫喝する、すると影の人物はゆっくりと喋り始めた。


「……へえ。幹部補佐なんだ。なるほど、それじゃあ避けられても別におかしくはないか。さっきの連中とは実力が違うわけだ」


「さっきの連中だと……ま、まさかオイラの部下のことか!? オイラの部下達をどうしやがった!?」


「さあね。もう二度とアンタの前には現れないことだけは確かだよ」


 そう言うと影は柱の上から地面に降り立ちゆっくりとその姿は明らかになる。それを見たデップは忌々し気に現れたその人物の名を呼んだ。


「てめえ……ブラッドレディスッ……!」


「どうも。初めましてだね」


「どうやって潜り込みやがった!? カーティス三兄弟がここに来るまでの森で侵入者を見張ってたはずだぞッ!?」


「ああ、あの三兄弟ならたぶんもうやられてるんじゃないかな。相手が悪かったね」


「……ッ! ……まさか……ラグナ・グランウッドが……ぐゥゥゥッ! だ、だがてめえは判断を誤ってるぜブラッドレディス! 死んでるのはラグナ・グランウッドの方だ! なにせカーティス兄弟は『魔王種』をあんちゃんから借り受けてるんだからな!」


「……『魔王種』? あんちゃん?」


「あ……な、なんでもねえよボケ! 今のは忘れやがれ!」


 鋭い眼光で睨み付けてくるブレイディアに対してデップは自らの失言に焦りながら手に持ったメイスを硬くに握りしめた。



 ブレイディアは分離した刀身をデップの周囲に漂わせながら思考を巡らせる。


(さっきのアイツの発言……気になるけど……それよりも今は別の事の方が気がかり……)


 ブレイディアが懸念しているその内容は人質になっていた騎士たちの事である。


(……さっきこいつが下に降りて来た後すぐに上の祭壇に上って人質の拘束を外して応急処置を施したけど全員を連れてあのまま逃げることは出来なかった。あの傷じゃすばやく脱出することは不可能。おそらくこの男がその前に戻って来てしまうだろうからね。だから私が注意を引いている間になんとか自力で逃げてもらうしかない。一応捕まってた彼らにもそう説明したけど……逃げ切れるかな。とりあえず囚われてた騎士たちが逃げるまでの時間を稼がないと。でも……問題はこの男の力)


 赤い光を全身から発するデップをブレイディアは注意深く観察した。


(……不意打ちをかわしたことや発せられる『月光』の輝きを見るにさっき倒した連中に比べれば確かに強い。……でも、見た感じ今の段階ではそこまで強くはなさそうに見える。けど……こいつは自分を幹部補佐と言った。その話が本当なら弱いはずは無い。……ラグナ君が以前戦ったっていうレインって幹部補佐の男は『特異体質者』だったらしいけど……かなりの強敵だったらしいし。こいつも同じか、もしくは別の力を隠し持っている可能性がある。気は抜けない)


 ブレイディアが相手の出かたを窺っているとデップが先に動いた。


「と、とにかく部下達の仇は取らせてもらうぜ、ブラッドレディスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ……!!!!!」


 デップは吠えると飛んでくる刃をかわしながらブレイディアに突撃してきた。勢いよく天に掲げられ振り下ろされたメイスを見切り避けたものの地面を吹き飛ばすような衝撃の余波を受け上に飛ばされる。そのまま空中で態勢を立て直し地面に着地するが、直後に術が唱えられる。


「――〈オル・エクスプロージョン〉ッ……!!!!!」


 メイスの先端から放たれた五十センチほどのオレンジ色の火球はブレイディアに届く寸前に滑空する刃の一つに貫かれるも、その瞬間に大爆発を起こし周囲は炎上する。爆風で柱に叩き付けられた女騎士を嘲笑うようにデップは言い放つ。


「どうだ、オイラの術はよお! 噂に名高い『爆炎』のデップとはオイラのことよ!」


「……そんな噂聞いた事ないけどね。地元で有名な噂なの?」


「う、うるせえ! 減らず口を叩いてられるのも今のうちだけだ! オイラの術をもう一発喰らえば憎まれ口も言えないだろうよ!」


 赤い『月光』をデップが纏ったのを見たブレイディアは急いで立ち上がると走り始める。それを見たデップは鼻を鳴らし追いかける。二人の追いかけっこは数分と経たずに終わり、戦いの舞台は遺跡内部の巨大な柱が乱立する場所へと移る。



 デップは柱がそびえ立つ中心部で見失ったブレイディアを探していた。


「……どこいきやがったブラッドレディス……こそこそ逃げ回りやがって……ッ! 出てきやがれッ!」


 苛立ちながら辺りを見回していると柱を擦るような音が聞こえその方向に目をやると緑色の光の糸で繋がった四つの刃が柱の裏から飛び出してきた。驚いたデップが後方に跳び退くと、刃は柱を削りながら戻って行く。当然その方向に走り刃を追いかけるも再び見失う。見失った直後、今度は別の方向から同じように柱をえぐりながら刃が現れたためメイスで殴り飛ばす。すると鼻先を殴られた剣は再び後退する。その後、場所を変え同じように何度も何度も執拗に柱を這う鋭利な緑の蛇に襲われ続けることになったことが原因か、やがてストレスは限界に達した。


「こ、この野郎ッ……!!! いい加減にしやがれッ……!!! おかしな武器使ってチョロチョロ攻撃することしか出来ねえのかッ!!! 出て来ねえならもういいッ!!! ここら辺一帯をまとめて吹っ飛ばしてやるッ……!!!」


 デップが怒りに任せて術を発動しようとしたその時だった、突如上空から声が響く。


「――こっちだよ」


 デップが声のする方向に目を向けると空気の膜に包まれたブレイディアが宙に浮かんでいた。


「お望みどおり出て来たよ。決着つけようか」


 上から見下ろすように言うブレイディアに対してデップは忌々し気に言う。


「へッ、制空権を握ったつもりかよ! 言っとくがその選択は悪手ってやつだぜブラッドレディス!!!」


 デップはニヤリと笑うと空中にいるブレイディアにメイスを向け唱える。


「〈オル・エクスプロージョン〉ッ!!!」


 すると六つの火球がメイスから同時に放たれ宙に浮かぶブレイディアを囲みながら接近する。それらの火球は先ほどと同じように全て飛翔する剣に貫かれるも、先ほどよりも強力な爆破の際の衝撃波によって空気の膜ごと吹き飛ばされ遠くの壁に激突し小さなその体は地面に落下した。


「へッ、ざっとこんなもんよ。火球は一つしか飛ばせないと思ったお前の判断ミスだぜ。やっぱりオイラは強いな。オイラの前ではブラッドレディスさえ赤子同然――」


 言っている途中で近くにあった巨大な柱がぐらぐらと揺れ始めゆっくりとデップ目がけて倒れて来た。それを見て驚愕しながらも反射的に避ける。


「うおおおおおおッ!? び、びびったぁ。な、なんだ。もしかしてオイラの術の余波で倒れて来たのか……危うく下敷きになるところだったぜ……偶然の産物ってやつか……恐ろしいぜ……って……ちょッ!?」


 独り言をつぶやいている途中でさらに別の柱がデップ目がけて倒れて来たためこれも間一髪避ける。


「う、うそだろ!? また倒れてきただと!? 老朽化してるとはいえなんでこう立て続けに――うおッ!?」


 さらに三本目、四本目と柱が倒れて来たためデップは急いでその場を離れるため走り始める。その心の中は焦りと動揺で満たされていた。


(どうなってやがる!? いや、確かに衝撃波はそこそこ威力があったかもしれねえが、こんなデカい石柱を倒すほどじゃあなかったはずだぞ!? どうして……ま、まさか――ッ!?)


 必死に走りながら倒れてくる石柱をかわしていたデップは倒れてくる柱の一部分に注目した。それは何かで削られて様な部分である。そして先ほどブレイディアが剣を蛇のように操り石柱を削りながら攻撃してきたことを思い出す。


(……あ、あの女……こうなることを計算して柱を削ってたのか……!? それで……オイラの術を利用することで……この状況を作り出したってのかッ……!? オイラは……それにまんまとひっかかって……)


 己で出した推論に対して頭を振りながら否定し走る。


「嘘だあああああああああああああああああッ!!!! オイラが乗せられるなんて……ぐ、くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 必死に走るも柱がドミノ倒しのように前後左右から倒れてくる状況の中、とうとう倒壊に追いつかれそうになる。


(げ、『月光』さえ使えれば……術発動後の反動のせいで……)


 倒れてくる柱を避けたことで足がもつれ転んだデップは四方から倒れてくる柱を見ながら絶叫する。


「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


 その叫び声はデップが柱の下敷きになるまで続いた。



 周辺全ての柱が倒壊した現場にやってきたブレイディアはデップの生死を確認し始めるも、姿が見えなかったため自身の思惑通りに事が進んだことを理解した。


(……どうやらうまくいったみたい。捕まってた騎士から事前にアイツの術のことを聞いてたから利用できないかと思ってたけど、こんなに綺麗に作戦にはまってくれるとはね。……でも……アイツの持ってたトランクにたぶん『鍵』か『方舟』とかいうものが入ってるんだろうなぁ……自分でやっておいてなんだけど……掘り起こすのめんどい……)


 ため息をつきながらもなんとか勝利出来たブレイディアは独り言ちる。


「……まあ、相手が実力を発揮する前に片付けられたし、よしとするか。あんまり頭が良くない敵で助かったよ」


 ブレイディアがそう言った瞬間だった――。


「――馬鹿にしたな」


 ――柱の残骸の下から怒りに満ちた声が響く。


 その時、残骸が吹き飛び周囲に赤い粒子の嵐が巻き起こる。


「ッ……!?」


 それを見たブレイディアは驚愕しながら二人の人物を思い浮かべる。


 一人は黒衣に包まれた仮面の男、もう一人は共に暮らす心優しい少年。


 その二人が発生させた現象とまったく同じものを発生させながら瓦礫の下からデップは現れる。その瞳と喉の奥から発せられる言葉は共に憎悪にも等しい感情が込められていた。


「――頭が良くないって言った……つまりオイラを馬鹿って言ったんだ……あんちゃん以外の奴がオイラをバカにした……許せない許せない許せないいいいいいいいいいいいいいいい……うううううううううううううううううううううううううううううううううううッ……!!!!!!」


 そして赤い光を纏いながら嵐の中心にいたデップに向かって粒子が収縮していきやがて二つの光は融合すると同時に爆発した。その衝撃波を受けながら必死に吹き飛ばされないように堪えていたブレイディアは圧縮されたその光を見ながら顔を引きつらせ呟く。


「……『神月の光』……まさか、こいつも……ッ!?」


 驚愕するブレイディアに向けて瑠璃色に輝く瞳を見せながらデップは叫んだ。


「――馬鹿って言う奴のほうが、馬鹿なんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッ!!!!!」


 幹部補佐デップはここでようやく秘めていた力を解放した。     

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