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58話 真相1

 テトアはダリウスのことを静かに喋り始める。


「……ダリウスに『ラクロアの月』がやって来てから俺達住民の生活は滅茶苦茶になった――そうおじさんから聞かされたんだろ? でもそれは間違いだよ。俺達の生活は奴らが現れる前から滅茶苦茶だった」


 ブレイディアはそれを聞いてもさほど動じていなかったが、ラグナは驚き聞き返す。


「どういうことなの……?」


「……俺達ダリウスの住民が鉱山から採れる鉱石を収入源にしてるのは兄ちゃんたちも知ってるよね?」


「うん。でもラフェール鉱山からは『月光石』はおろか他の鉱物も採れなくなってるんだよね? だから別の鉱山から採掘してるって聞いてるよ。それに『月光石』が採れなくなったせいで新しい町を作る計画も中止になったってミリィちゃんからも聞いたんだ」


 テトアは悲しそうなミリィの方を向いた後、ラグナに向き直る。


「……そうか。ミリィは全部話さなかったんだね」


「話さなかったって……どういうことなの?」


「確かにラフェール鉱山は廃坑寸前って言われてる。表向きはね……でもそれは嘘だよ。実際は今でも『ラフェール鉱山』からは『月光石』や他の鉱物が多く採掘されてるんだ」


「え……」


 それを聞いたラグナは絶句し、ブレイディアは顎に手を当てて考え始める。二人の反応を眺めつつテトアはさらに衝撃の事実を告げた。


「……五年前から『月光石』が徐々に採れなくなったってゴルテュスは王都に報告してたみたいだね。でも本当は違う。豊富な資源が採れ続けてたんだよ。けど王都に虚偽の報告をしたゴルテュスは五年前からずっとある場所に『月光石』を横流ししてたんだ」


「横流しって……いったいどこに……」


 ラグナの問いかけに対して口を開いたのは今まで黙っていたブレイディア。


「……もしかしてガルシィア帝国……?」


「……ああ。ゴルテュスは五年前からずっと『月光石』をガルシィア帝国に密輸してたんだ」


「そんな……『月光石』の密輸は重罪だよ……!? それを貴族であるゴルテュス子爵様が行ってたなんて……」


「……事実だよ兄ちゃん。どういう見返りを貰ってたかまでは知らないけどゴルテュスとガルシィア帝国は裏で繋がってた。そしてダリウスの住民はその犯罪の片棒を担がされてたんだ」


「……もしかして……」


「そう……ガルシィア帝国に『月光石』を密輸する手伝いさ。五年前にこの町の住人はゴルテュスの言う正規の取引って言葉を信じてそれからずっとガルシィア帝国に『月光石』を送ってたんだ」


 ラグナは衝撃のあまり言葉を失ったが、ブレイディアはテトアに問いかける。


「……五年前に住民全員が騙されてたってことはわかったけど……今の今までずっと変だとは思わなかったの?」


「もちろん思ったみたいだよ。なんたって『月光石』を送る量が尋常じゃなかったらしいからね。しかも新しい町を作る計画が資金難で頓挫したなんてことを聞かされる始末。こんだけ『月光石』の取引をしているのに利益が出ないなんてありえないだろ。流石におかしいと思った町の住民はダリウスの騎士団支部に相談したんだ。でも……」


「……話を聞いてもらえなかったんだね」


「……騎士団支部の支部長ジョセフはゴルテュスの仲間だったんだ。だから大した対応をしてもらえなかった。それどころか訴え出た住民たちに金を握らせて黙らせようとしたんだよ。でも当然住民の中には自分たちが何かよからぬことの手伝いをしてるんじゃないかって不安に思う人もいた。だからそんな人たちを中心に密かに事態の全貌を調べ上げたんだ。そして全てを知った住民たちはゴルテュスやジョセフを告発しようとした。でも……その動きは潰されたんだ。ゴルテュスに指示された騎士たちによってね。しかもそれだけじゃない。あろうことか奴らは住民たちの家族を人質に取って住民達同士で互いに監視し合うよう強要した。だからダリウスの住民たちは真実を知っても密輸にずっと協力せざるを得なかったんだ。……そんな時だよ、アイツらが現れたのは」


「……『ラクロアの月』か」


「……そうだ。アイツらは現れるや否や武力であっという間に町を制圧した。しかもゴルテュスたちがやってたことを知ってたみたいでさ。脅して自分たちに協力させようとしたんだ。奴らは自分たちがやってきたこともあって王都とかに助けを求められなかったみたいだね。その後はゴルテュスやジョセフ、人質に取られてた町の住人も丸ごと支配下に置いたんだ。それで何をさせようとしてたかは俺も詳しくは知らないけど、なんかの装置を作るために俺達みたいなガキを除いて町の人間の大半をラフェール鉱山に連れて行った」


 ラグナとブレイディアはその話を聞き森で聞いた情報を思い出す。


「ブレイディアさん……その装置って……」


「たぶん『αタイプ』とかいうのだろうね。……ねえ、テトア君。フィックスさんからダリウスの南にある洞窟に町の人たちが捕まってるって聞いたんだけど」


「兄ちゃんたちをハメるための嘘だね。傭兵の人たちと同じだ」


「どういうこと?」


「兄ちゃんたちも町で二回襲撃に遭ったんじゃない?」


「……良く知ってるね」


「そういう作戦なんだよ。二回襲撃して敵の数を減らすんだ。その後仮に生き残ったとしても碌に休めずヘトヘトになるだろ。そんなところで本当の町の住民が接触。真相っていう名の嘘を話して油断させたところで全滅させる。そんな筋書き。実際それで傭兵の人たちは見事に全滅したようだし」


 その話を聞いたラグナはショックを受けたようだが、ブレイディアは平然としていた。


「そんな……フィックスさんが俺達を騙してたなんて……」


「……なるほどね。まあちょっとおかしいとは思ってたけど」


「え……ブレイディアさんは気づいてたんですか……?」


「気づいてたっていうかちょっと違和感があったんだ。フィックスさんたちはこの廃墟群に逃げて来たって言ってたけど、話を聞く限り逃げて来れるとは思えなかったんだよ。フィックスさんの話だと、町の住人の家族が人質に取られてるってことだったでしょ? でも人質がいる状態で逃げられても、その人質を盾にされたらまたすぐに捕まっちゃうよ。それにこんな隠れやすい場所が敵に知られていないとは思えないんだよね。……でも彼らは逃走に成功して今までこの廃墟群に潜伏していた。ちょっとおかしくない?」


「……確かに……逃げた人たちが助けを呼ぶ可能性を考えれば敵が人質を利用しないわけないですもんね」


「うん。それに妙なことも言ってたし」


「妙なこと、ですか……?」


「そう。フィックスさんは私たちのことを疲労困憊で休んだ方がいいみたいなこと言ってたでしょう?」


「ええ。森からずっと戦いっぱなしで疲れてるだろうって……あ……」


「ラグナ君も気づいたみたいだね。そうなんだよ。どうしてフィックスさんは私たちが森で戦ってたって知ってるんだろうね。私もラグナ君も一言も森について喋ってないのにさ。森から私たちの様子を常に窺ってたって可能性も考えたけど、ラグナ君が『月光』を身にまとって感覚を強化した時に人の気配は私達を除けば敵のものしかなかったんでしょう? つまりフィックスさんがそのことについて知ってたのは――」


「……『ラクロアの月』から情報を貰ってたからってことですね……」


「おそらくね。まあ正直話を聞いた時点ではただの推測だったし、こうして真相を聞くまでは私も自分の考えにそこまで自信は持てなかったけどね。だから自分の考えを裏付けるためにさっき廃墟の散策に出かけたんだ。もし私たちを襲撃するつもりなら油断して疲れ切ってる今夜だと思うし。敵がどこかに隠れてるんじゃないかと思ってね」


「ああ、それで休まずに廃墟を調査してたんですね」


「そゆこと。んで、一つだけやたらと警備が厳しい建物があったでしょ?」


「……そういえば……」


 ラグナは見張りが立っていたコンサートホールに似た建物を思い出す。


「……もしかしてあのコンサートホールみたいな建物ですか?」


「正解。テトア君から話を聞いて疑惑が確信に変わったよ。間違いなく敵はあそこに隠れてる。こんな時間に見張りがいたのは建物の崩落から人を守るためじゃなくて、敵を隠すためだったわけだね。ま、こんな時間に見張ってる時点で建物の崩落うんぬんって言い訳はちょっと厳しいと思うけど」


 あくびをしながらそう言うブレイディアにラグナはあらためて驚かされる。


(……本当にすごい洞察力だ。ブレイディアさんが一緒にいてくれて本当に助かった。俺一人だけだったらもう何回死んでるかわからないな)


 ラグナが頼りになる上司に尊敬の眼差しを向けていると、テトアも感心したようにブレイディアに話しかけた。


「その通りだよ。あのコンサートホールに『ラクロアの月』は隠れてる。……お前、すごいんだな。子供のくせに」


「だから私は子供じゃない大人のお姉さんなのぉぉぉ~! 二十一歳って言ってるのにぃぃぃ~! うううぅぅぅ~! ラグナ君、なんとか言ってやってよぉぉぉ~!」


 先ほどまでの鋭い考察や洞察力はどこえやら、子供のように半泣きになりながら腕をブンブン振るうブレイディアに苦笑したラグナはテトア達に説明するべく口を開く。


「あのね二人とも。ブレイディアさんは本当に俺より年上なんだよ? ちゃんと身分を証明するものだって持ってるんだ」


「ほら見て! 免許証だよ!」


 ブレイディアが財布から取り出した免許証を疑わしそうに見たテトアは一言告げる。


「……これ偽造した免許証なんじゃないの? 騙されちゃ駄目だよ兄ちゃん。俺、前に偽造免許証見たことあるけどそれとそっくりだもん」


「え、そうなのッ!? これ偽造なんですかブレイディアさんッ!?」


「なんでラグナ君の方が揺らいじゃうのッ!? ってゆーか偽造じゃないから本物だからぁぁぁ~!」


 錯乱したブレイディアが落ち着くまで少々時間がかかった。



その後、落ち着きを取り戻したブレイディアは咳ばらいをした。


「と、とにかくこれで大まかな状況は理解できたね。フィックスさんたちは脅されて私たちを罠にかけようとしてた。でもまだ気になる点がある。それは君達だよ、テトア君、ミリィちゃん」


「……俺達がなんだって言うんだよ」


「気になる点その一、どうして君たちはこんなところにいるのか。気になる点、その二、なぜこんな隠れ家みたいな家を知ってたのか。教えてくれる?」


「…………」


 口をつぐんでしまったテトアを気づかうようにラグナは優しく話しかける。


「悪いようにはしないからさ、教えてくれないかな?」


「…………」


 ラグナの眼をじっと見つめていたテトアだったが、やがてため息をつく。


「……わかったよ。話す。けどアンタたちを完全に信用したわけじゃないからな。ゴルテュスやジョセフと繋がってないってことがわかったから話すだけだ」


「うん、わかってる。ありがとう」


 ラグナのお礼の言葉を聞いたテトアは渋々と言った様子で話し始める。


「……おじさんたちが『ラクロアの月』の言いなりになってるのは、人質を取られてるからって理由だけじゃない。アイツらの言葉を信じてるからなんだ。全てが終わればこの町を解放するっていう言葉をね。でもそんな保証なんてどこにもないだろ……だから隙を見て俺とミリィは逃げ出したんだ。幸いなことにガキが二人逃げた程度じゃ騒がれなかったよ。大したことは出来ないと思ったんだろうね。でも流石に警備が厳重で別の領地には逃げられなくて、仕方なくこうして隠れてるってわけだよ。それで隠れながら脱出の機会を窺って情報を集めてるのが現状。傭兵たちのこともそれで知ったんだ」


 その説明を聞いたブレイディアは首をかしげる。


「それってミリィちゃんとだけでも逃げようとしてたってことだよね? でも逃げた後はどうするつもりだったの? まさか子供二人だけで生きていけるとかは思ってないよね?」


「わかってるさ、そこまでバカじゃない。少しの時間があればいいんだ、このデータを渡す時間さえあれば」


 テトアはポケットから透明なケースに入れられた黒いUSBメモリを取り出し見せる。ラグナは取り出されたそれをまじまじと見つめた。


「そのUSBにどんなデータが入ってるの?」


「ゴルテュスやジョセフが『月光石』を密輸してたっていう確固たる証拠だよ。これをゴルテュス領から少し離れた場所に住んでる父ちゃんの古い友達に渡すことが出来ればもうそれでいい。その人は正義感の強いフリーのジャーナリストらしくてさ、その人ならきっとこの情報を世間に公表してくれるはずなんだ。そうなればゴルテュスたちは確実に破滅する。仇を取れるんだ、父ちゃんと母ちゃんの……」


「仇って……まさか……」


「……ああ。俺達の両親は殺されたんだ。アイツらにね」


 幼い少年の言葉に二人の騎士の表情は険しくなった。

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