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43話 七大貴族

 レギン王国・王都パルテンの王城――豪華絢爛な造りの会議室にて六人の貴族が円卓を囲みながら会議が始まるのを待っていた。だがまだ会議を始めるには人数が足りていなかったため全員が揃うまで六人は手持ち無沙汰を誤魔化すように本を読んだり置かれていた資料を読み過ごしているようだった。そんな退屈そうな雰囲気が流れる中で声を上げたのは紫色の長い髪を結い上げ、赤い華美なドレスに身を包んだ細身で中年の女性。


「……それにしてもベルディアス卿もいるのね。療養中って聞いてたけど案外元気そうじゃない」


「……おかげさまでな」


 栗色の髪をオールバックにし、黒いスーツを着た鋭い目つきの初老の男――ベルディアス伯爵は不貞腐れたように呟いた。それを見た中年の女性は持っていた扇を広げ口元に当てて笑う。


「それにしても本当によかったわ。私――お葬式にいくら包んで行こうかと考えてしまったもの」


「……なんだと……」


 挑発を受けたベルディアス伯爵は女性をギロリと睨み付ける。


「あらあら、お怒りかしら? でも王都の防衛機能が低下してるからといってアルシェに逃げて敵の策にまんまと利用されるなんてね。本当に滑稽としか言いようがないわね」


「……貴様ッ……!」


ベルディアス伯爵が声を荒げ立ち上がった瞬間、女性と伯爵の間に座っていた温厚そうな小太りの男がなだめるように声をあげる。


「まあまあ。落ち着いてくださいベルディアス伯爵。ルルぺルド女伯もそのあたりで……」


 白いタキシードのポケットからハンカチを取り出し汗をぬぐい始めた小太りの男は二人を仲裁しようとしたが、ベルディアス伯爵は怒りが収まらないのか再び声をあげる。


「止めないでいただきたいエバーダート伯爵! この女狐は会議のたびに私に突っかかってくる! もう我慢の限界だ! そもそも由緒ある七大貴族の家督を女が継ぐなどルルぺルド家は何を考えているのだッ!」


「相変わらず考え方が古臭いわねぇ。今の時代優秀ならば男だろうが女だろうが関係ないわ。私は実力で家督を勝ち取ったのよ。貴方みたいに何の苦労もせずに家督を継いだお坊ちゃんとは違う。だいたいそんなカビの生えた考え方しかできないから新しい事業を始めてもすぐ失敗するのよ」


「お、おのれぇ……! 言わせておけば……!」


「何? やる気?」


 中年の女性――ルルぺルド女伯爵とベルディアス伯爵の間で再び始まった喧嘩を鎮めようと小太りの男――エバーダート伯爵は気まずそうに金髪の七三わけを手で弄びながら口を開いた。


「お、お二人とも……もうやめましょう。ここは陛下や七大貴族の当主が一堂に会する場でもあるわけですし……問題になりますよ……」


「多少の無駄話くらい平気よ。まだ陛下はいらっしゃっていないでしょう。来ていない七大貴族の当主もいるしね。……それに七大貴族の当主が会する場に、一人当主じゃない者が混じっているようだけど。それは問題にはならないのかしら?」


 ルルぺルド女伯が顎をやった場所には白いスーツに身を包みにこやかに微笑む青髪の美青年――レイナードが着席していた。


「それで、そろそろ聞いてもよろしい? レイナードお坊ちゃん、どうして貴方がそこにいるのかしら?」


「ああ、すみません。先にご説明するべきでしたね。陛下には先だってお伝えしたのですが、父が急病のため来られなくなったので私が代理でこうしてやって参りました。陛下や他の七大貴族当主の方々が参加するこの会議、若輩者の私には荷が勝ちすぎていると思いますが、どうかご理解ください」


「へぇ……キングフロー卿がねぇ。持病が悪化でもしたの?」


「ええ。皆様もご存じの通り父は心臓病を患っているうえ最近はその病気が悪化してきているのです。これから先もこのように私が代理として出席することも多くなると思いますので、何卒よろしくお願いします」


「そうなの。それは大変ねぇ。でも無理しなくてもいいのよ。お父上がご病気でさぞ心配でしょう? なんだったら会議は欠席でもいいのよ。お父上のそばについていてあげたら? 大丈夫、貴方がいなくともなんの問題も無いのよ? 今貴方自身が言ったように少しばかり貴方には荷が重いと思うしねぇ」


 いじわるそうな笑顔で微笑むルルぺルド女伯にレイナードは苦笑するが、反論することはなかった。代わりにベルディアス伯爵が声をあげる。


「……別に問題ないだろう。レイナード殿はキングフロー家次期当主に内定している。この会議に出席する資格は十分にあるはずだ」


「これは珍しいこともあるものね。こういう時真っ先に『神聖なる七大貴族の会議に代理を出席させるとは何事か!』――とか言って怒鳴り散らしそうなベルディアス卿がお坊ちゃんの肩を持つなんて。……ふーん……なるほどねぇ……」


「……なんだ。言いたいことがあるのならハッキリと言え」


「べっつにー」


「……本当に腹の立つ女だッ……!」


 含み笑いを扇で隠すルルぺルド女伯に対してベルディアス伯爵は歯噛みしながら怒りを露わにした。それを見たエバーダート伯爵はもはや自分だけでは止められないと思ったのだろう、残る七大貴族のうちの二人に助けを求める。


「シューマイン侯爵、サリュートン侯爵、お二人からも何か言ってくださいッ……!」


 エバーダート伯爵の言葉を受け最初に反応したのは肩まで伸びたおかっぱ頭の黒髪を前わけにした痩せコケた黒スーツの男――シューマイン侯爵。寡黙なその男は手に持って眺めていた資料から目を離さず呟く。


「勝手にやらせておけばいい。いつもの事だ」


「ヒヒヒ、そうじゃそうじゃ。どうせ陛下たちがお見えになるまで暇なのだから好きにさせておけばよい」


 シューマイン侯爵の言葉に不気味な笑いを交えて同意したのは頭頂部が禿げあがった白髪の老人――サリュートン侯爵だった。グレーのスーツに身を包み、その上から茶色い羽織を着た老人は右手に持った杖を床にコンコンと打ちつけながら楽しそうに二人の喧嘩を観戦しているようだ。二人が役に立たないことを理解したエバーダート伯爵はうなだれながらため息をつく。


「……これではまた『あのお方』に叱責されますよ……」


 エバーダート伯爵が嘆いていると、会議室の扉が外側から開けられた。そして二人の人物が中へと入ってきたのだ。一人は小柄で短い金色の髪にパーマがかかった中年の男性で、その服装は黒を基調とした礼服に宝石がちりばめられた大変豪華なものだった。さらにその華美な服の上から龍の刻印が施された赤いマントを羽織っており、その場にいた誰よりも高貴な雰囲気を漂わせている。事実その場に着席していた七大貴族たちは男性を見た瞬間、一斉に立ち上がり恭しく頭を下げた。


「よい、面を上げよ」


 華美な衣装に身を包んだ男性がそう言うと、六人は頭を上げた。だが頭を上げると同時にその場に緊張が走る。鋭い眼光が六人の貴族たちを睨んでいたのだ。だがその獣のよう瞳は華美な服装の男性のものでは無い。その後ろで影のように控えていた大柄な老齢の男性の視線が六人を射抜いていたのだ。右目と額を覆い隠す黒い眼帯を付け金色の刺繍が施された黒い礼服を着たその大柄な男性は一旦視線を切ると、肩まで伸びウェーブのかかったダークグレーの髪を揺らしながら歩き円卓に備え付けられていたもっとも豪華な椅子を引いた。


「陛下、こちらへどうぞ」


「うむ、すまないな」


 陛下と呼ばれたマントを身に着けた男――レギン国・国王アルバス14世が椅子に座ったのを確認した眼帯の男は再度六人を睨みながら唸るように言う。


「……貴様らいったい何を騒いでいた。廊下まで声が響いていたぞ。特にルルぺルド女伯、ベルディアス伯爵。まさかまたくだらない言い争いをしていたわけではないだろうな?」


「……ただちょっとじゃれていただけよ。ねえ、ベルディアス卿」


「……ああ。その通りだ」


 言い訳染みた言葉に眉根を寄せた眼帯の男だったが、ルルぺルド女伯が続けて言う。


「まあ少し騒ぎ過ぎたのは事実ね。今度からは気を付けるわ、ごめんなさいユエリス卿」


「……申し訳ありませんでした、ユエリス侯爵」


 ルルぺルド女伯とベルディアス伯爵が謝罪の言葉を述べると、眼帯の男――ユエリス侯爵はため息をついた。


「…………いいだろう。これ以上陛下をお待たせするわけにはいかない。ただし次に貴様らの騒がしい声を聞いたその時は私の執務室で詳しい事情を聞かせてもらう。いいな?」


「……わかったわ」


「……わかりました」


「……では会議を始めよう」


 ユエリス侯爵が国王の隣に座ると同時に会議が始まった。


 当然のように取り仕切るのはユエリス侯爵。


「まず最初の議題だ。王都の軍事と防衛を司る人工知能『メイガス』の復旧についてだが、未だに四割程度しか回復していないのが現状。二日前に『ラクロアの月』によって引き起こされた魔獣による王都制圧作戦はかろうじてこちらが勝利したが、いつ同じことが起こるかはわからない。ゆえに早急に手を打つ必要がある」


「手を打つ必要があるって言ってもねぇ……人工知能に関しては完全に畑違いだし。私たちに出来る事なんて技術者を増員するか、資金提供くらいしかないけど」


 ルルぺルド女伯の言葉に対して口を開いたのはシューマイン侯爵。


「凡庸な技術者の数をどれだけ増やしても意味などないだろう。実際王都にいる科学者の大半を『メイガス』の復旧にまわしているが一月前から大して結果は変わっていない。それよりも『メイガス』を作った技術者たちを探した方がいいと思うが」


「ヒヒヒ、無駄じゃよ。『メイガス』の基礎理論を作った男――コンプロス博士はとっくに死んでおる」


「だが製作に関わった者たちはまだ生きているだろう?」


「そうじゃな。しかしそいつらはコンプロスの指示通りに動いた助手に過ぎん。前にそいつらのインタビュー記事を読んだが、コンプロスは重要な作業をほぼ全て己の手で行っていたらしい。ゆえに『メイガス』誕生の重要な秘密は誰一人知らないそうじゃ。論文も大半をコンプロスがどこかに隠してしまったらしくほとんど残っていないらしいしの。つまるところコンプロスという稀代の天才の理論を現状残っている資料だけで理解できる者でなければこの事態を打開は出来んだろう」


 シューマイン侯爵とサリュートン侯爵の会話を聞いた他の者たちは皆難しい顔で口を閉ざした。そんな中、沈黙を破ったのはベルディアス伯爵。


「……ハロルド・エヴァンスに協力を要請するのはどうだろうか」


 その言葉によって全員の視線がベルディアス伯爵に向く。


「……『ルナシステム』や『月錬機』を生み出したハロルドならば『メイガス』を直すことが出来るかもしれないと私は考えている」


「し、しかし……ハロルドは『メイガス』にウイルスを感染させた容疑者の一人ですよッ……!? そのような者に『メイガス』の修理を任せるのは危険なのではないですか……?」


 心配そうなエバーダート伯爵の言葉にベルディアス伯爵は大きく頷く。


「確かに。エバーダート伯爵の心配も最もなことだ。だからこそハロルドには直接修理させるのではなく、あくまでも助言という形での要請を考えている」


「助言……と言いますと……どのように?」


「モニター越しに『メイガス』の状況を見せ助言をもらう形にする、ということだ。もちろんハロルドは牢獄からは出さない。実際に修理を行うのは王都の技術者ということになるな。それならばおかしな真似は出来ないだろう。それに……仮におかしな真似をしてきたとしても問題ない。我々は奴の弱みを握っているのだから」


 ベルディアス伯爵の言葉に反応したのはユエリス侯爵。


「弱みか……ラグナ・グランウッドのことだな」


「ええ。協力を拒否、もしくは我々に対する反逆と取れる行為をした場合はラグナ・グランウッドに危害が及ぶことを暗に示せば協力せざるを得ないはず。……いかがでしょうか、陛下?」


「う、うむ……そうだな……」


 アルバスは困ったように視線を彷徨わせた後、ユエリス侯爵の方を向いた。


「ユエリス侯爵、貴殿はどう思う?」


「……そうですな。悪くはないかと。現状最優先すべきは『メイガス』の完全復旧。使える物は全て使うべきでしょう」


「そ、そうか。ユエリス侯爵が言うのなら間違いないな。……では決を採る。ハロルド・エヴァンスに協力を要請することに異議のある者は挙手を」


 アルバスの問いの対して他の貴族たちは沈黙で答えた。


「……では『メイガス』の修復に関してはハロルドに協力を要請するという形で進めることとする。……それではユエリス侯爵、次の議題を」


「かしこまりました。次の議題は『ラクロアの月』が潜伏し次なる計画を推し進めているというラフェール鉱山についてだ」


「ラフェール鉱山……確か昔は『月光石』が多く取れたのよね。でも今は『月光石』はおろかまともな鉱石すら取れず廃坑寸前とか。王都がディルムンドに制圧されていた時に入り込んだんでしょうけど……また厄介な場所に潜伏してくれたものね」


 ルルぺルド女伯の言葉に頷いたのはシューマイン侯爵だった。


「そうだな。ラフェール鉱山はガルシィア帝国との国境付近に存在する。下手に騎士や兵器を増員し動かそうものなら軍事行動と受け取られかねない」


「ヒヒッ、そうじゃの。たださえ近年領土をめぐってガルシィア帝国との関係が悪化しておる。仮に『ラクロアの月』のことを話したとしても信じてもらえるかどうか。これ以上の問題行動は両国の間に亀裂を入れかねんからのう」


「それに『メイガス』の復旧が済んでいない今、王都の戦力を遠い場所にあるラフェール鉱山にまわすわけにもいかないですよね……かといって国境付近の軍事基地から人をまわせば、国境の守りが薄くなりますし……そうなるともう麓の町にいる駐屯騎士に任せるしか……」


 サリュートン侯爵に続いてエバーダート伯爵が呟くと、ベルディアス伯爵が意を決したように口を開く。


「よろしいでしょうか、陛下」


「ん? どうかしたのかベルディアス伯爵」


「……ぶしつけな願いとわかっておりますが、ラフェール鉱山の件、ベルディアス家に任せていただけないでしょうか?」


「ベルディアス家に、か?」


「はい。……この度は私の不手際のせいで皆さまには多大なご迷惑をおかけしました。それゆえ汚名返上の機会を与えていただけないかと」


「そ、そうだな……しかし……」


 アルバスはユエリス侯爵の方を見つめ、眼帯の男はそれに応えるように話し始める。


「……何か策があるというのか?」


「策、と呼べるほどのものではありませんが。まずラフェール鉱山へ向かわせる兵隊については、傭兵などを雇い入れるのがよいと思います。ラフェール鉱山付近で魔獣が大量に発生したという偽の情報を流しそれを討伐するために傭兵たちが集まった、という形ならば違和感はないでしょうし騎士では無く金目当ての傭兵ならばガルシィア帝国の警戒に引っかかることはないでしょう。ああ、もちろん傭兵の選別や派遣にかかる資金は全てベルディアスから支払いますゆえご安心を」


「だが有象無象の傭兵程度では『ラクロアの月』を倒せるとは思えぬが」


「おっしゃる通り。ですが先遣隊として敵の戦力を測る物差し程度にはなるでしょう。それに多少でも敵の戦力を削ることが出来れば御の字です。……そして敵の戦力や能力を大まかにでも理解した後に、本命を送り込みます」


「――『黒い月光』の使い手か」


「そうです。ラグナ・グランウッド、そしてブレイディア・ブラッドレディスの両名を派遣し、街の駐屯騎士と共に『ラクロアの月』殲滅に当たらせます。派遣する人数は最小限ですし、ラグナ・グランウッドは『黒い月光』という強大な力を、ブレイディア・ブラッドレディスは豊富な戦闘経験を持っています。この二人ならばやり遂げることが出来るかと」


 ベルディアス伯爵の言葉を聞いたユエリス侯爵は手袋をはめた手で顎をこすりながら考えた後、ゆっくりと口を開いた。


「……なるほどな。作戦としては問題ない。だがベルディアスだけに任せるというのは少々無謀だ。実際貴様は一度失敗し、醜態をさらしている。そのような者に全てを任せるのは危険だと私は思うが」


「ッ……!」


 ユエリス侯爵に言われベルディアス伯爵が悔しそうに顔を歪めたその時だった、今まで黙っていた青髪の青年が手を挙げた。


「よろしいでしょうか、ユエリス侯爵」


「……どうした」


「実は今回父から言付けを預かってきているのです。聞いていただけないでしょうか?」


「……言ってみろ」


「ありがとうございます。ではまずラフェール鉱山の件ですが、キングフロー家もベルディアス家に協力したいと父は言っていました」


「……キングフロー伯爵がか?」


「ええ。実はベルディアス伯爵は今回アルシェで囚われたことを恥じて父に相談に来たのです。恥をすすぐ方法は無いかと。そして父はベルディアス伯爵の熱意に押され相談に乗ったそうです。そこで父と話し合った結果、先ほどのような提案をするようにとベルディアス伯爵は父に言われたのです。ですがもしベルディアス伯爵だけでは提案が通らなかった場合、キングフロー家も協力すると言え、と父から言いつけられました」


「なぜキングフロー伯爵がベルディアス伯爵の肩を持つのだ……?」


「ベルディアス家のジュリアさんとうちのリリスは級友同士。頭を下げて助けを求めてきた相手を無下にしてしまえば娘の代にまで禍根を持ち込むかもしれないと父は考えているようです」


「…………」


「……ラフェール鉱山の件、キングフロー家も責任を以て当たらせていただきます。ですので、どうかベルディアスとキングフローに任せていただけないでしょうか?」


「…………」


 ユエリス侯爵の鋭い視線がレイナードを射抜くも、青髪の青年の笑顔は終始絶えることはなかった。ゆえに眼帯の男は視線を逸らすとアルバスの方を向いた。


「陛下。ベルディアスとキングフロー、七大貴族の二つが協力して事に当たるというのなら問題ないと思いますが、陛下はどうお考えでしょうか?」


「う、うむ。そうだな。私も問題ないと思うぞ。此度の件、ベルディアス家とキングフロー家に任せようではないか。では決を採ろうぞ――」


 その後二人の提案が承認された後も会議は続いた。  




 レイナードが王城を出ると、そこには黒い車の前で同色のスーツを着たサラが待っていた。


「お疲れさまでしたレイナード様。どうぞ」


「ありがとうサラ」


 サラが後部座席の扉を開けるとレイナードが乗り込み車が発進する。


 しばらく走っているとレイナードが運転席のサラに声をかける。


「しかし本当にいいのかい? 休日を返上して働くなんて。私は助かるが」


「ラフェール鉱山の件が解決したらキチンとお休みをいただくので大丈夫です。……それより今日の会議はどうでしたか?」


「まずまずと言ったところかな。概ね要求は通ったから成功と言っていいだろう。ベルディアス伯爵が私の指示通り喋るか心配だったから会議について行ったが、問題なかったよ」


「ベルディアス伯爵に要求を通させたのですか?」


「ああ。新参者の私が言うよりベルディアス伯爵が発言したほうが要求も通りやすいだろうしね。今回は一部を除いて大人しくしていたよ。おかげでうまくいった。ラフェール鉱山の件はベルディアスとキングフローが取り仕切ることになったよ。ハロルドへの協力要請も行えるようになった。その後も手はず通り色々とベルディアス伯爵に国王たちと交渉してもらってね、ハロルドには『メイガス』修復以外にも色々と手伝ってもらえそうだ。……あと頼んでいた調査はどうなっているかな?」


「ディルムンドに王都が占領された時の七大貴族の動向ですよね? 申し訳ありませんがまだ時間がかかりそうです」


「そうか。まあそこまで急ぐものでもないけど、引き続き頼むよ」


「わかりました。……しかしなぜ今になってそのようなことを?」


「七大貴族の当主が全員ディルムンドに洗脳されていたというのがどうも引っかかってね。ベルディアス伯爵とエバーダート伯爵はともかく他の四人――特にあの男がそう簡単に洗脳されるとは思えないんだ」


「あの男……現特務大臣――セリアス・フォン・ユエリスですね」


「ああ。奴がディルムンド程度に裏をかかれるとは思えない」


「……レイナード様と同じように影武者を使って逃れていたのでしょうか」


「かもしれないね。まあ別の方法かもしれないが……いづれにしろディルムンドが動いていた時の七大貴族の動向――特にユエリス侯爵については念入りに調べてほしい。ラフェール鉱山の件が片付いて休暇を終えた後で構わないからさ」


「かしこまりました」


 レイナードはその後黙ると、会議室で見た眼帯の男を思い出していた。


(……いづれ必ずその座から引きずり降ろしてやろう。覚悟しておけ)


 車の窓に映ったレイナードの眼を得物を見定めた獣のように鋭く光っていた。

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